平成28年度「自然の成り立ちと山の生業演習」を実施しました。
<演習名>
公開森林実習「自然の成り立ちと山の生業演習」
<演習の目的> 本格的なフィールド演習の未経験な非農学部生にも、中部山岳域における「自然の成り立ち」から森林作業と木材加工による「山の生業」までを安全に体験出来る初心者向けのダイジェスト演習として開講する。
1.中部山岳域における、初歩的な植物種の同定から、フィールドワークの実践、記録から取りまとめまでを一貫して身に付ける。
2.健全な森林を造成するために必要とされる造林および育林に関する基礎知識を習得する。
3.造林および育林作業における基礎的な作業内容、手順を理解し、実行することが出来る。
4.作業上の危険の認識や適切な安全確保が出来る。
5.木材の性質を理解し、適切な工具を用いて素材を加工、製品化することが出来る。
<実施日程> 平成28年9月13日(火)~9月16日(金) 3泊4日
<実施場所> 信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
野辺山ステーション・構内ステーション・手良沢山ステーション、筑波大学農林技術センター川上演習林
<担当教員> 小林元(准教授)荒瀬輝夫(准教授)白澤紘明(助手)木下渉(技術職員)野溝幸雄(技術職員)酒井敏信(研究支援員)長田典之(北海道大学助教)山崎友紀(北海道大学事務職員)松岡真如(高知大学准教授)鎌内宏光(金沢大学助教)高嶋敦史(琉球大学助教)新井大輔(山形大学技術職員)ティーチングアシスタント1名(信州大学大学院生)
【参加人数】 26名(信州大学農学部7名、信州大学理学部2名、工学部1名、人文学部1名、茨城大、岐阜大、筑波大各3名、北海道大、宇都宮大、京都大、和歌山大、島根大、高知工科大、鹿児島大、酪農学園大学、人間環境大各1名)
<スケジュール>
9月13日(火) 野辺山ステーション宿泊
12:00-12:00 野辺山駅集合
12:00-13:00 野辺山ステーションへ移動
13:00-14:00 実習ガイダンス
15:00-17:00 実習(野辺山ステーション散策、試料採集)
17:00-20:00 夕食、シャワー
20:00-21:00 アカデミックワールド
(教職員による研究紹介:山形大、筑波大、高知大)
21:00 就寝
9月14日(水) 野辺山ステーション宿泊
06:00-07:00 起床、朝食準備
07:00-08:00 朝食
08:00-12:00 実習(川上演習林にて散策、解説、試料採集)
12:00-13:00 昼食
13:00-17:00 実習(野辺山ステーションにて採集した試料の分析)
17:00-20:00 夕食、シャワー
20:00-21:00 アカデミックワールド
(教職員による研究紹介:北海道大、琉球大、信大)
21:00 就寝
9月15日(木) 手良沢山ステーション宿泊
06:00-07:00 起床、朝食準備
07:00-08:00 朝食
08:00-09:00 宿舎片付け
09:00-11:00 伊那キャンパスへ移動
11:00-12:00 伐採体験(構内ステーション)
12:00-13:00 昼食
13:00-17:00 木工実習(製材所)
17:00-18:00 手良沢山ステーションへ移動
18:00-22:00 夕食、シャワー
22:00 就寝
9月16日(金)
06:00-07:00 起床、朝食準備
07:00-08:00 朝食
08:00-09:00 宿舎片付け
09:00-11:00 実習(手良沢山ステーション内で植林地見学)
11:00-12:00 伊那キャンパスへ移動
12:00-13:00 昼食
13:00-14:00 レポート・アンケート作成
14:00-15:00 総括の後、解散
<概要>
本演習は、H28年度は教育関係共同利用拠点の連携校として、北海道大学が主催するフィールド講座の信州編として共同開催した。連携校のスタッフとして北海道大学の教員、事務職員および山形大学、筑波大学、高知大学、琉球大学から教員、技術職員がスタッフとして参加した。
初日は、ガイダンスと簡単な自己紹介を行った後、野辺山ステーションの散策を行った。ヤエガワカンバ等の野辺山周辺以外では余り見られない植物に多くの学生が興味を示した。夕食後のアカデミックワールドでは、山形大学、筑波大学、高知大学の教員・技術職員がそれぞれの演習林の特徴と研究紹介を行った。
2日目は、野辺山ステーションに近接する筑波大学農林技術センターの川上演習林にて、筑波大学の技術職員の案内のもと冷温帯落葉広葉樹林の植生とそこに成育する小型哺乳類(ヤマネ)の観察を行った。ヤマネは林内各所に仕掛けられた巣箱に成育しており、巣箱から抜け出すヤマネの姿に歓声が挙がった。広葉樹二次林では班ごとに10種類の樹木の枝葉を採取した。採取した枝葉は宿舎に持ち帰り、実験室で種ごとに見比べた。それぞれの樹種特性をグラフに表して班ごとに発表し、予想される結論について議論した。夕食後のアカデミックワールドの時間にて、北海道大学教員による当年枝の形態と森林樹木の成長について解説が行われた。
3日目は農学部構内ステーションに移動し、森林整備と木材加工を体験した。防護服に身を固め、チェンソーを使っての丸太の玉切りや、斧で薪割りを行った。森林作業を初めて体験する学生が多く、チェンソーの扱いに始めは緊張したが、やがて皆気分良く薪割りにいそしんでいた。木材加工では、演習林の間伐材を使って筆立てを組み立てた。ヒノキとカラマツの木片を手に取り、加工を施しながら樹種ごとに木材の性質の異なることを学んだ。夕方には手良沢山ステーションの学生宿舎に移動し、焚き火を囲みながら懇談会を楽しんだ。
最終日の4日目は、手良沢山演習林のヒノキ人工林の観察と鋸を使った枝打ち作業を体験した。木材生産を目的とする人工林では人の手による管理が欠かせないこと、人工林の経済価値についての見識を深めた。
<演習の成果と今後の課題>
本演習は「山岳環境保全学演習」と「森林生産実践演習」「木材工学演習」の3つの演習を融合し、本格的なフィールド演習の未経験な非農学部生にも「自然の成り立ち」から森林作業と木材加工による「山の生業」を安全に体験出来る初心者向けのダイジェスト演習として開講した。学生の作成したレポートやアンケートの結果を通じて、自然の動植物にのみ興味の高かった学生にも、森林と人との関わりについて積極的な関心を抱かせる良い機会を提供できたことが伺えた。本年度の演習は北海道大学が主催するフィールド講座の信州編として共同開催したことから、多くの教職員スタッフに恵まれた。次年度の本演習は信州大学公開森林実習として開講するが、北海道大学からは引き続き教育共同利用拠点の連携校として教職員を派遣していただき、演習プログラムの充実と安全の確保を図って行く予定である。
間伐材を使って筆立てを作成 ヒノキ人工林の観察
鋸を使って枝打ち体験 演習で作成した筆立て