センパイの肖像

学士山岳会ネムジュン登攀

信州大学登山隊、ヒマラヤを行く

信州大学山岳会とOBで組織する学士山岳会が、昨年9月初旬から11月中旬まで、ヒマラヤの山々にトライした。山の頂(ピーク)を目指す第一、第二チーム、トレッキングを楽しむ第三チーム、そして山岳会の貢献者だった故小川勝氏の追悼を目的とする第四チーム。総勢63名が参加したヒマラヤ遠征のクライマックスは、OB精鋭たちによるネムジュン登攀だった。

・・・・・信大NOW60号(2009.11.26発刊)より

ネムジュン西壁の初登攀成功!

ヒマラヤ山脈の登山

ヒマラヤ山脈の中でもネムジュン(7137m)は中国国境に近いペリヒマール山域のピーク。第一チームは先に、現役の学生江川信さん(理学部2年)を含む隊員6名で比較的難易度の低いヒムルン・ヒマール(7127m)を登頂している。ネムジュンには精鋭の4名(田辺隊長、角谷隊員、花谷隊員、大木隊員)が挑んだ。

ベースキャンプから標高差1200m、12キロの道のりを2日間かけて歩き、3日目に1000m近い氷雪壁を14時間かけて登った。4日目、高山特有の縦ヒダ状の雪の塊を横切るように進み、ついに頂上へ。
花谷隊員は「頂上に立ったうれしさなど微塵も湧いてこず、むしろここからの下降のことを考えると、これからが本当のクライミングの始まりと、感じました」とブログに綴っている。
頂上から下山を始めるが、疲労のため予定を変更して稜線で一泊。「とにかく寒くてつらい夜でした。この夜も、ほとんど食べることができませんでした」。

翌朝になると、大木隊員が冬山生活の基礎、水作りを始める。それを見た田辺隊長は「さすが信大山岳会、(こんな状態で)普通は何もできないだろうに…」とつぶやいた。

5時間にわたる氷雪壁の下降の後、装備類を回収。20キロ以上の荷を背負いながら、ベースキャンプまで残り12キロを歩いた。
花谷隊員は、登頂から下降まで「緊張感が途切れることがなく、いいクライミングができたと思います。信州大学山岳会の底力を見せることができた」と最後にはその充実感を語った。

危険を知る、大自然を冒険する

雪氷の中を歩く登山者

田辺隊長はヒマラヤ登山のことを「自己表現、自己実現ですね」と言い、危険との間合いの取り方を感じ取りながら登っている。花谷隊員は「悪天候の中で動くのは危険だが、晴れた日に厳しいところを登るのは危険というよりも困難なことです。困難を越えていく楽しみも山の醍醐味の一つ。他のクラブ活動ではなかなか味わえないですね」と言う。

身体にぽっかりと穴が開いてしまうような感動的な自然。そんなところに身を置いて冒険できるのが登山だ。
「国内なら危険を避ける方法はかなりのものがある。それを外さない限り恐れることはないでしょう。何もせずに生きていくよりも、やり遂げた喜びを味わってほしい」と歴戦の強者、田辺隊長からの若い人たちへのメッセージだ。大自然へ、山へ出かけてみませんか。せっかく信州にいるのだから。

日本の登山界を牽引する、田辺治隊長


田辺治隊長

たなべおさむ。1961年名古屋市生まれ。農学部卒業。ヒマラヤの登山家として世界トップレベルの実績を持つ。
今回のヒマラヤは25回目。
エベレスト南西壁冬季初登攀(1993)、ローツェ南壁冬季初完登西峰登頂(2006)など。冬季の8000m峰登山は、風、低温、日照時間などから最大限の困難と言われている。中でも3300mのローツェ南壁の厳しさは格別で、世界初8000m峰14座を全山登頂したというラインホルト・メスナーは「ヒマラヤの21世紀の課題」と表現した。田辺さんは3度目の挑戦でついに登り切った。「2度も追い返されたのですが、凍傷も骨折もなく、女神は最後に我々に優しくしてくれたと思いました。そうでなければ生きては帰れないようなところでした」。
「人を死なせない隊長」という紹介フレーズがある。

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