センパイの肖像

全日本弓道選手権大会で初優勝 平澤 敏弘さん

平澤 敏弘さん(大学院理工学系研究科修了)

 2014年9月に開催された天皇盃第65回全日本男子弓道選手権大会で、信州大学卒業生の平澤敏弘さんが初優勝し、長野県に史上初めての天皇盃を持ち帰った。また、読売新聞社が毎年選考する、スポーツ界でその年にもっとも活躍した選手に贈られる日本スポーツ賞の2014年弓道部門においても表彰されるなど、昨年は、平澤さんにとって飛躍の年となった。
 高校から弓道を始め、信州大学在学時も弓道部に所属し、毎日練習に励んでいたという平澤さんに、大学時代から、選手権大会優勝に至るまでのお話を聞いた。

(文・鹿野 なつ樹)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第92号(2015.3.31発行)より

Profile

日本電産株式会社 長野技術開発センター 平澤 敏弘さん
平澤敏弘さん

1982年長野県豊丘村生まれ。信州大学工学部卒業後、2007年同大学院理工学系研究科修了。日本電産株式会社に入社し、長野技術開発センターに勤務するかたわら、高校時代から始めた弓道を続け、2014年9月に行われた全日本男子弓道選手権大会において初優勝を果たす。弓道錬士六段。

全日本選手権大会を振り返って

全日本選手権大会決勝の様子
全日本選手権大会決勝の様子

 「自信はなかったですが、とにかく基本通りやりました。敵と戦うというよりも、自分自身との戦いですね」。
 平澤さんは過去3度全日本選手権大会に出場しているが、3度とも予選で敗れ、決勝戦へと歩みを進めたのは今大会が初めてだった。
 同大会では、出場選手全員による採点制の予選と、予選を通過した上位20名による的中制の決勝とが行われる。予選における採点対象は、射が的中したかどうかだけでなく、射形や、入場から退場までの歩き方や座り方、呼吸や目づかいなど、弓道における基本所作や立ち振る舞い全てを細かくチェックされ、点数がつけられる。そのため、経験が影響する部分も大きく、若手選手は苦戦を強いられることも多いのだという。
 また、つけられた点数はどこを評価され、どこで減点されたのか出場選手には知らされない。そのため、「どこの修正が必要なのかがわからないので、基本に返って練習を積み重ねるしかないんです」と平澤さん。今回も予選を終えた時点では「4本中1本は外してしまったし、これまで出場した大会と異なる特別な手応えがあったわけではなかった」という。しかし、練習の成果が実り、多くのベテラン選手たちの一角を食い破り、全体14位の成績で初めて予選を突破した。
 決勝戦は、合計10射の的中制。予選とは異なり、より多くの射を的中させた選手が優勝となる。平澤さんは20人の中でただ一人、全ての射を的中させた。「初の決勝戦で、もちろん緊張やプレッシャーもありました。10本を的に中てれば良いだけなんですが、的に『中てたい』という気持ちが全面に出てしまうと失敗するので、そういった気持ちをおしこめて集中しようと努力しました」と振り返る。張り詰めた空気の中、日ごろ鍛えた集中力と勝負強さが優勝を引き寄せた。

初めて長野県に持ち込まれた天皇盃

 優勝した者だけが直に手で触れることが許されるという天皇盃、持ち上げてみて「ずっしり重いです」と微笑んだ。
 選手権大会が始まって65年間、長野県の選手が優勝したことは一度もなかったが、平澤さんの優勝によって初めて天皇盃が長野県へと持ち込まれた。「本当にたくさんの方からお祝いしていただきました。うれしかったですね」。笑顔でそう語る。
 国体や選手権大会へ出場する際には、毎回特別休暇をもらって会社を休むという。「理解していただいていてありがたい」と会社への感謝も口にした。今回の選手権大会優勝で、「いつもお世話になっている会社に、結果を出すことで少し恩返しができたかなと思います」とうれしそうに話した。
 集中してひたすら弓道のことだけ考える練習の時間は、良いリフレッシュにもなり、「仕事へのモチベーションアップにもつながっていると思います」と語る。

天皇盃

優勝者だけが素手で触れる天皇盃。「ずっしり重いです」

祝賀会

優勝を受け開かれた祝賀会の様子。多くの弓道関係者らがお祝いに駆けつけた

練習は本番のように、本番は練習のように

 平澤さんが弓道を始めたのは高校1年の部活から。「身長などの体格によるハンデがないですし、大会では若い学生から90歳にもなるおじいさんまで一緒に出場して、誰もが平等に戦えるところに面白みを感じます」。〝精神スポーツ〟とも呼ばれる弓道。これまで続けてきたことで精神面が鍛えられたかと尋ねると、「まだまだ足りません」と謙虚に答えた。
 大学を卒業してからは仕事が忙しく、月に数回道場に足を運ぶ程度だったというが、リーマンショックの影響で時間的に余裕が出来たタイミングで、練習を本格化させ、国体と選手権大会を意識し始めたという。
 「本番をイメージした緊張感のある練習を心掛けています」。忙しい合間をぬって、毎日弓道の練習のための時間をとるようにしている。練習では本番を意識し、そして本番では、練習と変わらぬ気持ちで射るように努めている。「勝ちたいという欲を出さないようにすることが大切ですが、それが一番難しいですね」。

「去年より成長した」という実感を持って次回の選手権大会に臨みたい

 「大学時代に指導してもらったことは、今に生きていると感じます」。
 選手権大会以外の大会は、採点制ではなく的中制のものがほとんどだ。そのため、他大学では、姿勢等の基本所作よりも、的中させることを一番に考えるところもあると言うが、信州大学弓道部のモットーは、「基本を大事に」。
 「中てる弓」ではなく「中る弓」を部のスタイルとしてきた。的に中てることだけを考えるのではなく、弓道における基本をしっかりとこなす、それができていればおのずと矢は的に中るという考え方だ。大学時代から基本をないがしろにせずに練習を積み重ねてきたことが、今回の選手権大会優勝に深くつながっているといえるだろう。
 大学時代は、毎日授業が終わると弓道場まで走り、夜の11時過ぎまで練習することもあったという。「授業を受けるよりも弓を引いている時間の方が長かったですね」と笑う。
 「もちろん練習だけでなく、部活の仲間といろんな話をしたり笑い合ったりした時間も大切な思い出です」。当時を懐かしそうに振り返った。
 そんな平澤さんに次なる目標を尋ねると、「次回の選手権大会に出場し、そこでまずは予選を突破することです」と力をこめて答えてくれた。大会時は、道場にひな壇のような座が設けられ、ベテランの高名な範士らがずらりと並び、自分の射に視線が集中する。それに加え、前年度の優勝者となる平澤さんは、周囲からの注目も自然と集まるだろう。そんな中でいかに落ち着いて普段どおりの射ができるかが問われる。
 「去年より成長したな、という自信を持って大会に出場したいですね」。そう抱負を語ってくれた。

グアムに卒業旅行

学生時代研究室の仲間と行った卒業旅行、グアムでの1枚。
平澤さんは前列右

卒業式

卒業式。平澤さんは前列右から3番目

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