信州大学

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久富准教授、堂免特別特任教授を含む研究チームの論文がNature Materials誌に掲載されました

2021.01.12

 信州大学先鋭材料研究所 久富隆史 准教授、堂免一成 特別特任教授(クロスアポイント)、英国インペリアルカレッジロンドン Benjmin Moss博士、Shababa Selim博士、David J. Payne教授、Andreas Kafizas博士、Ludmilla Steier博士、James R. Durrant 教授、東京大学大学院工学系研究科 王謙博士、ラザフォード・アップルトン・ラボラトリー Keith Butler博士、レディング大学 Ricardo Grau-Crespo博士、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン Anna Regoutz博士、ブリティッシュコロンビア大学 Robert Godin博士らの研究グループは、可視光照射下で高効率に水から水素を発生する光触媒の電子構造を明らかにしました。



LaとRhを共ドープしたSrTiO3は可視光を吸収して水から水素を発生する光触媒であり、水から酸素を発生する光触媒と組み合わせば水を水素と酸素に高効率に分解します(研究ハイライト)。そのため、太陽エネルギーを水素エネルギーに変換する最先端の光触媒材料として注目を集めています。LaとRh共ドープSrTiO3の母体となるSrTiO3は可視光を吸収しない白色の光触媒ですが、Rhがドープされると可視光を吸収します。ただし、Rhは価数が変化しやすく、可視光活性の発現に有効なRh3+と活性を低下させるRh4+の両方が存在するために光触媒活性を引き出すことは難しいです。しかし、価数の大きなLa3+がSr2+サイトにドープされるとRhはRh3+の状態が安定となります。ここで、Rh4+がRh3+に変化することで生じるSrTiO3の電子構造の変化や、共ドープされたLaが電荷分離過程に与える影響を理解することができれば、より高効率な光触媒の開発に役立つ知見が得られまると期待されます。

本研究では、RhドープSrTiO3とLa、Rh共ドープSrTiO3の電子構造を分光電気化学、過渡吸収分光、計算化学、光電子分光などの手法を駆使して詳細に解析しました。RhドープSrTiO3の場合には、Rh4+が電荷をトラップするエネルギー準位をバンドギャップ内に形成する様子が確認されました。そのようなトラップ準位は光触媒の反応効率を低下させます。しかし、十分な負電圧が印加された状態では、Rh4+がRh3+に還元されるとともにトラップ準位が消失し、励起電子を効率よく利用可能な水素発生用の光触媒として機能するようになることがわかりました。さらに、La、Rh共ドープSrTiO3の場合には、負電圧を印加しない状態であってもRh4+が存在しないために、様々な反応条件で水素発生用光触媒として効率よく機能できることが明らかになりました。


本研究は、Rhの価数の制御の必要性を再確認するとともに、Laの共ドーピングがRh及びSrTiO3の電子構造の制御において、負電圧印加と同じ効果を有することを示しています。このことは、外部から電位を制御することができない粉末光触媒の電子構造を制御する上で重要な知見です。今回の研究成果は、電子構造が効果的に制御された粉末光触媒の開発に繋がると期待されます。

なお、本研究は人工光合成化学プロセス技術組合との共同によるもので、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素原料化機関化学品製造プロセス技術開発」事業の一環として行われました。



論文情報
題目:Linking in-situ charge accumulation to electronic structure in doped SrTiO3 reveals design principles for hydrogen evolving photocatalysts
著者:Benjamin Moss, Qian Wang, Keith T. Butler, Ricardo Grau-Crespo, Shababa Selim, Anna Regoutz, Takashi Hisatomi, Robert Godin, David J. Payne, Andreas Kafizas, Kazunari Domen, Ludmilla Steier, James R. Durrant.
掲載誌:Nature Materials, (2021)
DOI 10.1038/s41563-020-00868-2