齋藤直人教授(バイオメディカル研究所長)、上田勝也さん(博士課程総合医理工学研究科生命医工学専攻)の研究チームは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門ナノバイオ材料応用グループ中村真紀主任研究員、CNT機能制御グループ湯田坂雅子客員研究員らと共同で転移性骨腫瘍の治療に効果が期待される破骨細胞の抑制剤を内包した新規ナノ複合体を開発しました。

がんが骨に転移すると、がん細胞により活性化された破骨細胞が骨を溶かし、骨がもろくなるために痛みが生じたり、骨折により運動が障害されたり、患者の生活の質や日常生活動作が低下することが知られています。がんの骨転移の治療薬として破骨細胞抑制剤が使用されていますが効果が不十分であり、最適な薬剤送達系を用いた新しい転移性骨腫瘍治療法の開発が期待されています。本研究では、カーボンナノホーンにリン酸カルシウムを仲介させて、破骨細胞抑制剤であるイバンドロネートを複合化することに成功しました(図1)。作製した破骨細胞抑制剤内包ナノ複合体を培養した破骨細胞に添加するとナノ複合体は細胞内に多く取り込まれ、細胞生存率を低下させる細胞抑制効果を示しました(図2)。今後は、ナノ複合体の構造・組成や使用する破骨細胞抑制剤の種類等を検討して薬効を向上させ、動物実験などでさらに安全性や効果を検証し、新規ナノ複合体による転移性骨腫瘍治療の臨床応用を目指します。

本研究成果は、米国化学会が発行する学術誌ACS Applied Materials & Interfaces (インパクトファクター2019:8.758)のオンライン版に掲載されました。

【論文情報】
題目: Ibandronate-loaded carbon nanohorns fabricated using calcium phosphates as a mediator and their effects on macrophages and osteoclasts

著者: Maki Nakamura *, Katsuya Ueda *, Yumiko Yamamoto, Kaoru Aoki, Minfang Zhang, Naoto Saito **, Masako Yudasaka ** (*: equal contribution; **: correspondence)

掲載誌: ACS Applied Materials & Interfaces

日付:2021年1月7日(オンライン)

DOI:https://doi.org/10.1021/acsami.0c20923

プレスリリース(PDF: 527KB)


図1 破骨細胞抑制剤内包ナノ複合体の走査電子顕微鏡写真(左)、透過電子顕微鏡写真(中)、炭素(C、緑色)とカルシウム(Ca、桃色)の元素分布(右)(提供:産業技術総合研究所)

図2 破骨細胞抑制剤内包ナノ複合体、カーボンナノホーン、イバンドロネート添加48時間後の細胞生存率(サンプルを添加しない系(灰色)を100%として算出)(提供:産業技術総合研究所)