実験動物の膝関節内へのCNTの注入(左)、 12週後の関節内組織像(右)矢印はCNT

齋藤直人教授(バイオメディカル研究所長)、傍島淳医師(社会医療法人抱正会丸の内病院整形外科長)らの研究チームは、岡山大学、福岡大学、日本薬科大学らと共同で、カーボンナノチューブ(CNT)を複合した人工関節を開発しました。またCNTのようなナノ粒子を関節内に用いるために、遺伝子改変発癌性マウスの関節内に投与する等の新しい生体安全性評価方法を創出しました。

人工関節に用いる超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は摩耗しやすいため、現在ガンマ線等で架橋したUHMWPEが多く用いられています。これにより摩耗量が大幅に減少しましたが、架橋したUHMWPEは耐衝撃性が低いために破損する症例が報告されています。この様に人工関節には耐摩耗性と耐衝撃性というトレードオフの大きな問題がありました。本研究では、UHMWPEにCNTを複合して、架橋したクロスリンクUHMWPEと同等の耐摩耗性と、架橋していないUHMWPEと同等の耐衝撃性が得られました。また、CNTを複合したUHMWPEを実用化するために、CNTを遺伝子改変発癌性マウスの関節内に投与する等の新しい生体安全性評価技術を創出し、その安全性を確認しました(図)。この技術は様々なナノ粒子に応用することができます。本研究により新しい人工関節の実用化が進む可能性が広がるとともに、ナノ粒子を生体材料として関節内に用いる研究開発が発展することが期待できます。

本研究成果は、米国化学会が発行する学術誌ACS Biomaterials Science & Engineering(インパクトファクター2019:4.152)に掲載されました。また、同誌の中表紙に論文のイメージが採用されました。

〈論文情報〉
題目: Multiwall Carbon Nanotube Composites as Artificial

著者: Atsushi Sobajima*, Takumi Okihara*, Shigeaki Moriyama, Naoyuki Nishimura, Takako Osawa, Kazutaka Miyamae, Hisao Haniu, Kaoru Aoki, Manabu Tanaka, Yuki Usui, Ken-ichi Sako, Hiroyuki Kato, and Naoto Saito** (*: equal contribution; **: correspondence)

掲載誌: ACS Biomaterials Science & Engineering

DOI: https://doi.org/10.1021/acsbiomaterials.0c00916

ACS Biomaterials Science & Engineering の中表紙にイメージが採用