特集 体内埋め込み型 歩行アシスト サイボーグプロジェクト産学官金融連携

超高齢化社会を救う世界初の試み、究極のサイボーグ技術

特集 体内埋め込み型 歩行アシスト サイボーグプロジェクト

 国内の要介護認定者は現在600万人を超え、2020年には日本の人口の約3割が65歳以上の高齢者となる超高齢社会が到来します。(※1)
 そして現在、ロボットの技術開発は国家の成長戦略の柱になっており、2015年には一部のロボットスーツが医療機器認定を受けるなど、この超高齢化社会に向けた科学技術面の対策は加速度を増して進化しています。
 しかしなぜ、体内埋め込み型なのか...ロボットスーツの「着脱」という概念すら不要になり、介護する方も要らず、一人でどこへでも動け、どのような生活シーンにも困らなくなる、歩行ロボットの究極形を、このサイボーグ化技術で実現しよう、という世界初のプロジェクト(※2)なのです。
 高齢者や障がいがある方でも自立し、ストレスフリーで歩ける快適な未来...私たちの描く夢はそんなに遠くないと確信しています。

(※1)出典:「介護保険事業状況報告の概要」・総務省統計局「高齢者の人口」(人口推計 平成27年9月現在)
(※2)文部科学省運営費交付金特別経費(機能強化プロジェクト)


・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第98号(2016.3.29発行)より

なぜ、体内埋め込み型が理想であり、究極なのか。~サイボーグ技術が実現する快適な未来

Walking Assist Cyborg( Image)

Walking Assist Cyborg( Image)

3人に1人が高齢者となる時代が迫っています

 65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は、平成25年9月には25%となり、今後ますます増加していくと見込まれています。
 また約20年後の平成47年には、その割合は33.4%、3人に1人が高齢者となると予想されます。(※1)当然介護を必要とする方も増加。自立歩行が困難な方も増えていきます。生活する上で、自らの足で歩けないことは、心にも多大なストレスを与えます。
 自分の足で歩く、それは失って初めてわかる人間本来の喜びです。
 信州大学は2015年4月から、国の支援を受け、体内埋め込み型の歩行アシスト装置、すなわちサイボーグ技術の開発を行っています。すでに実用化の一歩手前にある体外装着型の歩行アシストロボットに残る、装着や持ち運びの手間、活動場所の制限などの課題を解決するもので、実現すればもちろん世界で初めてとなる試みです。

(※1)総務省統計局発表資料 「統計トピックスNo.90統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」より

介護とロボットはさらに密接な関係になる

 ロボット技術を介護に活用することは、「日本再興戦略」にも組み込まれる施策になっています。すでに実用化され、医療機器としての認定を受ける介護ロボットも現れ始めました。
 経済産業省と厚生労働省の働きかけの下、介護ロボットとして5分野の重点項目が発表されています。「移動介助」「移動支援」「排泄支援」「認知症の方の見守り」「入浴支援」。
 再び自立歩行が出来るようになり、体内埋め込み型に発展出来れば、多くの項目は解決され、介護者の負担も大幅に軽減されます。つまり、自立歩行出来るようになった本人だけではなく、その方の周辺にも貢献する。それだけ「歩行アシストサイボーグ」の成功は、社会に大きなインパクトを生み、期待されるプロジェクトなのです。

理想を追求すると「体内埋め込み」になる

体内埋め込み型が理想とされる理由

 体内埋め込み型技術が理想とされる大きな理由は3つ。そのひとつは「介護者不要」。歩行障害をサポートするロボットという概念では、現在はアシストスーツなどを“外部装着”する必要があり、高齢者や障がいのある方には、なかなかひとりでの装着は難しいものがあり、手助けする方が必要でした。この補助をする方が要らなくなります。
 二つ目は「持ち運び不要」。例えば旅行など、遠くに行く際に、これまでのロボットスーツは大きな荷物として“持ち運ぶ”必要がありました。この心配が要らなくなります。
 三つ目は「使用環境を選ばない」。例えばお風呂やトイレ、当然その都度、着脱の必要がありましたが、その面倒さから解放されます。
 理想であり、究極形とも言われるこれらの新しい仕組みですが、この夢の技術を実現するためには、様々な課題もあります。
 体のどの位置に、どのようにモータや固定ロッドを埋め込み、脚を動かすか、モータやバッテリーなどの小型・軽量化・耐久性、さらに体内で安全に機能させることなどを解決する必要があります。
 プロジェクトが終了する5年後には、ある程度これらの課題に道筋をつけ、さらに小型・軽量化した「curara®」を実用化し、体内埋め込み型の歩行アシストサイボーグ技術をプロトタイプの作製段階にまで到達させる計画です。

日本初の医・工・繊維連携 先鋭領域での融合研究

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信州大学の特色ある研究領域に資源を集中配分し、新たな融合研究領域を創造する先鋭領域融合研究群

 本プロジェクトは、信州大学の医療機器開発/脳神経疾患治療/運動機能評価技術(医学)とロボット/バッテリー/カーボン/ファイバー技術(工学・繊維学)を結集した日本初の医学・工学・繊維学分野の連携研究です。
 また組織では、信州大学の特色ある先端研究を結集した先鋭領域融合研究群のバイオメディカル研究所、カーボン科学研究所、環境・エネルギー材料科学研究所、国際ファイバー工学研究所の4研究所が、まさに“融合”した特色あるプロジェクトです。
 特に、生体材料や医療機器の開発を専門にする、バイオメディカル研究所の齋藤直人所長(生体医工学)と、生活動作を支援する体外装着型のロボティックウェア「curara®(クララ)」の開発者である国際ファイバー工学研究所の橋本稔教授(ロボット工学)、サイボーグ技術には不可欠といわれる、全結晶型二次電池の開発に、環境・エネルギー材料科学研究所の手嶋勝弥所長( 蓄電池部門長)が中心となります。
 プロジェクトでは、現在開発中の歩行アシストロボットと非接触充電バッテリーを小型・軽量・高性能化し、骨折治療に使われる骨髄内釘手術を応用して脚などに埋め込む技術を開発します。装置の生体安全性などの課題を乗り越え、最終的には自分の脚の動きを検知してモータが起動し、自然に歩行できるシステムを目指します。
 また、モータやセンサ、バッテリーなどの開発で定評のある国内企業との産学官連携体制を組んでいきます。

体内埋め込みに不可欠な「全結晶型二次電池」とは

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通常の電池構造は正極、液体電解質、負極の順に並んでいる。電解液が固体電解質に変われば、容積はぐっと小さくなり、小型化を実現できるとともに、エネルギー密度が高くなり、高出力が得られる

 バッテリー(蓄電池)を体内に埋め込むためには、性能を飛躍的に向上させる革新的な技術が必要です。信州大学先鋭領域融合研究群 環境・エネルギー材料科学研究所 蓄電池部門では、「フラックス法」という独自の結晶育成技術を活用し、高品質なリチウムイオン伝導性結晶を育成してきました。
 それらの結晶材料を使って、電池構造を全結晶化できれば、蓄電池のエネルギー密度の飛躍的向上とパッケージングのコンパクト化が期待できます。つまり、全結晶型二次電池は、歩行アシストサイボーグに搭載するだけでなく、電気自動車やウェアラブル機器等に搭載できる蓄電池の未来のあるべき姿なのです。(※詳しくは後述の手嶋所長のインタビューをご参照ください)

ベースとなるのが、あのロボティックウェア curara®(クララ)の技術。プロジェクトは、同時にロボティックウェアcurara®の実用化も目指す。

平成27年10月の国際福祉機器展でのデモンストレーション

そして開発のベースとなるcurara®の現在

 写真は平成27年10月7~9日、東京ビッグサイトで開催された国際福祉機器展でのデモンストレーションの様子。この展示会では毎年最新号機を展示しており、昨年は3号機と呼ばれる上肢下肢一体モデルを初披露しました。
 また、今回は従来の展示やデモンストレーションに加え、来場者に実際に装着いただくコーナーを設けたところ、連日予約が殺到し、身体の不自由な方はもちろん、多くの方の介護が必要となる超高齢化社会の到来が迫っていることを感じさせました。
 もともと、ロボティックウェアの発想は10年も前(※バイオ系ロボット開発を始めた経緯は後述の橋本教授のインタビューをご覧ください)の話になりますが、2010年に科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業A-STEP本格研究開発シーズ育成タイプの支援により本格的な開発が始まりました。
 その当時が「零(ゼロ)号機」と呼ばれますが、写真でご覧いただくとおり、当時は制御装置などは体に装着されておらず、固定式でした。その後、毎年、材質・制御装置など改良を重ね、現在の姿に進化しました。重量は上下一体型で制御装置も入れて約10kgの軽さを実現しています。

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意外に知られていないのが上肢タイプ。curara®は上肢、下肢、上下一体型の3種類が存在する。もちろんコントローラー(背中のボックスユニット)も別々のものになる。

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人に優しい“着るロボット”特徴と機能のおさらい

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(図1)健常者による実験

 これまで、この広報誌「信大NOW」でも何回か記事に取り上げてきた、話題の生活支援ロボティックウェア「curara®(クララ)」ですが、今回歩行アシストサイボーグ技術のベースとなることから、もう一度簡単に、その特徴と機能をおさらいしてみます。
 その特徴は大きく3つ。そのひとつが「同調制御法」で、動く、止まる、など、人の周期運動が作るリズムを利用してロボットを人に同調させる制御技術です。よってロボットにむりやり動かされる、ということがありません。また、座っている姿勢から起立する際に、屈曲動作から伸展動作へ移行するタイミングを判別し、同調性を除々に変化させて起立補助を行う制御方法も取り入れています。
 そして次が「相互作用トルク(力)検出法」。筋電電極の貼付が不要なセンサ技術で、人のわずかな動きも検知して、人に合わせたロボットの動きを生成します。歩行動作における検証実験でも、curara®の装着により、歩行時の周期と振幅が安定し、Uターンする際には人の動きに添うようにモータの振幅が変動することが判明しています。(図1)
 最後が「非外骨格型構造」、他の多くのロボットと決定的に異なる特徴です。人体骨格系を利用して関節の動きを補助することから、動きやすく、樹脂性フレームでボディは軽く、関節に固定することから装置の着脱が容易、さらに体格差への対応が容易というメリットがあります。
 「人とロボットのインタラクション(※後述 橋本教授インタビューをご覧ください)」を基本コンセプトとして生まれたcurara®が、なぜ「人に優しい」のか、おわかりいただけたかと思います。
 今後はさらなる小型軽量化に加え、ひとりで装着できるような工夫、膝折れ対策などを行い、実用化のための開発を続けます。

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国内企業との産学連携による共同開発

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 研究開発は、国内精密機器メーカーとの共同開発であり、2011年科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業A-STEP本格研究開発シーズ育成タイプ(※)の支援で実施されました。
※大学などでの研究成果を基に実用化を目指すための技術移転支援制度

プロジェクトのキーマンに聞く。サイボーグ技術でどんな未来を描くのか。

 近未来体内埋め込み型歩行アシストサイボーグプロジェクトは、先鋭領域融合研究群の4つの研究所の“融合”ユニットであることは先にお伝えしたとおり。この中でも、バイオメディカル研究所の齋藤所長(プロジェクトリーダー)、環境・エネルギー材料科学研究所の手嶋所長、国際ファイバー工学研究所の橋本教授の3名のキーマンの方々に、このプロジェクトにかける思いを聞いた。


齋藤 直人

齋藤 直人(さいとうなおと)
先鋭領域融合研究群
バイオメディカル研究所長
バイオテクノロジー・生体医工学部門長
学術研究院教授(保健学系) / 博士(医学)
1988年信州大学医学部卒業。同医学部附属病院医員。
1996年同医学部助手。
1999年同医学部講師。
2004年同教授。
2014年より現職。

手嶋 勝弥

手嶋 勝弥(てしまかつや)
先鋭領域融合研究群
環境・エネルギー材料科学研究所長
蓄電池部門長
学術研究院教授(工学系)/博士(工学)
名古屋市生まれ。2003年名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了。
2005年信州大学工学部助手、2010年同准教授。
2011年同教授。
日本フラックス成長研究会副会長。
2014年3月より現職。

橋本 稔(はしもとみのる)

橋本 稔(はしもとみのる)
先鋭領域融合研究群
国際ファイバー工学研究所
スマートテキスタイル研究部門
学術研究院教授(繊維学系) /博士(工学)
電気通信大学助手、鹿児島大学助教授を経て、1999年より現職。
研究分野はバイオロボティックス。



日本が世界をリードするイノベーションの象徴になるように(バイオメディカル研究所 齋藤所長)

―“体内埋め込み”という発想はどこから?また課題などについても教えてください

 記者会見でも質問が多く出ましたが、体内に何かを埋め込むということは、やはり一般的には怖いイメージがあるようですね。しかし実際の臨床では、骨髄内釘を埋め込むという手術は非常にポピュラーなもので、骨折などの処置として、整形外科では日常的に行われているものです。
 ですから、それにロボットなどの駆動技術で自立歩行するというニーズを加えたものが、体内埋め込み型のサイボーグ技術を発想した原点ということになります。これは応用できるな、と。
 よく、患者さんがリハビリをする際に言われるのですが、“歩けない方の歩行ニーズ”というのは通常4段階あります。最初は寝たきりの状態、次に挫位の状態( 座ることができる)。その次に介助しての歩行、最後は自立(独立)歩行。この介助から自立歩行の段階に至るレベルが、歩行アシストサイボーグ技術が一番真価を発揮するところだと思います。これさえあれば理想の自立歩行ができる。やはり信州大学が開発を進める生活支援のロボティックウェアcurara®(クララ)も同じコンセプトで開発されてきましたから、これをさらに進化させた形にするということです。
 また、世の中の介護ロボット類の開発に「体内埋め込み」という発想は少しはあったようですが、現実味はなく、空想の世界でした。ですから信州大学は、この理想でもあり、究極でもある技術開発に、正面から取り組もうということになりました。
 整形外科医として実際に体内に埋め込むことを考えると、バッテリーやモータが安全に機能するか、関節がきちんと動くかなど、きわめてハードルが高い研究開発プロジェクトであることを承知しています。各パーツの小型・軽量化・耐久性などはもちろん、スムーズな関節駆動方法の開発や生体親和性など人体との関連…課題は山のようにありますが、ひとつひとつクリアしていく覚悟です。


革新的な蓄電池、全結晶型二次電池の開発が産業構造を変える(環境・エネルギー材料科学研究所 手嶋所長)

―新しいバッテリーの特徴を教えてください

 一言でいえば「液体から固体へ」でしょうか。革新的な蓄電池「全結晶型二次電池」を作る、ということです。電池には通常の電池(一次電池)と繰り返し使用できる蓄電池(二次電池)があるのはご存知と思います。これらは共に、液体電解質(電解液)を使っています。電解液を使用した電池は、ガスが発生し膨張したり、活物質と反応して性能が低下したりという課題があります。このサイボーグの仕組みを考えた場合、体内でこのような現象が起きたり、液体が漏れ出すなどということは、絶対にあってはなりません。このように「安全性」を追求すれば、必然的に「全結晶(固体)型」に辿りつきます。…しかし、このような電池の実現には時間がかかります。次々世代型とも呼ばれる所以です。
 今回のもうひとつの課題はパワーでしょうか。限りなく小型・軽量化していながら、人体を動かすため、大きな出力が必要となり、しかも長時間使用が可能…さらに耐久性の観点では、何回も充放電できる「サイクル性能」を格段に向上する必要があります。総合的に考えても、やはり「全結晶型電池」の実現が不可欠です。

―ロボットの技術開発だけに限らない話ですね

 そうです。現在、金属空気電池(正極活物質に空気中の酸素を利用するアルカリ蓄電池の総称)も次世代型電池として研究されています。全結晶(あるいは全固体)型と共に、未来のモビリティ社会を見据えた蓄電池として期待されています。家庭用蓄電池と異なり、車に積載できるほど小さく軽く、しかも高エネルギーの電池が実現できれば、どこへでも持ち運んで使うことができるからです。“未来のクルマ”で使用できれば、ほとんどの産業に応用できると思います。この「全結晶型二次電池」の出口は無限に広がります。ハードルもそれなりに高いですが(笑)


人とロボットのインタラクションを目指すその究極がサイボーグ(国際ファイバー工学研究所 橋本教授)

―「バイオに学ぶロボットから、バイオと統合するロボットへ」とは

 もともとバイオ系ロボットの研究開発を始めたきっかけは「人とロボットのインタラクション」なんです。つまり人同士が行う動作を、人とロボットで実現してみたいと…。ですから初めの頃は「握手」という動作を研究してみました。一言で「握手」といっても、人によって手の大きさや力加減も違う、つまり、“その時々の能動的なやりとり”、「リズム」というニュアンスを合わせるための仕組みが必要で、結果、「神経振動子」を使った同調制御法が生まれました。むりやり動かされることのない、人に優しい制御法です。このように、人の動きに合わせるロボットを作る、という発想からスタートしました。そして、握手の次の段階ですが、やはり、直接人の役に立つものを作りたいと思うようになりました。人の生活を直接支援するロボットですね。現在のcurara®が生まれた、10年も前の話になります。

―超高齢化社会とcurara®、社会の反応はいかがですか

 “ 着る”ロボット、ロボティックウェアcurara®を作ってみたら、とにかく反響の大きさに驚かされました。高齢化社会を迎えたということもあり、世の中には身体が不自由で困っている方が大勢いて、早く治したい、生活を改善したいと願って暮らしています。国際福祉機器展には3年前から出展し、curara®をご覧いただいていますが、「すぐに欲しい」という方、介護される方が直接ブースにお越しになって、切実な状況が伝わってきます。年々高まる、そのニーズの広さと強さには驚きすら感じています。curara®の開発はこのように、周りからの期待の大きさに押されて加速してきた感があります。ですからこの研究はいつでも新鮮でもあり、世の中の役に立てる、という自負を持っています。

―現在の3.5号機から最終5号機レベルへ…今後のビジョン、課題などを

 そのようにマーケットには強いニーズはあるものの、一方で開発技術が追いついているかというと、まだまだ限定された領域でしか実用化できていない。今後は、いくつかの要因、例えばアクチュエーターが大きい、重いなどの改善を行いますが、さらに一番問題となる「装着したときの違和感」が大きな課題です。長時間装着していると負担に感じてしまう…などの問題ですね。人に優しいロボットは、感性工学の原点、まさに「人とロボットのインタラクション」というテーマに行き着きます。
 また、サイボーグ技術に求められる究極の小型・軽量化、生体親和性などですが、今の技術の延長で実現できるのか、という課題もあります。システムが必要な力を出すために、まったく新しいアイデアや原理、というものも必要になるかもしれません。これからcurara®は2020年の実用化を目指し開発を進めますが、いままでは楽しかった研究も今度は厳しさ、でしょうか(笑)
 産学連携もさらに進め、どんどん輪が広がるように企業にも積極的に参画いただいていこうと思います。

世界に誇る、特色ある研究をパワーアップ! 先鋭領域融合研究群、開設3年目。―中村 宗一郎 新研究群長に 聞く―

 これまで紹介してきた歩行アシストサイボーグプロジェクトに象徴される、信州大学の特色ある研究の推進を重点施策とする先鋭領域融合研究群。まずは5つの研究所が、融合的研究を進めているが、組織を開設してから早くも3年目を迎えた。
 開設当初より群長を務めた濱田州博(くにひろ)現学長の後継として、二代目の研究群長を務める中村宗一郎理事・副学長に、同研究群の時点の到達点と今後の展望について聞いた。

(文・毛賀澤 明宏)

先端研究の推進と若手研究者の育成

信州大学 中村宗一郎氏

理事(研究、産学官・社会連携担当)、副学長、先鋭領域融合研究群長
中村 宗一郎(なかむらそういちろう)
2005年4月信州大学農学部教授
2010年2月同農学部長
2011年4月同総合工学系研究科長(2013年3月31日まで)
2012年6月同副学長、2014年4月同学術研究院農学系長
2015年10月同理事(研究、産学官・社会連携担当)、副学長、先鋭領域融合研究群長

―研究の選択・集中・融合の成果は?

 先鋭領域融合研究群は、ここ2年間、社会が直面する困難の克服と新しい価値の持続的な創出を実現するため、従来の思考の枠組みと専門の枠を超えた俯瞰力と想像力で、新たな課題に取組む研究環境の整備を進めてきました。若手中心の専任研究者の集中、外国人特別招へい教授との協働、学系や分野を超えた融合と協働の体制構築などを進め、フロンティアファイバー、バイオメディカル、ファイバー、ナノカーボン、水処理、エネルギー貯蔵デバイス、複合材料、蓄電池、燃料電池、山岳科学などの領域で優れた成果を生んでいます。


―注目するべきプロジェクトは?

 例えば、体内埋め込み型歩行アシストサイボーグプロジェクトや、体に装着したまま血圧などを長時間にわたり測定できるウエアラブルバイタルサイン測定システム開発プロジェクトなどは、近い将来に社会実装が可能な優れた取組みです。文科省の革新的イノベーション創出プログラムに採択されているアクアイノベーション拠点(COI)と連携した水資源循環技術の開発研究もナノカーボンやファイバーなど信州大学の強みを活かした世界的な研究です。その他、枚挙に暇がありません。


―研究成果の教育体制への反映は?

 こうした先鋭領域融合研究群の研究成果を信州大学の教育体制に反映させるために、学科横断の教育プログラムを実施したり、2015年度には理学部と農学部の改組を行ったりしました。2016年度には工学部と繊維学部、理工学系研究科と農学研究科(修士課程)の改組も予定しています。そもそも、教員組織を、教育組織(学部)から分離し、3学域10学系の学術研究院を設置したのもその一環でした。先鋭領域融合研究群は信大改革の牽引車としての役割も果してきているのです。


象徴は3人のライジングスター

―若手研究者育成で特筆するべきことは?

 2016年1月6日に、信州大学で初のライジングスター(Rising Star=通称RS)認定教員の辞令交付式が行われました。RS教員は、先鋭領域融合研究群に配置した新進気鋭の若手研究者の中から、特に優れた人を選び、その分野でのリーディングスペシャリストへと成長してくれるよう、研究資金や研究時間の確保や業績評価の面などで優先的に支援する制度です。
 ナノファイバーを大量に創出するエレクトロスピニング法を開発し、ナノファイバーの様々な活用法を開発している金翼水(キムイクス)准教授(国際ファイバー工学研究所)。多能性幹細胞(iPS細胞)を使った再生医学を社会実装の一歩手前まで進めている柴祐司准教授(バイオメディカル研究所)。
 そして、信州大学が生んだ健康法=インターバル速歩の定着率や効果を遺伝子や心理指標など様々な視点から掘り下げ、超高齢社会における運動を核にした予防医学の確立を研究する増木静江准教授(バイオメディカル研究所)。この3人のRS教員の誕生こそ、先鋭領域融合研究群の2年間の歩みを象徴するものだと思います。


次代クラスター研究センターの設置へ

先鋭領域融合研究群

―先鋭領域融合研究群の新たな挑戦は?

 先に述べたような成果を踏まえて、新たな歩みを始めなければならないのですが、5つの研究所での、またそれら相互の、「クロスブリード」(領域・学系を超えた融合と協働)による発展を通じてこれまでの研究をさらに進展させることが柱であることは言うまでもありません。
 これに加えて、先鋭領域融合研究群では、5つの研究所の他に、さらに、数年後には新たな研究所として機能することが期待できる「研究センター」を設置することにしました。それらを総称して「次代クラスター」と呼ぶことにしています。2016年度には、この研究センターを担うアイデアを持った教員集団を募集したいと考えています。
 現在の5つの研究所の研究を一層高めると同時に、研究群の研究の裾野をさらに広げる試みです。


―評価の客観的基準は何に求める?

 研究の成果をどのようにして評価するかは様々基準があり難しいところですが、何より、「ネイチャー」誌に代表される科学誌に掲載される論文数が重要です。また、その論文が重要であれば、世界中の研究者たちがそれを引用するわけですから、引用された数=被引用数も重視します。現在、被引用数において、繊維材料分野や複合材料分野などが世界的にも上位に入っており、更なる上乗せを図りたいと思います。
 また、世界の大学ランキングで、信州大学は現在600位から800位のグループ内に、位置していますが、それを、もうワンランク上の500位から600位のグループにまで上げたいと思います。そのために効果が大きいのが論文の数と質であり、その意味でも、先鋭領域融合研究群が果たすべき役割は大きいのです。


人文・社会系にもウイングを拡大

―理工系と人文・社会系の融合は?

 先ほど「次代クラスター」のことを話しましたが、ぜひ、人文・社会系の教員の皆さんにも積極的に手を挙げていただきたいと願っています。ナノカーボン、ファイバー、機能性材料、蓄電池、燃料電池などの先端研究は、今や、マーケティングやライフデザイン、美術・芸術とも深く関わってきていますし、「長寿」というバイオメディカルの一つのテーマも、食やそれを支える農業や地域の暮らし・文化の面からも研究が深められるべきだと思います。世界有数の長寿地域である長野県の特性にこだわり、それを文理融合の視点から包括的に研究していくことは、きっと世界中の人々の役に立つと思いますし、信州大学の強みを磨き上げることにつながると思います。


国際社会の安定と発展への貢献を目指して

―研究群長としての抱負・夢は?

 冒頭にも述べましたが、先鋭領域融合研究群が目指すことは、社会(ひと・まち・くらし)が直面する困難の克服と新しい価値の持続的創出です。信州という地域に根ざして、ここで生起している困難を克服するために、グローバルな視野と、専門研究者の枠を超えた協働を創り出していけば、それは必ずや、国際社会の安定と発展につながると確信しています。招へい研究者をはじめ海外に拡がるネットワークも十分に活用し、この信州から国際的な研究を拡げていきたいと思います。

文部科学省ミュージアム「情報ひろば」での企画展示(終了しました)

平成28年4月1日~7月21日※午前10時から午後6時 入館は閉館の30分前まで 土日祝日を除く joho_hiroba.jpg 信州大学「近未来体内埋め込み型歩行アシストサイボーグプロジェクト」は、上記期間で文部科学省「情報ひろば」企画展示室に展示ブースを設けています。 生活支援ロボティックウェアcurara®の実機展示はもちろん、歩行アシストサイボーグについてもCG映像やイメージ模型などでその技術を解説しています。入場無料ですので、是非ご覧になってください。 文部科学省情報ひろば「企画展示室」(※入場無料)
東京都千代田区霞が関3-2-2 旧文部省庁舎3階 mext_map.jpg

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