膵ランゲルハンス島を移植して糖尿病を治す

日本人の約1割が罹患している糖尿病には、自己免疫疾患により血糖値を下げるホルモンのインスリンが分泌できなくなる1型糖尿病と、食生活の乱れや運動不足といった生活習慣に起因してインスリンが効きにくくなる2型糖尿病があり、いずれも網膜症、腎不全、末梢神経障害などの合併症を引き起こすリスクがあります。前者の1型糖尿病に対して、インスリン投与による対処療法に代わるものとして最近、単離した膵ランゲルハンス島 (以下、膵島:この中にあるβ細胞がインスリンを分泌) を移植する根治療法が注目されています。保地 眞一 教授 (応用生物科学科) は、ラットの膵島を−196℃で長期保存してもグルコースに反応してインスリンを分泌する能力を保持しており、糖尿病ラットの腎被膜下に移植すれば血糖値が正常回復することを確認しました。このとき、多くの哺乳類において未受精卵子の保存に有効なことが実証され、保地研究室にも十分なノウハウの蓄積がある "超急速ガラス化保存法" が外径250 µm以下のラット膵島に適用でき、ナイロンメッシュや生体適合性が高いシルクフィブロイン製スポンジがガラス化デバイスとして利用できることもわかりました。現在、ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞から膵島への分化誘導、巨大・極小膵島から適正サイズ膵島の再構成、移植膵島に血管新生を促進する足場材料の構築、といった実験にも挑戦しています。
生殖工学・発生工学・低温生物学という学問領域の土俵上で「配偶子 (精子、卵子) や受精卵の保存に関する研究」をメインに据え、論文発表を中心に研究活動を行ってきた保地研究室ですが、今からおよそ7年前、ある学生のリクエストに応える形で「膵島の保存ならびに移植に関連した研究」をゼロからスタートさせました。今ではそれぞれが研究室を牽引する研究テーマの両輪を成すようになり、研究室所属の学生メンバーが切磋琢磨する毎日を過ごしています。
(掲載期間 令和 2年 11・12月)