塩害耐性が向上したイネ栽培品種の作出を目指して

近年の気候変動の影響により、土壌水や海水由来の塩類が土壌表層に集積する現象が、世界の農地で急速に増加しています。過剰な塩類集積は塩ストレスとなり、植物の成長や生産性を著しく減退させる "塩害" を引き起こします。重要な穀物である米を生産するイネは、穀類で最も塩ストレスに弱い作物です。土壌の塩類化の影響を受け、東南・西アジアの稲作地を中心に、塩害による米の減収が年々、深刻化しています。
応用生物科学科の堀江 智明 准教授の研究室では、塩害耐性が向上したイネ品種の作出を目指した研究を進めています。塩害を引き起こす要因の一つは毒性イオンであるNa+ (ナトリウムイオン) の植物体内への高蓄積ですが、植物が持つ防御機構の全容は不明なままです。近年、驚くべきことに、植物細胞の水の吸収・排出を担う水チャンネル (アクアポリン) の中にNa+も透過させる分子が存在すると示されました (右図)。実際に私たちは、イネの水チャンネルの一つに強いNa+輸送活性が存在することを確認しました。
現在、国内外の大学と国際共同研究チームを発足させ (こちら)、この不思議な機能を持つ輸送体の耐塩性への影響を精査し、塩害耐性品種の作出への応用に結び付くか、検討を始めました。
(掲載期間 令和元年11・12月)