脳震盪を科学する

中楯 浩康
教員氏名 中楯 浩康
職名 准教授
所属 機械・ロボット学科
研究分野

生体力学、神経外傷

研究課題

(1) 繰り返し低ひずみ負荷を受ける脳神経細胞の軸索損傷評価

(2) 外傷を受けた神経細胞の電気刺激による回復効果

(3) 衝撃圧力負荷に対する脳毛細血管の耐性評価

出身校 慶應義塾大学
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一言コメント

物理的な諸量を"はかる"という場合、重さを量る、長さを測る、速度を計る、などを連想し、単位もはっきりしていて直感的でわかりやすいものです。一方、生き物の状態を"はかる"となるといろいろな尺度をもって対象の状態を推察するということであり、いろいろな方法や解釈が生まれます。また複数の測定結果を総合して状況を判断することも必要になってきます。

研究紹介

脳震盪の発生メカニズムを探る

神経細胞の軸索に衝撃負荷がかかると局所的な膨張 (=軸索瘤) が出現し、細胞間の情報伝達が阻害される。

神経細胞の軸索に衝撃負荷がかかると局所的な膨張 (=軸索瘤) が出現し、細胞間の情報伝達が阻害される。

柔道、サッカー、ラグビーなどのコンタクトスポーツでは頭をぶつける場面が多々あります。頭をぶつけてすぐには起き上がれなかったり、その時は何ともなかったのにぶつけた後のことを思い出せなかったり、といった経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。これがいわゆる "脳震盪" です。脳震盪を繰り返すと、記憶力や注意力の低下、認知症の症状などを引き起こすことが分かり、社会の注目を浴びるようになりました。頭部を強打したとき、私達の頭の中では急激な加減速により脳が変形し、脳内に無数にある神経線維 (神経細胞の軸索部) がダメージを受けます。しかし、どの程度の衝撃で脳に障害が発生するのか、損傷した脳は回復するのか、という疑問はまだ解決していません。

機械・ロボット学科の中楯 浩康 准教授は、頭をぶつけた際に脳に生じる現象について研究しています。神経線維に対して実際に衝撃を加える実験を行って安全な範囲を数値化 (耐性値の決定) したり、損傷した神経線維に電気的・力学的刺激を与えて脳を活性化する方法について検討しています。これらの研究により、自動車の安全基準の見直しや新たな医療技術の開発につながることが期待されます。

(掲載期間 平成30年11・12月)

細胞の状態を"測り"、生体に与える影響を"推し量る"

柔道、サッカー、ラグビーなどのコンタクトスポーツにおいて脳震盪を繰り返し受傷すると、脳は刺激に対して脆弱、敏感になり、追加される外傷に対する閾値が低下し、外傷が軽度であっても重症頭部外傷後にみられるような記憶力や注意力の低下を引き起こします。一般的に、交通事故などで頭部を強打すると、頭部の急激な加減速により脳組織に慣性力が働き変形します。脳組織の変形は神経細胞間の情報伝達を担う神経軸索に引張応力を与え、損傷や断裂を引き起こします。脳震盪においても少なからず軸索損傷が起こっていると考えられますが、細胞生物学的な知見は少ないです。繰り返し脳震盪における軸索損傷の重症化メカニズムを明らかにするため、脳神経細胞の衝撃試験を通して、神経軸索の耐性値を開発しています。

 

 
頭部外傷時の脳組織変形を実験的に再現するための細胞引張装置。引張・せん断ひずみが神経損傷を引き起こすメカニズムや損傷閾値を分子生物学・電気生理学的手法により評価する。   通常培養では無秩序な方向に伸長する神経軸索 (矢印) を引張方向に配向制御することで、個々の軸索にひずみを一様に負荷し、引張前後で同一細胞を観察する。

 

≪研究から広がる未来≫


様々な細胞の状態を正確に"測る"ことができれば、細胞状態が生体に与える影響を"推し量る"ことができるかもしれません。外傷を受けた脳神経細胞や脳毛細血管の状態がどのような挙動を示すかを正確に知ることで、損傷程度の予測や機械的な損傷機序解明の一助となり、新たな診断法や創薬に繋がることを期待します。