第8回シンポジウムでのご質問への回答

2月2日に開催したアクア・イノベーション拠点第8回シンポジウム(オンライン)において、
参加者の皆様からチャットやQ&Aで寄せられたご質問に回答いたします。
【1】海水淡水化用の膜・モジュールについて
Q:使用しているカーボンナノチューブ(CNT)は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)か?
➥ A:流通面、価格、性能等を考慮し、MWCNTを使用しています。
Q:CNTの長さ、径、アスペクト比と処理性能との間には関連性があるか?
➥ A:CNTの形状によって分離膜としての性能に大きく関係しています。
Q:CNTとポリアミド(PA)との混合比はどのように決めているのか?
➥ A:理論解析およびCNT混合比の異なる試作膜の性能評価から、最適な混合領域を
把握しています。
Q:CNTを複合すると膜の価格が上がると思う。価格が上がっても、従来のRO膜よりも
メリットが出るのか?
➥ A:活性層が100nm程度と薄いので、CNTの価格と使用量から材料費の増加はごくわずか
です。製造も含めたコストは今後、精査していきます。
CNT複合膜は汚れにくいという特長があるため、膜の洗浄等に要する労力や薬品を、
大幅に削減できるというメリットを発揮できます。
Q:開発膜の市販のRO膜に対する費用対効果はどの程度か?
➥ A:開発膜の使用により、造水コストを2割以上削減(ホウ素除去が必要な海域は3割以上)
できると推定しています。
Q:開発膜の交換頻度(寿命)はどの程度か?
➥ A:膜の寿命は、薬品洗浄等に大きく関係しています。
開発膜は汚れにくいため、薬品洗浄の頻度が少なく寿命が長くなると推定しており、
実証試験を継続することにより、その効果を見極める予定です。
Q:CNTの代わりにGO(酸化グラフェン)を配合したら、何か特徴が得られないか?
海水淡水化においては、CNTの方がGOよりも性能が優れているのか?
➥ A:現在、GOとPAを複合化することは対象外としています。
GOはグラフェンと混合して、特定の有機物等の優れた分離選択性を有する分離膜を
実現しています。
Q:開発モジュールの目標値に対し、Fluxは達成が厳しいように見えた。原因はCNTなのか?
どのような対策が考えられるか?
➥ A:これまで脱塩優先で進めてきており透水性はCNT複合が直接的な原因ではありません。
理論解析によってCNT添加の高い透水機能発現への寄与が示されており、今後、
対策を急ぎ、Fluxの目標達成の見込みです。
【2】海水淡水化の実証試験・社会実装について
Q:ウォータープラザ北九州に設置した実証施設では、ウォータープラザ内で前処理した原水を
使用しているのか?
➥ A:現在の試験では、くみ上げた海水(原水)をUF膜で前処理した海水を使用しています。
Q:北九州の実験で、透水後の膜の付着物量はどのように算出したのか?
➥ A:試験に使用した膜モジュールを解体し、膜表面の付着物を採取。
膜付着物サンプルを、105℃、2時間以上乾燥した後の重量と、膜付着物採取エリアの
面積から、単位膜面積あたりの付着物量を算出しています。
Q:今後、CNT/PA複合膜が既存の膜と入れ替わっていくための課題は?
➥ A:海水淡水化への実装については、技術、コスト、生産、事業展開戦略など様々な課題を
想定しており、研究開発と並行して事業を通した社会実装の検討を進めています。
【3】アフリカ等の水環境改善について
Q:タンザニアの水にはなぜフッ素が多く含まれるのか?
➥ A:タンザニアを含むアフリカ東部には、南北方向のグレートリフトバレーと呼ばれる
大陸分裂帯(大陸の裂け目)が走っており、オルド二オレンガイ火山など、
アルカリ火山活動が盛んで、その火成岩中にフッ素が濃集しています。
メルー山も30万年ほど前まで活動していた火山で、火山から噴出する火山砕屑岩は
火山本体をつくり、また、地下水の帯水層になっています。
降雨が地下に涵養し、地下水となって帯水層を構成する高濃度のフッ素を含む岩石や
火山灰に接触すると、岩石から地下水の方へフッ素が溶出してくるため、
地下水や湧水、それが表層に流れ出た河川水中に高濃度のフッ素が含まれます。
タンザニア内陸部も花崗岩という深成岩が分布していますが、この岩石にもフッ素が
多く含まれています。
これらの地域では岩体の風化帯や断層破砕帯が地下水リザーバーとなっていますが、
同様にフッ素の溶出が起こり、水源地の地下水には高濃度のフッ素が含まれます。
Q:アフリカなどの途上国をターゲットにしたとき、利益を生める、もしくは、
生める可能性がある収益モデルをつくることができるのか?
➥ A:ビジネス環境を把握すべく、アフリカの大学等と連携しながら情報を収集しており、
情報を基に収益モデルに関して拠点内で議論しています。
Q:途上国での収益が見込める場合、地元企業が関わっていく機会はあるか?
➥ A:フッ素吸着剤に関しては、現地原料の使用や簡易デバイス化について、国の研究機関や
地元企業との連携の可能性が考えられます。
またフッ素センサでは、アプリ開発やデバイス部の現地化のための技術指導など、
地元企業等、国内の企業との協業が必要になると考えています。