ごあいさつ

国立大学法人信州大学
学長

濱田 州博

 信州大学は、山々に囲まれた自然環境を大切にし、人に優しい社会を目指して教育・研究を行い、地域の企業や社会と連携した取り組みを積極的に展開してきました。研究面では、自然との調和のもと、世界に通じる独創的研究を学際的に推進しています。
 COIプログラムは、10年後の日本が目指すべき姿を見据えたビジョン主導型の研究開発であり、アクア・イノベーション拠点は「世界中の人々がいつでも十分な水を手に入れられる社会」の構築を目指しております。実現に向けて取り組んでいるのが、革新的な「造水・水循環システム」です。ここでは、本学の強みであるナノファイバー工学や材料科学の研究を中心とした全学の英知を結集するとともに、参画研究機関や企業とのオールジャパンの研究体制を組み、ナノ濾過(NF)膜や逆浸透(RO)膜の研究と同時に、社会実装に向けたモジュール化、システム化を目指しております。一口に社会実装といっても、その場所や目的によって非常に多様で、異なる視点から考える必要があります。このため皆様のご協力・ご支援をよろしくお願い申し上げます。

長野県知事

阿部 守一

 アクア・イノベーション拠点として「信州大学国際科学イノベーションセンター」が設置され、日立製作所や東レをはじめ、多くの企業や研究機関等の皆様が集まり、世界の水問題を解決する「革新的な造水・水循環システム」の実現に向け、本県が誇るナノカーボン技術を応用した新しい水分離膜等の研究開発にご尽力を賜り、感謝申し上げます。
 本事業は、県の総合5か年計画「しあわせ信州創造プラン」の次世代産業の創出に結び付く取組として、大いに期待しているところです。
 県としても、本事業に参加し、高い技術力を持つ県内企業の参加促進を図るための技術交流会への支援等、研究開発の早期事業化に向け、今後も積極的に推進してまいります。
 関係各位が益々ご活躍されますとともに、本拠点の研究開発が革新的な成果を生み、未来社会の発展に大きく貢献されますことを祈念申し上げます。

プロジェクトリーダー

株式会社日立製作所
水・環境ビジネスユニット CTO

大西 真人

 我々が生存していくために、水が必須であることは言うまでもありませんが、現実は世界的な水不足や汚染が発生し、全ての人々が安心、安全な水を得て生活している訳ではありません。2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標6では、2030年までにすべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保するとしており、目標実現に向けた取組みが重要となっています。
 本COIでは、信州大学の突出したナノカーボン技術をベースに、イノベーティブな造水・水循環システムの社会実装を目ざしてきました。9年間のプロジェクトも最終段階を迎え、今後さらにカーボン技術を進化させ、高品質でロバストな分離膜を製膜、モジュール化、システム実装することで、人々の豊かな生活の実現と社会発展に貢献します。

研究リーダー

国立大学法人信州大学
特別栄誉教授

遠藤 守信

 21世紀の人類の持続可能性を左右する最重要課題の一つは、水問題です。本プロジェクトは、造水の科学と技術で革新を実現して豊潤な飲料水、産業用水、農・畜産用水を利用可能とし、さらに資源採掘に際しての随伴水処理や海水等からの希少資源回収にも応用展開しようとするものです。
 この造水イノベーションに向けて、本拠点ではナノ炭素体によるテーラーメードの革新的ロバスト造水膜とそのデバイス化、造水プラント・システム化、水循環シミュレーション等のR&Dをコンカレントに推進します。信州大学を中心に実績を誇る各参画メンバーがオールジャパン体制で集結し、産官学連携研究を推進します。
 本プロジェクトによって世界展開ビジネスモデルを構築し、国内外、地域での新産業の創出に寄与し、もって造水の科学と技術のイノベーションで豊かな地球水世紀の実現を目指します。

サブプロジェクトリーダー

東レ株式会社
地球環境研究所 所長

高橋 弘造

 きれいな水と衛生へのアクセスは、「持続可能な開発目標(SDGs)」に掲げられたグローバルな目標の一つです。安全・安心な水を確保するために、分離膜は、その技術進化もあり、海水淡水化、超純水製造、浄水処理、下廃水再利用などに適用されています。海水淡水化では、逆浸透膜を中心に、世界中で約3千万トン/日以上を造水し、飲料水や生活用水の供給を支えています。
 様々な水質をもった水域において、分離膜を用いた水処理プラントが拡大する中、分離膜の汚れによる運転リスク、トラブルが顕在化しています。分離膜による造水技術において、汚れに強い膜、そして、さらなる省エネ・ロバスト化による造水コストの低減が、喫緊の課題です。
 さらには、これまで利用されなかった様々な水に分離膜技術が適用できれば、世界規模で不足する水や資源の循環が可能となることも期待されています。
 アクア・イノベーション拠点で信州大学を中心に、産官学連携を密にした研究・開発を進めており、分離膜技術のさらなる飛躍が期待されます。

昭和電工株式会社
取締役 常務執行役員
最高技術責任者(CTO)

田中 淳

 アクア・イノベーション拠点(COI)の発足にあたり一言ご挨拶を申し上げます。
 人類が暮らす地球は水の惑星ですが、実は我々が利用できる水(淡水)は地球上の水の約0.01%にすぎません。
 多量にあるようで実は限られた資源である水を人類の発展のために有効に利用する方法を開発することは、この時代に生きる我々の使命であると言えます。
 さらに安全な飲用水ですら確保できない人々が世界に大勢いること、水資源が紛争や食料問題等の原因にもなっていることも見逃せない事実です。
 今回、信州大学を中心に新しい「造水・水循環システム」の革新的な技術開発を進めることは、これらの問題解決に向けた取り組みとして非常に有意義なものと思います。
 弊社もカーボン材料を中心とした技術開発の一翼を担うべく努力して参りたいと思います。

サテライトリーダー

国立研究開発法人理化学研究所
環境資源科学研究センター
環境代謝分析研究チーム チームリーダー

菊地 淳

 国立研究開発法人理化学研究所(理研)は、日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、計算科学、生物・医科学などに及ぶ広い分野で研究を進めています。また得られた研究成果を社会的課題の解決に役立てることも重要な使命です。
 本拠点には理研から前田バイオ工学研究室、杉田理論分子科学研究室、環境代謝分析研究チーム、バイオプラスチック研究チームが参画し、次世代の水浄化膜開発のための基礎研究を進めています。膜の基本構造であるポリアミドと水の相互作用を計算科学から予測し、これが赤外分光法による実測値と一致することを明らかにしました。また膜の防汚性を評価する手法を独自に開発するとともに、機械学習による海水淡水化膜のファウリング予測モデルの作成を進めています。COIが標榜するアンダーワンルーフのコンセプトのもと、緊密な連携研究を進めます。

サブ研究リーダー

サブ研究リーダー
(原子構造解析)

国立大学法人信州大学
教授(工学系)

林 卓哉

 私のミッションは、水の浄化や淡水化のために開発するカーボン膜について、原子・分子レベルでの相互作用や水分子が透過するメカニズムを明らかにし、分離・精製効率の高い炭素膜を得られるように理論的に貢献することです。
 具体的には、電子顕微鏡などで孔の形状、膜の厚み、密度などを推測し、これらのデータを使って水分離膜の構造をモデル化します。 そして、高度情報科学技術研究機構や理化学研究所に原子・分子の透過シミュレーション実験をしてもらいます。 そこで得られた詳細なデータを、試作されたカーボン分離膜を使った実験と比較するのです。その結果、孔の大きさや官能基の有無・種類など、より効率的な分離膜の設計に役立つ情報が得られれば成功ではないかと考えています。
 水和すると孔より大きくなることもある水の分子が、水分離膜をどのように通り抜けるのか、そのメカニズムは実はまだよくわかっていません。 水科学的にも興味深い結果が得られると期待しています。

サブ研究リーダー
(表面重合膜)

国立大学法人信州大学
教授(繊維学系)

木村 睦

 私のミッションは、膜内の孔径を精密に制御し、選択的透水性のある分離膜を作ることです。マングローブなどの耐塩性の植物は、根にあるセルロース膜で海水を脱塩化するとともにウィルスも除去し、道管から吸い上げています。この仕組みを再現できないかというのが発想の根本にあります。 セルロースには、光合成でいくらでも作れる一方、ばらばらになりにくいという問題がありましたが、イオン性液体に溶解させ様々な形に成形できることを見出しました。 さらに、基板の上でデザインした有機化合物を製膜することでサイズ選択性を持つ透水性パリレン膜を作ることに成功しました。 粒子を小さくして空孔率を低くすれば、ナノサイズのナトリウムイオンを通さず、塩分を分離可能なサブナノ多孔化膜が完成します。
 また、将来的には浸透圧の壁にもチャレンジし、従来の半分程度の圧力で脱塩化が可能な膜を作り、電気代にかかるコストを大幅に低減することに挑戦します。

サブ研究リーダー
(吸着・イオン交換材料)

国立大学法人信州大学
教授(工学系)
先鋭材料研究所 所長

手嶋 勝弥

 「信大クリスタル」発進!本プロジェクトでは、無機結晶イノベーションの視点から"水をキレイにする化学"に挑戦しています。特に、結晶構造・形状を自在制御することでうまれる超空間構造を活用し、簡便に水中から有害物質を除去することに注力しています。
 具体的には、低環境負荷・低コスト条件下で超高品質な無機結晶材料をフラックス創製し、さまざまな水源に含まれる重金属イオンや希少金属イオン等の陽イオン、ならびに硝酸・亜硝酸イオンやフッ化物イオン等の陰イオンを除去しています。例えば、層状化合物の一種である三チタン酸ナトリウム結晶の超空間構造をフラックス法により制御することで、鉛イオンやカドミウムイオン等の人体に有害な陽イオンの水中からの除去に成功しています。現在、浄水器メーカーや材料メーカーと密接に連携することで商品化に至っています(NaTiO®)。
 また、アフリカ・タンザニアを舞台として、井戸水や湖沼水に非常に多く含まれるフッ化物イオンの除去にも取り組んでいます。超空間構造制御した無機結晶材料で、世界のあらゆる水問題に「笑顔のソリューション」を提供します。

サブ研究リーダー
(ナノカーボン分離膜)

国立大学法人信州大学
准教授(工学系)

竹内 健司

 ナノカーボンを用いてその膜構造を精緻に制御することによって低コストで強靭な革新的造水膜を開発することが私のミッションです。近年の途上国の経済成長・人口増加そして気候変動などにより世界的な水資源不足が顕在化しており、水処理は国連が進める持続可能な2030年の開発目標(SDGs)の一つともなっています。水の世紀と称される21世紀、水処理膜に今、様々なイノベーションが要請されています。
 これまで芳香族ポリアミド(PA)を始めとする高分子膜は、海水淡水化用逆浸透(RO)膜などとして水処理分野で大きな貢献を果たしてきましたが、脱塩性能は高いものの耐薬品性や耐汚染性などの問題があります。本COI拠点ではカーボンナノチューブやグラフェンなどの先進ナノカーボンを単独あるいはPAと複合した膜構造によって膜イノベーションを開拓し、「世界の誰もがいつでも安心して飲める水社会の実現」に向かって全力で挑戦します。

COI-S(サテライト)

COI-Sプロジェクトリーダー

株式会社オープンシステムサイエンス研究所
代表取締役社長

所 眞理雄

 水が関わる社会的課題は、国土管理、防災、エネルギー、食、産業利用、生活環境、文化など多岐にわたり、それらは相互に関連しあっています。課題を個別にとらえ、その範囲を直接関連する空や海、川、湖などの領域に限定して解決しようとしても本当の解決につながりません。水の移動や貯蔵を含む水の大循環系として統合的・総合的な視点から課題を解決しなければならないのです。本サテライト拠点では第1期で水に関わる課題ならびにそれらの相互関連を調査し検討するとともに、統合的・総合的な課題解決のベースとなる「大気、海洋、ならびに地下水を含む陸域を統合した『水大循環』モデルならびにシミュレータ」を世界に先駆けて開発しました。第2期・第3期では、これらの成果を現実の問題に適用して社会実装のための具体的な検討を行うとともに、モデルの精緻化、シミュレータの性能向上を図り、地球環境と人との共生を可能とする社会の構築を目指します。

COI-S研究リーダー

国立研究開発法人海洋研究開発機構
経営管理審議役/横浜研究所長

高橋 桂子

 地球上の「水」は、空、海、陸をつないでめぐっており、地球環境や人為的活動と共に変化しています。「水」と人や社会の関係は切っても切れないことはご承知の通りで、世界的にも、歴史的にも「水」を活かしいかに共存するかは私たちの大きな課題です。豊かな水の国に生きる私たちは、「水」を財産として、低エネルギー化や低コスト化などに活かす新たな視点を生み出す必要があります。さらに、「水」の脅威に対しても将来設計が必要です。
 「水」環境を活かし、「水」の脅威を回避して共生する我が国は、地球環境変化の影響を受ける世界の様々な国や地域に向けても、持続的な「水」環境の設計指針を発信し、新たなビジネスチャンスにもつなげることができるものと思います。