信州大学学術研究院農学系 小林元准教授が参加する研究チーム(福井県立大学、信州大学、筑波大学、東京大学)は、地球温暖化によって山岳のコケが減少する恐れがあることを明らかにしました。
低地では目立たないコケも、山岳ではコケは地面を広く覆い、水や栄養分の循環に大きな役割を果たしています。しかし、コケはその単純な体のつくりから環境の変化に敏感で、温暖化などによって大きな影響を受ける恐れがあるとされています。そこで、研究チームは信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センターの西駒演習林において、人為的に気温を上昇させる実験を行い、温暖化がコケに与える影響を検証しました。

本実験は、亜高山帯に生育するコケと高山帯に生育する2種類のコケが分布し、地球温暖化の影響を受けやすいとされる、亜高山帯から高山帯に移行する森林限界で行われました。

6年に及ぶ実験の結果、温暖化が進むと亜高山帯に分布するコケが増加し、その一方で、高山帯に分布するコケは大きく減少しました。コケは森林生態系の中で水や栄養分の循環に大きく関わっており、温暖化による山岳のコケの組成の変化は、森林全体の多面的・公益的機能に影響を及ぼす可能性があることを示唆しました。

今回の研究成果は、小さなコケから温暖化が森林全体に与える影響を考える、大きな一歩といえます。



※ 本成果は信濃毎日新聞(2022年7月19日)に掲載されました。「山岳のコケ 温暖化の脅威」

また、Springer社が発行する国際誌「Alpine Botany」に掲載されました。
詳細は下記のURLをご覧ください。
https://doi.org/10.1007/s00035-022-00280-3

著者
大石 善隆 ※(福井県立大学 教授)、小林 元(信州大学 准教授)、鈴木 智之(東京大学 助教)、金井 隆治(筑波大学 技術専門職員)、正木 大祐(筑波大学 技術職員)、田中 健太(筑波大学 准教授) 
※は研究代表者

研究タイトル Bryophyte responses to experimental climate change in a mid‑latitude forest‑line ecotone
掲載雑誌名 Alpine Botany