ヒメタイコウチの生息地

 山岳科学研究所 大気水環境・水生生態系研究部門 東城幸治教授らの研究チームが英王立協会の科学誌(Royal Society Open Science)に研究成果を発表しました。

 研究チームは、環境DNA解析手法を確立させ、水を汲むだけで絶滅危惧種の水生昆虫「ヒメタイコウチ」生息の有無を把握することに成功。低密度で生息する小型の水生昆虫にも適用できたことから、水中に生息する様々な絶滅危惧種や外来種のモニタリングへの応用が期待されます。

◆論文タイトル
Detection of an endangered aquatic heteropteran using environmental DNA in a wetland ecosystem

◆著者
Hideyuki Doi, Izumi Katano, Yusuke Sakata, Rio Souma, Toshihiro Kosuge, Mariko Nagano, Kousuke Ikeda, Koki Yano, Koji Tojo

◆研究の背景
ヒメタイコウチの生息地は急激に減少や劣化しており、兵庫県や東海地方で絶滅危惧種に指定されています。また、三重県桑名市では天然記念物に指定されています。その体長は 23mm ほどで採捕調査は困難であり、生息確認には多大な時間やコストがかかるのが課題です。
湿地などの水環境中には、水生生物のフンや表皮などに由来する DNA 断片(環境 DNA)が浮遊していることから、研究チームは、種特異的に ヒメタイコウチのDNA 断片を増幅・定量できる「リアルタイム PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法」を利用した野外調査を行い、ヒメタイコウチ生息の有無を判定するとともに、野外での捕獲調査も並行して実施することで、環境DNA解析手法の有効性を検証しました。

◆研究手法
研究チームは、兵庫県と愛知県のヒメタイコウチを調査しました。2014 年と 2016 年に14 箇所の湿地及び細流で水をそれぞれ 1 リットル採水し、水中に含まれるフンや表皮、体の粘膜などに由来するヒメタイコウチの DNA の有無をリアルタイム PCR 法で解析しました。同時に通常の捕獲調査でもヒメタイコウチの生息を調べました。

◆研究成果
ヒメタイコウチが捕獲された 5 箇所すべてで1 リットルの水からヒメタイコウチに特異的な DNAが検出され、環境 DNA から生息が確認できました。また捕獲調査で見つからなかった4箇所において環境 DNA で生息が確認できました。捕獲調査であれば調査に数時間を要しますが、採水は数分で終了するので、従来よりも短時間で調査できるようになりました。