喜井勲教授(信州大学学術研究院農学系/バイオメディカル研究所)(責任著者)と宮崎侑香さん(信州大学大学院修士課程1年)(第一著者)、梅澤公二助教(バイオメディカル研究所)、梅原崇史チームリーダー(理化学研究所生命機能科学研究センター)、細谷孝充教授(東京医科歯科大学生体材料工学研究所/理化学研究所生命機能科学研究センター、チームリーダー)の研究チームは、神経疾患に関わるリン酸化酵素DYRK1Aに対する選択的な低分子阻害剤の同定に成功しました。

リン酸化酵素DYRK1Aはダウン症候群の原因遺伝子の1つと考えられており、その活性を選択的に阻害する化合物は、ダウン症候群での認知機能の低下や様々な神経疾患に対する治療薬候補物質として注目されています。

喜井教授の研究室では、このリン酸酵素DYRK1Aに対する選択的阻害剤を同定する試みとして、そのフォールディング中間体を標的にした創薬基礎研究を行っています。フォールディングとは、mRNAから翻訳されたポリペプチドが機能的なタンパク質へと折りたたまれる過程のことです。また、その中間体とは、フォールディング過程の途中で一過的に現れる遷移状態のタンパク質構造のことです。

今回の研究で同定した新規化合物dp-FINDYは、リン酸化酵素DYRK1Aのフォールディングを阻害することで、細胞内でDYRK1Aタンパク質の分解・除去を誘導しました(図)。DYRK1Aタンパク質のフォールディングがdp-FINDYの結合より阻害された結果、タンパク質が正常な構造をとることができなくなり、細胞内の品質管理機構によって認識され、分解・除去されたと考えられます。

本研究成果を基盤に、様々な疾患関連タンパク質のフォールディング中間体を標的とした低分子創薬プラットフォームの確立を進め、新しい医薬品創出の方法論を提供します。

本研究成果は、2021年10月28日に国際学術誌European Journal of Medicinal Chemistryのオンライン版に掲載されました。

著者:Yuka Miyazaki, Masaki Kikuchi, Koji Umezawa, Aurelie Descamps, Daichi Nakamura, Gaku Furuie, Tomoe Sumida, Kanako Saito, Ninako Kimura, Takashi Niwa, Yuto Sumida, Takashi Umehara, Takamitsu Hosoya, Isao Kii.
論文タイトル:Structure-activity relationship for the folding intermediate-selective inhibition of DYRK1A
掲載雑誌:European Journal of Medicinal Chemistry
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ejmech.2021.113948

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理化学研究所生命機能科学研究センターと信州大学バイオメディカル研究所は2021年7月1日に共同研究、人材育成の進展を目的とした連携・協力を実施するため協定を締結しました。これにより、本研究の更なる発展が期待されます。