平成30年度「高冷地先端農業特別演習」を実施しました
【演習名】
「高冷地先端農業特別演習」
【演習目的】
小型無人ヘリ(ドローン)は、任意の時期や高度から鮮明な空撮画像を取
得でき、大規模農地の観測に活用できる。空撮画像の解析によって、大規
模農地を対象にした効率的な生産情報の収集・評価を行うための基本技術
を習得する。ドローンの仕組み、撮影方法、画像解析、現地調査を行い、
画像から読み取れる情報の精度と評価を行う。
【実施日程】
平成30年8月23日(木)~8月25日(土) 2泊3日
【実施場所】
農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
野辺山ステーション
【担当教員】
渡邉 修准教授、岡部繭子助教、関沼幹夫助手
【参加人数】
8名(農学専攻5名、理学専攻2名、経済・社会政策科学研究科1名)
【スケジュール】
【概要および成果】
2018年6、7月に高冷地施設の担当者と演習内容に関する打ち合わせを行い、使用する圃場、作物の種類を確認
した。
1日目 午後:ガイダンス(演習内容の説明)、ImageJを利用した空撮画像を利用したキャベツの計測
2日目 午前:ドローンによる圃場撮影、画像処理、午後:ImageJを利用した画像解析
3日目 午前:データ解析、午後:グループごとの課題発表、解散
【演習の結果等】
1.ドローン空撮画像を利用したキャベツ球形サイズの計測
野辺山ステーションの調査地1には出荷用のキャベツが栽培され、矢印の方向に向かって順次収穫されている
(下図)。信大のキャベツは市販品として経済連に出荷する「商品」で、箱に詰めるサイズで階級が異なる。
野辺山のキャベツはL、LL、LLLが多く、MやSは少ない傾向がある。商品のため多数のサンプリングは難しい
が、空撮画像を利用して非破壊でキャベツ球形サイズを推定し、実際に計測したサイズと一致するか検定した。
キャベツ玉の外周を専用メジャーを用い、ランダムに100個測定した。対応のある2群の検定(t-test、
Paired=T)を実施した結果、実際の測定値は63.2cm、画像による推定値は62.5cmで、誤差は約1cm、
2群の平均値に差は認められなかった。このことから、空撮画像のみで、ある程度キャベツのサイズを推定で
きることが示された。
1-2 ImageJを利用したキャベツ周囲長の計測
画像から取得した数値と野外で測定した実測値との間の平均値の差を検定した結果、平均値の差は1.1cmであ
り、2群の平均値に差はなかった。この結果から、高精度空撮画像からキャベツ球サイズを推定できることが示
された。
2.クロロフィル蛍光測定による根こぶ病発生個体の生育診断
2018年8月25日に、「根こぶ病」に疾患した圃場および健全に生育している圃場にてMultispeQを用いて
クロロフィル蛍光等を測定した。病気群は計127個体、健全群は計128個体となった。病気群の外葉は日に当た
ると萎れていることが観察された。クロロフィル含量を計測した結果、根こぶ病に罹患した個体のクロロフィル
含量は、標準個体より有意に低くなった(図1)。
図1.Relative Chlorophyllのヒストグラム
野外において異なる光強度(PAR)で、LEF(光化学系ⅡからⅠへの電子の流れる速度)を測定した結果、
根こぶ病個体(disease)でLEFやPhi2の値が0近くのものがあったが(図2、図3)、個体群として比較した
結果、健全個体との差はほとんど見られなかった。測定時間が1時間程度で、日射もそれほど強くないことも
あり、実際には数日間測定すると差がみられた可能性もあった。一部の個体(4サンプル程度)は光合成機能
そのものが失われていると考えられたが、個体群全体では光合成機能の障害がそれほど進んでいない可能性が
示された。
図2. 異なる光強度で測定した電子伝達速度(LEF)の比較
図3. 異なる光強度におけるPhi2(光化学系Ⅱにおける量子収率)
【まとめ】
今年度から新規に「高冷地先端農業特別演習」を実施し、同時に山岳科学教育プログラムの演習科目の一つと
して開講した。山岳科学教育プログラムの演習科目の一つでもあったため、他キャンパスや他大学の受講生へ
の周知が進んでいたこともあり、8名の受講生があった。
受講生から話を聞いた結果、クロロフィル蛍光測定、ドローンによる空撮、ImageJによる画像処理はどれも
初めての経験とのことであり、役に立つという意見が多かった。単にキャベツを収穫するだけでなく、非破壊
で広範囲にデータを取得することで、生育診断に活用できる技術を示すことができた。この技術は他の地域や
他の作物への応用も可能である。
演習には多くの時間やコストが必要であった。野辺山は周辺に食料品等を購入できる場所がなく、事前に参加
人数を把握し、研究室を学生スタッフとして配置することに多くの時間がかかった。また天候によっては実施
できないプログラムもあり、室内での実験を含めた提供メニューの準備が必要と考えられた。この科目は病理、
害虫など植物保護科学分野、蔬菜分野の教員との連携を進めることで、実施内容はより充実すると考えられる。