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アクア・イノベーション拠点 第3回シンポジウムを開催 2016年2月5日、信州大学長野(工学)キャンパスで

 アクア・イノベーション拠点の第3回シンポジウムが2月5日、信州大学長野(工学)キャンパス内の国際科学イノベーションセンター(AICS)で開かれ、研究者や企業関係者など185人が出席しました。今回はプロジェクトのフェーズⅠ(2013-2015年度)が今年3月末に終了することを受け、これまでの成果を明らかにするとともに、2016年度から始まるフェーズⅡ以降を見据え、多様な社会実装の形について議論することが目的でした。
 シンポジウムは、同時並行で行われたポスターセッションに加え、成果報告(第一部)、基調講演とパネル討論(第二部)の二部構成で行われました。

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 シンポジウムの冒頭、濱田州博学長が開会を宣言したのに続き、文部科学省大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当)の岸本康夫氏▽科学技術振興機構イノベーション推進部長の野口義博氏▽長野県副知事の太田寛氏―の3人が来賓として挨拶しました。

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信大COI、COI-Sの成果が明らかに


 第一部では、科学技術振興機構COIプログラムのビジョン3ビジョナリーリーダーの住川雅晴氏が「COI研究への期待」と題して特別講演。住川氏は、COIプログラムが6-7年後の社会実装を目指し、民間企業のプロジェクトマネジメント経験者が率いる稀有な特長を持っていることに触れ、「大きな成果に発展するよう、今のうちに理論的ベースを構築し、学術的発展のベースも作ってほしい」と求めました。
続いてプロジェクトリーダーの上田新次郎・日立製作所インフラシステム社技術最高顧問▽COI研究リーダーの遠藤守信・信州大特別特任教授▽COI-S研究リーダーの高橋桂子・海洋研究開発機構地球情報基盤センター長―の3人が、これまでの成果について報告しました。

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この中で、遠藤・特別特任教授は、ポリアミドとカーボンナノチューブの複合膜だけではなく、さまざまなナノカーボンによるRO(逆浸透)膜の候補が出来上がったとし、「世界中が共通の課題として取り組む水問題。この分野でわれわれはイノベーションが実現しそうな感触を得ている。国際的な連携も取りながら、何とか実現させていきたい」と意気込みを語りました。

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途上国に合う技術をどう見つけるか


 休憩を挟んで開かれた第二部では、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授の滝沢智氏が、「世界の水危機と安全な水供給」と題して基調講演しました。滝沢氏は、東南アジアやアフリカ、オーストラリアにおける水道事業を巡る課題を紹介。人口増加や気候変動が水セクターにさまざまな影響を与える可能性にも言及し、解決策については「先進国の都市で使われている技術を持って行こうとしても、途上国の実情に合わないことがあり、それをいかに解決するかが課題」と述べました。

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 続いて行われたパネル討論では、滝沢氏のほかに、栗田工業研究開発部の加来啓憲氏▽マルコメ顧問の一條範好氏▽信州大学の中村宗一郎理事▽長野県経営者協会会長の山浦愛幸氏。さらに、プロジェクト側からサブプロジェクトリーダーの辺見昌弘・東レ理事▽日立製作所インフラシステム社技術開発本部の大西真人・松戸開発センター企画部部長▽信州大学の田中厚志教授(モデレータ)が加わり、計8人で議論を交わしました。


多様な社会実装の「形」をテーマにパネル討論


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 パネル討論ではまず、モデレータの田中教授が討論の趣旨を述べ、各メンバーがそれぞれの「水」利用の将来像を発表。続いて、プロジェクトへの期待が表明されました。
プロジェクト側の辺見サブプロジェクトリーダーら2人は、海水淡水化、随伴水処理、かん水処理、排水処理という、プロジェクトが想定する「水」利用の将来像を紹介。これに対し、栗田工業の加来氏は、複数の工場から排水を集め、用水、純水、超純水に処理して供給する事業を紹介し、「今後このようなケースは増えていくと予想され、高温の水を処理できるRO膜が開発されれば新たな需要につながる」と発言。マルコメの一條氏は、長野工場では味噌の生産のために一日1500トンの水を使い、排水処理をしたうえで放水している事例を紹介し、「RO膜により、排水中の有用成分を取り出すことができれば、新たな事業につながる」と期待を語りました。
また、農学部長でもある中村理事は、灌漑による砂漠の緑化など、農業用水の分野でもプロジェクトの成果が生むインパクトは大きいことを指摘しました。山浦氏からは長野県の産業の歴史と水との関係が語られ、「将来的に研究開発型の産業を誘致していく必要があり、拠点の取り組みは大変ありがたい」と期待をこめました。
モデレータの田中教授は「当初考えたより、「水」利用の将来から来る要望は多様で、何度もバックキャストを繰り返しながら、プロジェクトを進めていきたい。今後ともご協力をよろしくお願いしたい」と結びました。


浅野氏「もっとブレーンストーミングを」


 最後に、水資源の総合管理や再利用技術の分野の世界的なパイオニアで、プロジェクト発足当初から見守る、カリフォルニア大学デービス校名誉教授の浅野孝氏が登壇し、シンポジウムの総括を行いました。浅野氏は、アクア・イノベーション拠点への期待が大きいこと、さらにカーボン・繊維のグループから画期的な成果が出ていることを再確認したうえで、「すばらしいパネル討論だった。世界の水問題のどこに焦点を絞るのか、もう一回原点に返り、都市の中の水循環はどうあるべきか、実装の形について、どんな場面を想定するのか、今後もブレーンストーミングして欲しい」と呼びかけました。

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