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全研究総覧

未利用資源の農畜林循環利用のシステム構築と実証的研究 【地域】 AFC

はじめに

近年,未利用資源の高度利用が模索されており,2002年には「バイオマスニッポン総合戦略」が閣議決定された。特に,畜産廃棄物,木材,資源作物等の有機物からエネルギーや生産物を生み出し,さらに食品廃棄物,副産物の活用も進められている。中山間地域の森林,畜産においても,間伐材と家畜排泄物を融合して同時に利用することで里地里山を総合的に活性化することが可能になると考えられる。
現在,森林および農地では高齢化,過疎化と荒廃,および自然災害,鳥獣害の発生により,一層荒廃が深化している。一方,畜産の現場では「家畜排泄物法」を含む「環境三法」が施行されてから,家畜排泄物の適正な処理と有効利用が求められているが,経済危機由来の諸要因から,「おが粉」の確保と利用が困難な状況が続いている。中山間地域における森林と畜産を有機的に結合し,間伐材処理と堆肥生産を同時に,効率よく進めるシステムの確立には,間伐材のチップ化と利用を総合的に進めることが必要である。
本研究は,間伐材のチップ化とそれらの農業および畜産への利用システムの構築による上伊那中山間地域の農畜林業の再生と持続を目的に,平成22年度の実験,調査では,信州大学農学部附属AFCにおける間伐材のチップ化,堆肥化を調べた。

方法(調査地)

森林内の間伐材の積極的利用のためのチップ化技術の普及
 AFC構内および手良沢山演習林において平成21年度に導入した自走式木材破砕機コマツBR80T-1(チッパー)を稼動し,単位時間当たりの間伐材から生産可能なチップ量を調べた。
家畜に影響を及ぼさないチップの確保
 生産したチップをAFC構内農場の牛舎内に導入し,ウシの行動およびチップの状態を調べた。行動およびチップの変化は導入後,1日,7日,14日,および30日後に調べた。
関連機器等の改良による有用チップの効率的,安定的供給
 チップ生産時のチッパーに装着するスクリーンの改良,開発の是非を確認するためスクリーンの違いによる生産性,および作業時の問題点等を調べた。
チップの効率的堆肥化および機能の改善
 チップの堆肥化の状況(変化)を確認するため,AFC構内農場に堆肥舎を建設した。
森林,畜産,農業の結合によるチップ生産・供給システムモデルの構築
 チップの生産,供給システムモデルの構築のため,南箕輪村管内の酪農家および堆肥センターにチップを導入し,問題点,改善点等を調べた。

結果と考察

森林内の間伐材の積極的利用のためのチップ化技術の普及
 附属の20,25,38mmのスクリーンを装着したチッパー1時間の稼動あたりのチップ生産量はそれぞれ,2.4,3,4m3であった。また,間伐材あたりのチップの生産性は体積比2~3倍となり,これまでに報告された値を再現した。チッパーによる作業と関連した周辺機器とその作業のシステム化により安定的なチップ生産が可能になると思われる。
家畜に影響を及ぼさないチップの確保
チップ導入,1日,7日,14日,および30日後の牛舎内におけるウシの行動は,対照区の籾殻,おが粉導入区のウシと同様であった。特に歩様の変化に有意な違いはみられなかった。導入したチップは,ウシにより鎮圧されることで形状が断片化,矮小化する傾向にあった。その結果,ウシの糞との混和の程度も良好であった。
関連機器等の改良による有用チップの効率的,安定的供給
 付属の既存スクリーンによる生産性を調べた結果,50mm,70mmと比べ,20mmのスクリーンの単位時間当たりの生産量は低下し,同時に安定した生産が困難であった。また,50および20mmのスクリーンによる2段階のチップ生産では50mmチップがチッパーのシュレッダ部分に堆積することで20mmチップの排出が困難であった。さらに,枝条,末木を原料とした際の20,25mmスクリーンを利用したチップ生産は長時間を要し,利用した木材の部位,状況により作業効率が異なった。さらに,作業中のチッパーのトラブルが頻発した。今後,樹種,含水率,腐朽状況等の特性に応じた利用,スクリーンの選択,さらには改良,開発も考慮しなければならないかもしれない。
チップの効率的堆肥化および機能の改善
 堆肥舎の建設は年度末であったため,チップの堆肥化の状況,および肥効性等を調べることはできなかった。堆肥の性状の比較では,対照区の籾殻,おが粉導入区と比べ,特に顕著な違いはみられなかった。
森林,畜産,農業の結合によるチップ生産・供給システムモデルの構築
 酪農家および堆肥センターにおけるチップの利用性,特性等を調べた。酪農家では,乳房炎等の疾病への罹患が心配され,搾乳牛には利用されなかったが,育成牛,子牛には利用可能であった。また,建築廃材等による二次的な汚染等の心配もなく,樹種(ヒノキ等)特異な脱臭効果も期待された。堆肥センターにおいては,20~25mmスクリーン由来のチップが利用可能であり,十分な量の確保,供給が期待された。

今後の方針と計画

間伐材のチップ化,堆肥化における新技術の開発と総合化
牛舎等の敷料利用に関わる改善,すなわち微生物製剤の添加,加熱処理法の応用等の改良によるチップの殺菌,低菌化による衛生面,および臭い等の改善を図る。また,得られたチップの堆肥を添加して作物を栽培することで,植物生産性に及ぼす影響を調べる。さらに,ヒノキ以外の樹種の間伐材による堆肥の特性の評価も進める。
上伊那の中山間地域におけるチップ生産・供給システムモデルの構築
上伊那地域における中山間地域の森林,畜産,農業の結合によるチップの生産および供給,利用が容易になるシステムモデルをめざし,堆肥センターと酪農家への流通(運搬)も考慮し,大学,酪農家をつなぐシステム(仕組み),運用組織の構築を図る。

研究者プロフィール

濱野 光市
教員氏名 濱野 光市
所属分野 農学部 附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本畜産学会、日本繁殖生物学会、北信越畜産学会
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教員氏名 春日 重光
所属分野 農学部 附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本育種学会、日本作物学会、日本草地学会、園芸学会、日本農作業学会
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教員氏名 木下 渉
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教員氏名 荒瀬 輝夫
所属分野 農学部 附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本農芸化学会
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教員氏名 岡野 哲郎
所属分野 農学部 森林科学科 山地環境保全学
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本森林学会、日本生態学会、日本植物学会、植生学会、日本熱帯生態学会、森林立地学会、森林計画学会、日本農業気象学会、日本鱗翅学会
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