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全研究総覧

ベニバナインゲンの系統分類と遺伝資源の保存 【地域】 野辺山高原

はじめに

本研究は,わが国での栽培適地が少なく産地が点在し,産地内でも自家採取が多く遺伝資源の系統分化が予想されるベニバナインゲンについて,主に種子の形状および栽培特性から分化した系統を明らかにし分類していくとともに,遺伝資源として保存していくことを目的としている.
ベニバナインゲンは南米原産の大粒のインゲンで,冷涼な土地での栽培に適している.わが国では長野県,群馬県,北海道,福島県など高冷地や冷涼地で高級豆として栽培されており,長野県ではAFC野辺山ステーションのある野辺山高原などの高原地域や中山間地域を含めた標高1000m以上の高冷地が産地のとなっている.しかし,ベニバナインゲンに関する基礎的研究はいまだ進んでいない上,品種に関しても北海道の白豆で2品種、群馬県の紫豆で1品種、茨城県の黒豆で1品種とわずかに品種登録があるのみで,自家採取またはベニバナインゲン紫,ベニバナインゲン白などと色の区別のみの表記で販売されているのが現状である.野辺山高原でも自家採取が主であるため,収量性や早晩性などの特性が分化している可能性がある.そこで,本研究では野辺山高原を中心に近隣地域も含めた複数の農家の栽培種子,および他の産地の種子を栽培し,栽培特性を明らかにし,その特性を遺伝資源として保存することを目的とする.

方法(調査地)

複数の産地の2009年産のベニバナインゲン種子を収集し,AFC野辺山ステーションで栽培し,栽培特性を検討した.供試種子は,紫種子として信大保有系統の他,長野県産として南牧村野辺山地区産8系統,南牧村板橋地区産8系統,南牧村海の口地区産1系統,川上村産2系統,北軽井沢産1系統,栄村産1系統,佐久市産1系統,伊那市産1系統,山梨県北杜市小淵沢産2系統,北海道産4系統の全30系統,白種子は信大保有系統の他,南牧村板橋地区産系統1系統,北海道産2系統の全4系統,合計34系統とした.栽培は全面マルチ・トンネル栽培とした.トンネルはパイプ間隔を1.75mとし,ネットをかけトンネルを作成した.栽植密度は株間1.75m,約350株/10aとした.施肥量は10aあたり成分量でN:4.3kg,P2O5:17.5kg,K2O:4kgとし,その他牛ふん堆肥2t/10aを散布した.播種日は2010年5月28日(佐久市産のみ5月31日播種)とし,各系統8~10粒を播種し,間引きをし,6株を調査対象とした.ただし,出芽個体が6株未満の場合は出芽個体全てを調査対象とした.収穫は8月下旬から11月上旬の間,莢が褐色に変色したものから順次収穫した.収穫後はビニルハウス内で十分乾燥させた.調査は出芽調査,開花調査,収量調査を行った.

結果と考察

 出芽調査の結果,9系統で出芽率が80%以下であった.開花調査の結果,開花開始は7/8~7/16までの間で,33系統では7/12までに開花が開始されたが.しかし,那系統のみ大きく遅れ,開花初めは7/16だった.7/10に開花した系統は10系統で最も多かった.多くの系統は9月上旬までに大方花が終わったが,小淵沢①,小淵沢②,栄村,伊那の4系統は9/19になってもまだかなり花が着いていた.
栽培の結果,白系統の野辺山および板橋は白い種子を播種したにもかかわらず紫の種子も生産した.しかし,北海道産の白系統は,全て白い種子を生産した.白野辺山系統および白板橋系統の種皮色の分離比は,白野辺山系統は紫:白=3:2,白板橋系統は紫:白=1:4だった.このことから,野辺山および板橋の白系統は種皮色に関連する遺伝子の固定がされていないことが分かった.この2系統については,現在種皮色別に収量調査結果を行っているため,以下収量調査の対象外とした.収量は,1株当たりの収量が最も多かった野辺山④の795.3gから最も少なかった北海道③の86.2gまで大きな変異が見られた.1株収量が500g以上で多収系統と考えられる種子は9系統あり,うち6系統は野辺山地域で採種されたものだった.1株収量が200g以下で収量性が悪いと判断される系統は3系統あり,これらはすべて北海道で採種されたものであった.これは,北海道で採種された系統は野辺山の気候での生育に適していなかったためと推察された.また,北海道での栽培では栽植密度は株間72~75cmなのに対し,本試験では野辺山での栽培法である株間1.75mを採用したことが影響していることも考えられた.
以上のことから,ベニバナインゲンは系統間で変異を持っていることが明らかとなった.

今後の方針と計画

本研究は,系統別の栽培特性を明らかにし,その遺伝資源を保存することにより,今後の気象変動への対応や品種育成を進めることを目的とし,このことによる高冷地の特産品の維持に貢献しようとするものである.
2010年の試験において,ベニバナインゲンは系統間に変異を持っていることが明らかとなった.今後は,さらに供試系統数を増やし,さらに多くの遺伝資源の収集に努める.また,種子の粒形や種皮の模様などさらに細かな調査を行い,系統分類を進めていく.その他,2010年の猛暑時には,結実率の低下や種子の大きさが小さくなるなどの声が多く聞かれた.しかし,現地では栽培可能期間の短い野辺山高原では有効な対策はないままである.2010年は記録的な猛暑であったため,厚さに弱いといわれるベニバナインゲンが正常の特性を発現したかは判断できない.今後,継続して時の栽培特性評価を行うことにより,猛暑が生育に与える影響などの解明も進めていきたい.

研究者プロフィール

岡部 繭子
教員氏名 岡部 繭子
所属分野 農学部 プロジェクト研究推進拠点
所属学会 日本作物学会、東南アジア国際農学会、日本食品科学工学会、北陸作物・育種学会、園芸学会、長野県園芸研究会
SOAR 研究者総覧(SOAR)を見る
他の研究 中山間地域における伝統的植物遺伝資源の収集・保存
春日 重光
教員氏名 春日 重光
所属分野 農学部 附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本育種学会、日本作物学会、日本草地学会、園芸学会、日本農作業学会
SOAR 研究者総覧(SOAR)を見る
他の研究 未利用資源の農畜林循環利用のシステム構築と実証的研究姨捨における畦畔の持続的管理中山間地域における伝統的植物遺伝資源の収集・保存