診療班チーフの声

脊椎外科の新しい知見・治療を信州から世界へ

大場 悠己

信州大学医学部運動機能学教室 助教(診療)
脊椎班チーフ
【専門分野】脊椎外科、側弯症、コンピュータ支援手術

整形外科か別の科で迷っている初期研修医の皆さん、学生の皆さんに、整形外科の魅力について語ろうと思います。

私は整形外科の中の脊椎外科を専門としております。特にここ10年は日々が充実しており、夢中になって脊椎に向き合っております。これだけ何かに夢中になるのは小学生の時のテレビゲーム以来です。私がなぜこんなに夢中になるのかランキング形式で紹介したいと思います。

第3位

整形外科は手術が多様で、求められる手術の難易度も幅広いです。私自身は初期研修が終わった後に整形外科に入局し、信州大学と長野県立こども病院で1年3か月の整形外科研修を行った後に安曇総合病院(現在の北アルプス医療センター)に赴任してすぐに、先輩Dr達に指導されながら年間100例を超す骨折や変性疾患を執刀させていただいた覚えがあります。似た骨折はあっても、まったく同じ骨折は一つも無く、次々と運ばれてくる多種多様なけがや病気をおった患者さんに迷惑をかけないように必死に勉強をしながら手術を行ったことは楽しい思い出です。手術がうまく行き元気に帰る患者さんを見送る時はいつも誇らしい気持ちになり、手術後の調子が悪い時は何が悪かったのか悩み、相談し、とても充実しておりました。3,4年間、このように荒波にもまれているとだんだんと自信がついてきて、この頃には後輩を指導しながら一緒に骨折の治療を行うようにもなりました。この時期には病院内でもかなり頼られる存在になり、とてもやりがいを感じるようになりました。沢山の患者さんの診療に関わる中で医師として、人間としての成長の機会を多く頂けました。このように非常に多く向き合うこととなる一般的な外傷や簡単な変性疾患に対し比較的早く執刀し一人前気分になれることは大きな魅力であり、私が自分の仕事に夢中になった理由の第3位です。

第2位

私は外傷を行いながら徐々に脊椎に興味を持ち出し、脊椎の手術を行うことが多くなってきました。それに伴い、一人前と感じていたことは勘違いであったことに、すぐに気が付くことになります。専門的な分野に一歩足を踏み出すとその奥深さは果てしなく、その分野の師匠は超人に見えます。初めて脊椎手術を行った時は神経損傷の恐怖で手が震え自分の未熟さを痛感したことを覚えております。脊椎手術を徐々に習得し自信を付けて来た頃に、さらに難易度の高い疾患や内視鏡手術など習得の難しい技術が目の前に現れて来ました。常に新たな目標に溢れていることが整形外科の大きな魅力の一つだと思います。2007年(平成19年)に医師免許を取ってから2020年現在まで13年、自分なりの努力を続け、現状では自分達の手術に自信を持って診療を行えております。しかし、まだまだ高めたい技術に溢れており、山の頂上は見えません。これが、私が自分の仕事に夢中になる理由の第2位です。

第1位

脊椎外科手術は現在まさに激動の時代を迎えており、10年前は不可能とされていた手術が現在は当たり前のように行われており、10年前は治せないといわれていた疾患の手術法が次々と発見されております。そのような中で、私達もさらに高いレベルの医療を提供するために英論文を書いております。私が最初の英論文を書いたのは大学を離れた1年目の年です。最初はどうやって書いたらいいかよくわからなかったのですが、先輩達の指導を受けたりしながらなんとか論文を作成することが出来ました。自分の論文が雑誌に掲載された時は達成感がありましたし、自分のメッセージが世界の医療の役に立つ実感を得られました。今はこのことが面白いと感じられるようになっております。常に進歩し続ける医療の最前線で私達が感じている疑問がそのまま世界中の脊椎外科医の疑問でもあり、私達が悩み考えだした新たな知見が世界中の患者さんにより良い治療を提供するために役立てられることはとても嬉しく、誇らしくもあります。これは私が自分の仕事に夢中になる理由の第1位であり、この紹介文のタイトルとさせていただきました。

最後に、このページでは私個人のことばかり書きましたが、患者さんへの診断治療を一人で行うことは決して出来ません。とても幸運なことにこれまで、いろいろな先生やスタッフに恵まれ、これらチームワークのなかで私の診断、治療、手術技術を習得してきました。そして今いる信州大学脊椎班もそれぞれサブスペシャリティ(側弯症、頚椎、腰椎、内視鏡手術など)を持った、とても頼れる仲間に恵まれています。全員とても仲が良く、いつも話し合い、助け合いながら治療方針を立てており、入院中の全患者は全チームメイトが把握しており回診しております。脊椎の手術により症状が劇的に良くなる患者さんも多いですが、期待した改善を得られないことも時に経験します。そのような時は頼れるチームメイトと相談や協力をしながら治療を行っていくことが出来ます。 仕事をする時にはとことん仕事に熱中し、遊ぶ時にはとことん遊び、結果的に患者さんに最良の医療を提供出来て、かつ世界中の患者さんの役に立つ新たな知見を日々探する…。そんな素晴らしいチームに属している自分はとても幸運だと思います。

以上、信州大学整形外科の魅力に脊椎班の視点から述べてきました。長野県の整形外科は全然人が足りません。是非、我々のチームメイトになりませんか。信州の地域医療を支えながら、信州から世界に発信しましょう。

信州の整形外科を一緒に盛り上げましょう

林 正徳

信州大学医学部運動機能学教室 講師
上肢班チーフ
【専門分野】手外科

研修医の皆さん、そして信州で研修を考えている学生の皆さんに整形外科と私の専門である手外科についてご紹介をしたいと思います。

私は研修医の先生やポリクリの学生さんと話をする際に、いつも「進路に迷ったら整形外科を選んでおけば間違いない」と言っています。その理由として、整形外科は運動器全般を扱う科であるため、治療の対象となる組織が骨、軟骨、靭帯、筋肉、腱、神経、血管と多く、疾患も外傷から慢性疾患に至るまで多岐にわたること、またそれに伴って専門分野も非常に多く守備範囲が広いことが挙げられます。そのため仮に迷って整形外科に進んだとしても、いろいろな専門分野の研修をしていく中で、必ず自分にあった分野を見つけることができます。実際、私自身は初期研修を経験していないため、学生時代の漠然としたイメージだけで整形外科を選択しましたが、整形外科の研修をしていく中で、自分が一番興味を持った手外科を選択し、最終的にはとても良かったと思っています。また、整形外科は診断から治療、リハビリテーションまでを単科一貫して行うことができるのも魅力の一つだと思います。的確な診断と治療がなされることで患者さんの症状は劇的によくなります。患者さんと喜びを共有することができるのは何事にも代えがたいものがあります。

進路に迷っている研修医や学生の皆さんの中には、臨床は当然やりたいが基礎研究にも興味があるという方もいると思われます。整形外科は体育会系のイメージがあり基礎研究をしている感じがあまりないかもしれませんが、実はそんなことはありません。先にも述べたように整形外科は扱う組織が多いため、研究テーマも豊富であり、さらに研究手法もバイオメカニクスから分子生物学まで多岐に渡ります。臨床医が基礎研究を行う最大のメリットは、臨床で得た経験や知識を研究にフィードバックできることです。信大整形でも地方大学の特性を生かし、信大整形でしかできないオリジナルのテーマで基礎研究を行っており、国内外に情報を発信しています。さらに、希望があれば研究をさらに発展させるための留学も推奨しています。整形外科の基礎研究はまだまだ発展途上の分野が多いので、オリジナルの発想やアイディアで研究をしてみたい、という方は是非我々の教室で力試しをしてみてください。

最後に私の専門分野である手外科についてお話ししたいと思います。手は握る・つまむなどの基本的な動作の他に感覚器としての機能や感情を表現するための機能を持っています。そのためそれらの機能が損なわれると日常生活動作はもとより、仕事やスポーツ、楽器の演奏など様々な活動に大きな影響を及ぼします。手外科は外傷や疾患により障害が生じた上肢機能を再建することを目的とします。信大の上肢外科グループは小児から高齢者に至るまでのほとんどすべての上肢疾患の診療を行っています。具体的には手指・手関節の関節症、末梢神経障害、上肢先天奇形、肘・手関節のスポーツ障害などがあり、さらにマイクロサージャリーでは外傷により損傷した神経・血管の縫合や移植、腕神経叢麻痺に対する交叉神経移行、足趾の手指への移植、神経麻痺に対する神経剥離、神経移植、さらに骨軟部腫瘍切除や外傷後に生じた組織欠損に対し皮弁を用いた再建手術などを行っています。また、それらによって得られた結果を国内外の学会で発表し、最終的に英文論文という形で世界に発信しています。手外科は整形外科の中でも特に扱う疾患が多いのが特徴であり、一つの疾患に対する手術法も実に様々なアプローチの仕方があります。初めのうちはまず基本的な手術法を身につける必要がありますが、経験を積むことでオリジナルの手術法を生み出すことが可能となることも手外科の魅力の一つだと思います。

以上、整形外科と上肢外科についていろいろと述べましたが、信大整形ではとにかくやる気のある皆さんをお待ちしています。自分は文科系だからとか手先が不器用だからという理由で選択を迷っている方もいるかもしれませんが、そんなことは全く関係ありません。信州の地で整形外科を一緒に盛り上げていきましょう。

整形外科を考えている皆さんへ

天正 恵治

信州大学医学部運動機能学教室 講師
下肢班チーフ
【専門分野】下肢

私が自分の専門科を決めたのは大学6年の11月頃だったように思います。皆と同じように色々な科の勧誘を受け迷ったうえで現在の科を選択しました。元々整形に強い興味があった訳でもなく、大きな怪我をしてお世話になった事も特になく、そして別段整形から強い勧誘を受けた訳でもない私がこの科を一生捧げる専門として選んだ理由は今考えても特に思い当たらず、何となくその時の流れで決めたような気がします。同級生からも意外だとよく言われたものです。という訳で入局した当初は余り整形外科に対する興味が持てず、気管送管をしたり、IVHを入れたり、色々な薬剤を使ったりして患者の生死の狭間で戦っている内科や外科の同期が何となく羨ましくも感じていました。何か物足りなく自分の判断は間違っていたかな?と感じた時期もありました。自分の中で変化があったのは4年目の国内留学(北海道:哲人会えにわ病院)にあったかと思います。この研修の中で圧倒的な数の下肢の手術症例(人工関節や関節鏡手術)を経験し、特定の分野のみについて深く学び・研修を行えたことでこの領域の奥深さや意義を感じ取ることができ、下肢領域を専門として現在に至っております。

卒業して20年以上経過し私は今でも下肢関節の障害を持った患者さんに対する様々な治療を行っています。当時よりも整形外科に対する知識も興味も増し、身も心も整形外科医といった感じです。本当に整形外科が自分に適していたのか、選択が正しかったのかどうかは医者を辞める間際にならないと分からないでしょう。しかし、現時点で思う事はどの科を選ぶかという事よりも、選んだ後に自分の選択した科(分野)に対して興味を持ち、情熱を注いで頑張り努力するという事の方がはるかに重要だという事です。当たり前の事なのかもしれませんが、これは周りの医師を見てもそう感じます。そういった点で私は整形外科という専門科を通して患者さんと関わり治療を行い、また自分の技術を磨くために切磋琢磨できるこの素晴らしい状況には満足しており信州大学整形外科を選んでよかったなと日々感じている毎日です。ここ信州大学整形外科にはやる気のある若い先生たちが国内や海外留学を含めた充実した研修を行うことが可能であり、そして、その中できっかけをつかみ活躍できる場がそろっていると思います。私がそうであった様に整形外科がいいかな?と少しでも感じた人はその気持ちを大切にして足を踏み込んでもらえればと思います。

また、私が感じている別の魅力としては、科としての発展性が挙げられます。私の専門である下肢領域に限ってみてもその進歩には目を見張るものがあります。股関節であれば股関節鏡の発達、人工股関節のアプローチ・インプラントの大きな変化、膝関節であれば解剖学的な人工膝インプラントの開発、生理的な下肢アライメントを考慮した手術(インプラント設置)、膝関節鏡領域であれば前十字靭帯解剖学的2重束再建術の発展、新たな靱帯(前外側靱帯)の発見その手術応用・半月板縫合適応の大幅な拡大、新しい骨切り術の開発・普及、など治療におけるコンセプトやイノベーションの変化は数え上げればきりがありません。他の整形外科領域においても同様で、この傾向は今後も続いてゆくものと思われます。また、このような変化によって手術方法や用いられる機器・固定材料も改良が日々行われており、これを習得するためのセミナーや手術研修会、カダバートレーニング(屍体を使った手術研修)などが企業主催で行われております。最近ではコロナウィルスの影響でwebを用いたセミナー・学会も広く行われ、自宅にいながら日本中・世界中の医師の講演を気軽に聞いたり、発表出来るようになり、地方に住んでいることのデメリットはどんどん少なくなる事でしょう。いつになっても勉強や自己鍛錬は続きますが、常に刺激的でありそれがまたこの仕事のおもしろさの一つだと思っています。

また臨床だけではなく研究面でも自分の考えたアイデアをまとめて発信(発表・論文化)することで世界中の医師と戦う(交流する)ことも可能です。研究は時間もかかるし思うようにいかないしつらいことが多いですが、結果がでたときの喜びは何物にも代えがたいものがあります。実際整形外科下肢班ではここ数年で整形外科のTop Journal (JBJS Am, JBJS case connect, AJSM, Arthroscopy, KSSTA, Arthroscopy Techniques)に多数の論文を発表しており、信州にいても斬新なアイデアさえあれば世界と戦えるだけの仕事ができることを証明しています。

医師という仕事をお金を稼ぐための手段ととらえた場合、こんな割に合わない仕事はないと感じています。逆にこの仕事の中に自分なりの生きがいややりがいを上手く見いだせればこんな楽しく幸せな職業はないのかと思います。その中でも整形外科は非常に裾野が広く、色んなところにアンテナを張っていれば必ずあなたのやりたいことが見つかると思います。また、やりたいことが見つかってもそれを実践できる場があるかどうかも重要です。大きな医局に属してやりたいことは見つかったが、自分の思うような進路に進めず身の振り方を悩んでいる先生をよく目にします。ここ信州大学整形外科ではその様なことはありません。なぜなら、長野県全域の病院が関連病院であり、どこの病院でもまだまだ各分野の医師が足りない状況が続いているからです。そういった意味でも信州大学の整形外科はあなたにとって良い選択枝になるのかと思います。

私がいった事がこのHPを見てくれている学生、研修医、若手医師の方々の参考になれば幸いです。そして、その見てくれた皆さんと当科でぜひ一緒に働ける日を心からお待ちしております。

整形外科および骨軟部腫瘍の魅力 ―その多様性と希少性―

岡本 正則

信州大学医学部運動機能学教室 助教
腫瘍班チーフ
【専門分野】骨軟部腫瘍

信州で研修を受けようと考えている医学生の皆さん、これから何科の医師になろうかと迷っている初期研修医の皆さんへ、整形外科の魅力を少しだけ伝えたいと思います。

整形外科では運動器の疾患を取り扱います。運動器には脊柱、骨盤、関節、手、足などの器官があり、骨、軟骨、靱帯、筋、腱、血管、皮下組織、さらに脊髄および末梢神経などの組織が含まれます。運動器障害により低下したQOLの改善、悪化の防止、予防を主たる職務とする診療科が整形外科です。首から足先まで内臓を除いたすべてのパーツを扱う科であるため、非常に守備範囲が広いのが特徴です。

整形外科での診療は新生児、小児、学童から成人、高齢者と全ての年齢層が対象となります。生後まもない新生児の検診を行ったり、中高生のスポーツ障害の予防・治療を行ったり、高齢者の骨粗鬆症で潰れた背骨を立て直したりと、その対象は幅広く、治療が必要な患者さんの数も極めて多いことも特徴の一つです。

整形外科が行う治療は、骨折などの外傷に対する手術をまず思い浮かべる方も多いと思います。しかしその他に、遺伝や加齢に伴う脊柱の変形矯正や関節の置換、スポーツ障害の予防・治療・啓発活動、リハビリテーション、骨粗鬆症・関節リウマチ・痛風・慢性疼痛に対する内科的治療、悪性骨軟部腫瘍に対する手術・化学療法・緩和ケアなど、その内容は非常に多様です。整形内科という診療科が存在しないため、内科的治療も外科的治療も学ぶことができます。

整形外科学とは、運動器全般を研究する学問分野です。運動器の病態は多様であり、炎症、腫瘍、変性、循環障害などに加え、先天性障害や変形、外傷による骨・関節・筋などの損傷、脊髄や神経の圧迫障害、加齢に伴う骨の強度低下、軟骨の摩耗、腱の変性による断裂などがあります。これら多岐にわたる病態に関して、形態学、病理学、分子生物学、電気生理学、生体力学などのあらゆる生物学的知識を総動員して研究を行います。臨床だけでなく基礎研究にも興味のある欲張りな方にも、整形外科はまさにうってつけの科と言えます。

最後になりますが、私が専門にしている骨軟部腫瘍に関しても紹介したいと思います。整形外科で扱う骨軟部腫瘍はとても種類が多く、骨腫瘍は40種類以上、軟部腫瘍は130種類以上に分類されます。これだけ種類が多く全身に発生する骨軟部腫瘍ですが、それぞれはとても頻度が低い腫瘍です。最も多い悪性骨腫瘍である骨肉腫は小児に好発し、全国で年間200人程度の発生頻度です。肺がんの約8万人と比較すると極めて珍しいことが分かるかと思います。そんな珍しい骨軟部腫瘍を専門とする整形外科医師もやはり珍しく、全国に約24000人いる整形外科医師の中で200人程と言われています。人数が少ない分連携は取りやすく、全国の先生方と共同して仕事をさせていただく機会が多くあります。腫瘍整形外科医は、全身に発生する骨軟部腫瘍に対して外科的手術のみならず、化学療法・緩和ケア・終末期医療などの内科的治療も行います。また骨軟部腫瘍は解明されていないことも多く、有効な治療法が確立されていない腫瘍も多くあります。そのため診療と並行して、臨床研究や基礎研究も行っています。腫瘍整形外科には、整形外科の魅力がすべて詰まっています。

これだけ長々と書いても、まだまだ伝えきれない魅力が山ほどあります。もし少しでも興味を持たれたら、まずは見学に来てください。当教室の雰囲気を感じてもらい、整形外科のおもしろさを知っていただきたいと思います。一緒に信州大学運動機能学教室(整形外科)を盛り立てていきましょう。