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2019年度「高冷地先端農業特別演習」を実施しました

お知らせ農場系の実習

1.演習名
「高冷地先端農業特別演習」

2.演習目的
小型無人ヘリ(ドローン)は,任意の時期や高度から鮮明な空撮画像を取得でき,大規模農地の観測に活用できる。空撮画像の解析によって,大規模農地を対象にした効率的な生産情報の収集・評価を行うための基本技術を習得する。ドローンの仕組み,撮影方法,画像解析,現地調査を行い,画像から読み取れる情報の精度を評価する。

3.実施日
2019年8月22日(木)~8月24日(土) 2泊3日

4.実施場所
農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
野辺山ステーション

5.担当教員
渡邉 修准教授,鈴木香奈子助教,関沼幹夫助手

6.参加人数
13名(農学専攻6名、工学専攻4名、経済・社会政策科学研究科1名、筑波大学2名)

7.スケジュール
 スケジュール.jpg

8.概要および成果

【1日目】
午後:ガイダンス(演習内容の説明),ImageJを利用した空撮画像を利用したキャベツの計測

【2日目】
午前:ドローンによる圃場撮影,画像処理
午後:ImegaJを利用した画像解析

【3日目】
午前:データ解析
午後:グループごとの課題発表,解散

9.演習の結果等

(1)ドローン空撮画像を利用したキャベツ球形サイズの計測
野辺山ステーションの調査地1(生産圃場)には出荷用のキャベツが栽培されており(写真1),市販品として経済連に出荷する「商品」で,箱に詰めるサイズで階級が異なる。野辺山ステーションのキャベツはL,LL,LLLが多く,MやSは少ない傾向がある。商品のため多数のサンプリングは難しいが,空撮画像を利用して非破壊でキャベツ球形サイズを推定し,実際に計測したサイズと一致するか検定した。キャベツ玉の外周を専用メジャーを用い,50個測定した。対応のあるの検定(t-test, Paired=T)を実施した結果,実際の測定値は58.4cm,画像による推定値は57.9cmで,誤差は約1cm 2群以内,2群の平均値に差は認められなかった。このことから,空撮画像のみで,ある程度キャベツのサイズを推定できることが示された。

図1 空撮画像によるキャベツ個体とサイズ測定.jpg  表1.jpg

写真1 空撮画像によるキャベツ個体とサイズ測定

(2)クロロフィル蛍光測定による根こぶ病発生個体の生育診断
2019年8月24日に,「根こぶ病」に疾患した圃場および生産圃場にてMultispeQを用いてクロロフィル蛍光を測定した。根こぶ病汚染圃場の個体を32サンプル,無発生圃場の個体を31サンプル取得した。病気群の外葉は日に当たると萎れていることが観察された。クロロフィル含量を計測した結果,根こぶ病に罹患した個体のクロロフィル含量は,やや低くなった(図1)。

図1.Relative Chlorophyllのヒストグラム.jpg

図1.Relative Chlorophyllのヒストグラム

野外において異なる光強度(PAR)で,LEF(光化学系ⅡからⅠへの電子の流れる速度)を測定した結果,同じ光強度において根こぶ病圃場の個体はLEF値がやや低いものが認められた(図2),根こぶ病罹病個体と非罹病個体を比較した結果,健全個体との差はほとんど見られなかった。測定時間が1時間程度で,日射もそれほど強くないこともあり,実際には数日間測定すると差がみられた可能性もあった。罹病個体の一部はクロロフィル蛍光パラメータのPhiNOの値が非常に大きく、光エネルギーを光化学系Ⅱにうまく回すことができていないと判断された(図3)。

図2. 異なる光強度で測定した電子伝達速度(LEF)の比較.jpg

図2. 異なる光強度で測定した電子伝達速度(LEF)の比較

図3. クロロフィル蛍光パラメータのPhiNOとPhi2のプロット図.jpg

図3. クロロフィル蛍光パラメータのPhiNOとPhi2のプロット図

10.まとめ
2018年度から「高冷地先端農業特別演習」を実施し,同時に山岳科学教育プログラムの科目「山岳フィールド実習」の一つとして開講した。4大学合同の山岳科学教育プログラムの科目であるため,他キャンパスや他大学の受講生への周知が進みつつある。

受講生から演習後の感想を集めた結果クロロフィル蛍光測定,ドローンによる空撮,ImageJによる画像処理はどれも初めての経験とのことであり,役に立つという意見が多かった。単にキャベツを収穫するだけでなく,非破壊で広範囲にデータを取得することで,生育診断に活用できる技術を示すことができた。この技術は他の地域や他の作物への応用も可能である。

特別演習の実施時には天候不順で実施できないプログラムもあり,室内での実験を含めた提供メニューの準備が必要と考えられた。この科目は病理,害虫など植物保護科学分野,蔬菜分野の教員との連携を進めることで,今後はより充実すると思われる。

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