信州大学

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久富准教授、高田剛特任教授、手嶋勝弥教授、堂免特別特任教授らの研究チームの論文がNature Communications誌に掲載されました

2021.02.15


Pt助触媒が担持されたBaTaO2N光触媒

 本研究所 Zheng Wang 博士(現中国科学院)、Ying Luo氏、久富隆史 准教授、Junie Jhon M. Vequizo博士、鈴木清香 助教、Shanshan Chen博士、Lihua Lin 博士、Zhenhua Pan博士、高田剛 特任教授、手嶋勝弥 教授、堂免一成 特別特任教授らの研究グループは、酸窒化物光触媒を用いた可視光水素生成反応の効率を飛躍的に向上させる表面修飾法を発明しました。



粉末光触媒を用いて水を水素と酸素に分解する反応は、太陽エネルギーを利用した大規模水素製造を可能にする技術として注目されています。

この技術を実用化するには、太陽エネルギーの大部分を占める可視光を水分解反応に効率よく利用可能な光触媒の開発が必要不可欠です。バリウムタンタル酸窒化物(BaTaO2N)はペロブスカイト型構造を有する酸窒化物半導体材料であり、650 nmまでの可視光を吸収して水を水素と酸素に分解可能なバンド構造を持つため、水分解用光触媒として研究されています。しかし、BaTaO2N粒子に反応活性点となる助触媒微粒子を高分散に密着性良く担持することができず、光吸収により発生した電子と正孔を効率よく反応に利用することができませんでした。

本研究では、フラックス法で合成したBaTaO2Nの単結晶微粒子の表面に、含侵・水素還元法と光電着法を逐次的に用いることで、Pt助触媒微粒子を高分散に強固に担持させることが可能になりました。その結果、BaTaO2N光触媒を用いた水素生成反応の効率が従来の100倍近くまで向上し、酸素生成光触媒と組み合わせた二段階励起型(Zスキーム型)水分解反応の効率も向上しました。過渡吸収分光分析により、新手法で担持されたPt助触媒微粒子がBaTaO2N光触媒から電子を効率よく抽出するために、電子と正孔との再結合が起こりにくくなっていることがわかりました。予め含浸・水素還元法で少量のPt助触媒を担持しておくことで、Pt微粒子の凝集が起こらずに光触媒上での還元反応が促進されます。それにより、Pt助触媒微粒子がBaTaO2N粒子に満遍なく光電着担持されるようになります。その結果、Pt助触媒微粒子による電子の抽出が効率よく進行したと考えられています。また、適切なフラックスを使用して合成された欠陥密度の低いBaTaO2Nを用いることも、高分散なPt助触媒の担持には重要であることも確認されました。

本研究により、BaTaO2N光触媒の水素生成活性が飛躍的に向上し、その機構が明らかになりました。今回の研究成果は、水分解反応を高効率に駆動する長波長光応用型の光触媒の開発に繋がると期待されます。


なお、本研究は人工光合成化学プロセス技術組合との共同によるもので、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」事業の一環として行われました。


論文情報
題目:Sequential cocatalyst decoration on BaTaO2N towards highly-active Z-scheme water splitting
著者:Zheng Wang, Ying Luo, Takashi Hisatomi, Junie Jhon M. Vequizo, Sayaka Suzuki, Shanshan Chen, Mamiko Nakabayashi, Lihua Lin, Zhenhua Pan, Nobuko Kariya, Akira Yamakata, Naoya Shibata, Tsuyoshi Takata, Katsuya Teshima, and Kazunari Domen
掲載誌:Nature Communications, (2021)


           BaTaO2N上に担持されたPt助触媒粒子のイメージ図