教員紹介

やまだ けんぞう

山田 健三

日本言語文化 教授

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研究

【研究室から】カラー複製古典籍と研究インフラ格差と学問継承

カラー複製古典籍

 天理図書館所蔵の重文・高山寺本和名類聚抄のカラー複製に際して、解題の執筆。
 和名類聚抄は平安期に源順が作成した辞書。この高山寺本は、和名類聚抄写本の中で平安末期書写と見られている最古のテクスト。
 これまでに同本は三度複製されているが、今回初めてのカラー影印。
 ということで、従来の解題にはない新たな知見をつけ加えるべく、原本実見のため、奈良県天理市の天理大学附属天理図書館に通うのはもちろん、旧所蔵者の痕跡を追い夏の金沢に行ったり、いろいろと楽しく過ごした次第。
 また、同僚の佐藤全敏先生(古代史)と研究分野を越えた学問談義からも少なからぬ刺激や示教を得た。(この場を借りて感謝いたします。)

研究インフラ格差と学問継承

宣伝パンフレットのカラー影印サンプル

 近年、日本の文献学資料である古典籍のカラー写真版複製出版が各段に増えた。従来のグレースケール影印では、やはり見にくかった朱点・虫損・などが鮮明になり、国宝や重文のように実見が容易ではない文献にアプローチしやすくなるのは、文献学における研究インフラ整備としては極めて喜ばしいことである。
 ただ致し方ないこととは思うが、カラー印刷に伴う紙質向上や、高度な印刷技術使用に伴い、極めて高額になってしまう。研究環境にとっては、複製がないよりはずっとよいことなのではあるが、残念ながら、このことは研究インフラ格差を広げているかもしれない。
 およそTSUTAYAなど街の新刊書店で実見することなど期待できない専門書については、個人購入には限界がある。大学財政が裕福だった時代には、研究室や大学図書館に配置することは難しくなかったであろうが、昨今の緊縮財政下で潤沢に揃えることは、到底無理な話。
 こんなことで大学は学問を守れるのだろうか。大学が守らなくてどこが守れるのだろうか。ノーベル受賞者が口を揃えて「基礎研究」の重要性を訴えるのは、文理を超えて至極全うな話。我々が現在得ている学知は諸先輩から預かったもので、それに新たなものを付加・更新し、後代に伝えていかなくてはならないものである。応用技術開発も大事なことであるが、学問的原資(基礎)が常に更新・蓄積されつづけなくては、技術開発(応用)もできない。

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