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いとう つくす

伊藤 盡

英語学 教授

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Tolkien drink & food 研究

ガンダルフ・ブレンドを飲みながらガンダルフについて考えます

木曜日は大学院生とのマンツーマンの授業。

いつもはJ. R. R. トールキンの作品を原書で読むのですが、昨日は北欧神話の主神オージンと、『ホビットの冒険』や『指輪物語』などで有名なガンダルフとの共通点についての研究の相談を受けました。
その授業のおともは、もちろんガンダルフ珈琲店のガンダルフ・ブレンドの珈琲にしました。この美味しい珈琲を飲みながらの、ガンダルフに関する授業。ああ、なんて贅沢な時だったことでしょう。

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***ここから先は、少々学問的になりますので、興味ある方だけどうぞ***

あるサイト上の情報では、Gandalfの名前(gand + alf)の前半の要素は、アイスランド語のvöndr(そのサイトでは vondr と書かれていた)に由来すると書かれているのですが、それは正しくないと思います。古アイスランド語には gandr という語が既にあったのですから。

確かに古北欧語(古アイスランド語)にはgandrとvöndrの両方の語があり、後者vöndrが、イングランドに移住した古北欧語話者の語彙として英語に輸入され、現在の「魔法使いの杖」の意味としての英単語 wand になったというのは事実と認められています。

けれど、トールキンが『ホビットの冒険』を書いていた当時も今も、古北欧語の単語 gandr の意味は、学者の間でも議論紛糾でした。そして、当時は「魔法使の使う杖」という解釈も第一義的に認められていたのです。たとえば、Leiv Heggstad編著 <i>Gamalnorsk Ordbok</i>『古ノルド語辞典』(オスロ、1930年)には、1. kjepp som trollkjerringar bruka til trollskap「魔女が魔法をかけるときに使う杖」という語義が載っています。

現在では、この解釈には疑義が出され、魔法に拘わるもの、たとえば魔物とか予言など、より一般的な意味だという解釈が優勢です。従って、Gandálfrは「魔法のエルフ」とでも訳せる意味だと言えます。じっさい、ハンフリー・カーペンターは、恐らくクリースビーとヴィグフースソン編著『アイスランド語—英語辞典』を参照したのでしょうが、ガンダルフの名前は、「アイスランド語で『魔法使のエルフ』」であると、『或る伝記』の中に記しています(原書p.178;邦訳p.210)。

クリースビーとヴィグフースソン編著の『アイスランド語ー英語辞典』は、タイトルに裏切られることに『古アイスランド語—英語辞典」とみるべきものでした。そして、gandr という語の意味は不明確だと述べられ、魔物という意味を載せております。一方、ガンダールヴルというアイスランド語の名前は「魔法使、魔法をかけられた悪魔」という訳語が載っているだけです。

ここで注目すべきは、古北欧語(古アイスランド語)の中で、Gandálfr という名前を持つ者は、『巫女の予言』と呼ばれる北欧神話詩の中だけでなく、スノッリの『ヘイムスクリングラ』中の『ユングリンガ・サガ』第四十九章、『ハールフダンヌル黒髪王のサガ』第一章、『ハラルドル美髪王のサガ』第一,第二章にも、ノルウェーのヴィングルマルクの王として名前が記されているのです。しかし、トールキン自身は、魔法使ガンダルフの名前は、『巫女の予言』から取ったのだと1967年8月の書簡に記しているのです(『書簡集』p.383)。ここに、トールキンがドワーフの名前としての『ガンダールヴル』の意味解釈にこだわったことを見て取ることができます。

そして、上記のように、当時の学問的な意見からみても、「杖」を意味する古北欧語 gandr+ 「エルフ」を意味する古北欧語 álfr が組み合わされた名前だとトールキンが考えていた可能性は、実際にガンダルフを描いた中に見て取れます。彼は最初の登場の時から、『杖』を持って現れるからです。

それにしても、トールキンはいつも「権威ある辞書」に反対意見を唱える人ですが、もしかしたらクリースビーとヴィグフースソン編著の辞典にも異を唱えたかったのかも知れませんね。ドワーフの名前についてクリースビーとヴィグフースソンは 'bewitched demon'などと記している! だめだ、あいつらは何にもわかっちゃいない!・・・なんてね。

 

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