〇下張り文書の剥離と洗浄の講習会に大学史資料センター教職員が参加しました。
概要は以下のとおりです。
長野県史料保存活用連絡協議会 第3回文献史料保存活用講習会
内容:地域資料を後世に遺すためのワークショップ -襖の中に貼られた古文書を取り出す-
日時:2023年1月26・27日(26日午後の部に参加)
会場:長野県立歴史館
〇講師の修復専門員の方に教えていただきながら体験した様子をご紹介します。
※下張り文書とは、襖や屏風の一番上の層(上張り)の下に貼られた大量の紙(下張り)に含まれる
古文書のことをいいます。下張りに使われているのは不要になった紙で、本来なら捨てられてしま
うものですが、これらを再利用し何層にも重ねることで、襖や屏風に弾力性や強さを与えるだけで
なく、温度や湿度を保つことができます。このように古文書が下張りの形で残されたことから、通
常では知ることのできなかった埋もれていた歴史の一端を知ることができるのです。
取り扱った資料はこちらの屏風です。文字が書かれた和紙が何枚も重なっているのがわかります。
(屏風)
<剥離作業>
はじめに、使用する道具や注意点について説明をうけ、実際にやり方を見せていただきました。
習うより慣れよ、ということで、参加者全員で一枚の屏風を取り囲み剥離作業に取りかかりました。まずは、資料を細かい霧が出る噴霧器を使って湿らせます。部屋が乾燥気味だったこともあり、何度も水をかけながら行いました。このとき、糊を剝がしやすくする薬品や浸透剤を混ぜて使うこともありますが、資料を傷めないようにするため、基本的には水のみを使います。
ピンセット(金属製、竹製)や竹ベラを使い、剥がしやすい部分からゆっくりと剥離していきました。無理矢理剥がさず、古文書に負担をかけないようにすることが大事だそうです。
( ↓ 噴霧器) (ピンセット、竹ベラ)
上張りには、絵や書が貼られていることが多いのですが、資料にはピンク色の顔料が塗られていました。その下は古文書が複雑に重なりあっていたので、剝がれやすい部分を探りながら様々な方向から剥がしていきました。また、一枚一枚の和紙がとても薄く、丁寧に剥がしていく作業はとても大変で、気づくと息を止めていたりもしました。
(あちこちから試行錯誤) (和紙の繊維を丁寧に剥がす)
(複雑に重なりあっている部分)
剥離した古文書は、資料全体と同じくらいかそれ以上の大きさの毛氈(もうせん:書道で使うフェルト生地の下敷き)の上に元の配置と同じように並べて置いておきます。また、記録を取っておくことが大事なので、写真撮影用に、資料群名、年月日、剥離層などの情報を記入したターゲット(繰返し使用できるホワイトボード)を用意しておきます。
(ターゲット)
このほか、剥がしたい古文書の上に保護紙(水を透過する不織布)を置き、上から水を噴霧して平らにならし、アイロンをかけて剥がす方法も見せていただきました。
(①保護紙の上から噴霧) (②刷毛でならす)
(③保護紙をゆっくり剥がす) (④古文書がきれいに取れる)
<洗浄作業>
剥離した古文書は、薬品や古文書に付着している埃や虫糞などの汚れを落とします。
古文書が入る大きさのバット(天箱など)に水を手首くらいまで張り、保護紙を下敷きにして古文書を載せ、古文書を保護しながら、手のひらや指の腹でやさしく押し洗いします。
(やさしく押し洗いする)
洗い終えた古文書は、保護紙の端を持ち、古文書がピタッとくっついてくるようにゆっくりと持ち上げていきます。毛氈の上に移動させ、古文書が下になるように置き、古文書を抑えながら端からゆっくり保護紙を剥がしていきます。洗浄を終えた古文書には、仮番号を書いた和紙の紙片を貼り付けます。これで、一枚の古文書を取り出すことができました。
(端から不織布をゆっくりと持ち上げる)
(毛氈の上に広げて不織布を剥がす) (仮番号が書かれた和紙を乗せ、乾燥させる)
この後、一昼夜かけて自然乾燥させます。作業日誌に作業日、作業者、層ごとの仮番号についての情報などを記録して、乾燥した資料は1点ずつ中性紙の封筒へ入れて保管します。
このように、一通りの作業を教えていただきましたが、道具の選定や作業方法については、講師の方も試行錯誤しながらやっているそうです。
実習時間2時間程度でしたが、参加者9名で屏風一枚の片側(通常表裏がある)のうち洗浄までできたのは古文書十枚程度でした。すべての層を剥離し、洗浄する作業もさることながら、記録を取り整理して活用できるようになるまでは気が遠くなる作業だということをあらためて感じました。