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国際交流・留学

[研究者交流][アメリカ]

2020年07月29日 研究者交流

信州から世界へ ~留学体験記~


木村岳史さん
派遣先:アメリカ 国立衛生研究所


はじめ


 みなさん。こんにちは。木村岳史(きむらたけふみ)と申します。信州大学第二内科より、現在アメリカはワシントンDC近郊にある国立衛生研究所(通称NIH, National Institute of Health, 写真1)に留学しています。今回は光栄にもこのような場を頂戴しましたので、留学までの経緯や留学の実際を簡単に述べてみたいと思います。


 


留学までの経緯


 私は、国家試験合格後、臨床研修を終えると、信州大学第二内科、消化器内科(田中榮司前教授)に入局いたしました。まずは医師としての経験を積むのに精一杯で、正直その日暮らしの、全く余裕がない生活を送っていました。医師4-5年目に関連病院で経験を積むなかで、先輩の指導の下、臨床研究を開始、医師6年目(大学院入学時)に田中榮司先生と御一緒する形でアメリカ肝臓学会に参加させて頂く機会がございました。そこで、世界中の医師、研究者が集結して多岐にわたる研究を発表、議論している場面を目の当たりにして、こういう世界があることを明確に認識しました。そして、非常に幸運なことに、その時期にNIHに留学されていた現国際交流推進室・代謝制御学の田中直樹先生のご配慮で、NIHの見学をさせて頂く機会を得ました。その時の経験から、アメリカという国がなんだかとても肌に合う気がして、いつかアメリカで研究生活を送りたいなという目標ができました。


 大学院は代謝制御学で青山俊文先生、田中直樹先生に大変お世話になり、基礎研究のイロハを教えて頂きました。その後、2年間の長野赤十字病院、そして1年の大学での臨床生活を送るなかで、やはり留学への思いが募る日々でした。とはいっても具体的にどうしたら良いのか全く分かりませんので、ここでも田中直樹先生にご相談することにしました。先生がNIHで共同研究された研究室などを幾つか御指南頂き、その中で、下記に詳細を示すDr. Wess研究室に履歴書をお送りしたところ、運よく興味を持って頂くことができ、ポスドクとして正式採用となりました。


  


アメリカでの研究生活


 NIHは、アメリカ合衆国の保健福祉省公衆衛生局に所属し、1887年に設立されたアメリカで最も古い医学研究の拠点機関です(写真1)。本部はワシントンDCにあるホワイトハウスから車で30分ほど北に移動した、メリーランド州ベセスダに位置します。18,000人以上のスタッフ、6000人以上の研究者が所属する巨大な研究機関です。ノーベル賞受賞者は何と100人を超え、研究費も潤沢な世界の最高峰の研究所です。国立癌研究所、国立老化研究所、国立精神衛生研究所など、それぞれの専門分野を扱う研究所など全部で27の施設で構成されており、PubMedの本部もNIHの関連施設です。私はそのうち、国立糖尿病・消化器・腎臓研究所(NIDDK)の中にあるMolecular Signaling Section, Laboratory of Bioorganic ChemistryのDr. Wess の研究室へ留学しております。


  Wess研究室は、G蛋白質共役受容体(GPCR:G protein-coupled receptor)に関連した比較的良く知られた研究室です。10人ほどのスタッフと、決して大規模な研究室ではありませんが、毎年一流紙に多数の業績が掲載されるなど、ドイツ人のボスのもと、アメリカ人、ブラジル人、インド人、中国人などの混合軍で非常に良い雰囲気の中、仕事をしています(写真2)。GPCRは、生体に存在する受容体の形式の1つで、皆さんにもなじみ深いであろうムスカリン受容体、アドレナリン受容体、GABA受容体、ガストリン受容体などはすべてGPCRです。多くの疾患や治療薬に関与しており、市販されている薬剤の半分はGPCRのうちのいずれかを標的としています。このように生体内のシグナル伝達、疾患や治療薬に重要な役割を果たすCPCRですが、肝細胞、脂肪細胞におけるGPCRの役割に関しては研究が始まったばかりです。細胞の制御にどの受容体が関与しているのか、制御システムの詳細、肥満・全身の糖脂質代謝への影響は不明なことばかりです。肝細胞、脂肪細胞におけるGPCRの役割を明らかにし、肥満や糖尿病の治療標的になりうる分子やシグナル伝達経路を同定すること、を目標に研究に励んでいます。本格的基礎研究の毎日で、臨床医としての生活とは違った時間の流れで少し戸惑いつつも充実した日々を送っています。


 


仲間


 ラボの同僚は仕事ではこの上ないサポートをしてくれますし、私生活でも非常に仲が良く、文字通りの異文化交流が出来ていると思います(写真3)。その他、ラボ外のポスドクとの交流も頻繁にあり、研究の相談や共同研究以外に、一緒にスポーツ観戦や、会食するような機会も沢山あります(写真4)。日本人の研究者もバックグラウンドや年齢に関わらず、多数の先生方と知り合えます。最近では、コロナ禍のリモートワーク中に何かできないかと、日本人グループでのBrigham and Women's hospitalのコロナウイルス診療ガイドラインを公式に翻訳するプロジャクトに参加したところです。


 このように国籍を問わず、研究者内での繋がりは非常に心強いですし、帰国後の財産になると確信しています。



日常生活


 アメリカで生活していく中で、一番の懸念材料はやはり治安と言語の壁です。治安に関しては、幸いNIH周辺は非常に良いため、日常生活で危険を感じることは全くありません。ただ、周辺には危険地帯もありますので、治安の悪い地域を認識し足を踏み入れないように注意しています。そして、言語の壁に関してはやはり日本の典型的教育システムで育った身としては過酷であると言えます。幸い、最近はリスニング能力が上昇していると感じ、日常生活での会話程度は問題ないと思えるようになりましたが、今後留学を希望される方にはやはり英会話のトレーニングは必須、とお伝えしなければなりません。ただ、最近は、アメリカには非ネイティブの方も沢山いらっしゃるので、細かい表現の間違いを気にするより、はっきりと言葉を表現する態度が重要かなと考えています。研究分野での話になると、ややこしいことも多いので表現をシンプルにして、図表で分かりやすく表現することの大切さも学んでいます。



最後に


 凡人の私が、留学生活が送ることをできているのは、人のご縁と留学への思いによるところが大きいです。アメリカでの友人や同僚、ボスにはどれほどお世話になったか分かりませんし、そもそも、現国際交流推進室、田中直樹先生の御指南がなければ留学できていないと感じています。是非、海外での研究生活を希望される先生方で、海外との接点を求めている先生は、是非、国際交流推進室のドアをノックして、未来への扉を開けてみてください。


 最後になりましたが、留学に関して信州大学第二内科(医局、同門会)、信州大学医学部付属病院、日本学術振興会より海外留学支援として多大な応援を頂きました。この応援がどれだけ心強かったか、表現しきれません。この場を借りて厚く御礼申し上げます。今後、信州に帰って御恩を返すことが出来るようさらに精進して参ります。






写真1 NIHの主要施設の外観




写真2 Wess研究室のラボメンバー,


前列中央がボスのWess先生, 前列左端が著者



写真3 ラボメンバーとは公私ともに仲良しです