エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクトは、2014年3月をもって終了いたしました。
長きにわたり、ご支援、ご協力を賜りありがとうございました。

研究内容

図1.グラフェン 図1.グラフェンと裏面と表面が異なる曲がったグラフェン 図1.グラフェン(上)と裏面と表面が異なる曲がったグラフェン(下)

図2.窒素分子とSWCNT内側空間との相互作用ポテンシャルの細孔径Rによる変化 図2.窒素分子とSWCNT内側空間との相互作用ポテンシャルの細孔径Rによる変化

“金子チームは何を研究しようとしているのか”

金子チームは、エキゾチック・ナノカーボンの「表面及び分子吸着特性を評価する」という役割を持っている。興味深い新たな細孔性・構造性カーボンが持つ特有の表面・界面機能を見出し、それを新たな産業シーズとしてイノベーションに発展させる役割である。細孔性カーボンは2,000m2/gを超える甚大な表面積を持っているためバルクが表面であり、表面機能が本質的にバルクの特性のようなものである。高い電気伝導性と高表面積の両特徴を考慮すると、細孔性カーボンに優る素材はなかなか見当たらないほど、細孔性カーボンは応用ポテンシャルの高い有望な素材である。なかでも単層カーボンナノチューブ(SWCNT)やグラフェンは、たった一枚の炭素原子層が物質を構成し、図1にあるような2面を表面として使える。SWCNTではナノスケールの曲率の符号の違いによって、二種類の表面を持っており、極限的に優れた界面機能物質と言ってよい。特に強調すべきとしては、内側ナノ空間は特別に分子とイオンに対して強い相互作用ポテンシャルを持っていることである(図2)。このために、異常な高圧圧縮効果や不安定物質の安定化などがおこる。これらの効果はまだまだ応用されておらず、今後適切に応用につながる研究が必要である。我々はこのように特徴的界面構造を有する単層カーボンナノチューブ、グラフェン、あるいは二層カーボンナノチューブなどの優れた界面特性を見出そうと挑戦している。

我々のチームではナノ細孔性カーボンの持つ界面機能を、まず発現させ、次にその機能を画期的に高めたカーボン創出の方策を示す。更に、素晴らしい機能の応用性を産業界に提示し、新たな技術創出への道を開く。

地球に感謝しつつ、甚大な資源の宝庫である「大気」と「海」に注目している。適切なナノ構造を持つカーボンをデザイン・開発して、ターゲット分子あるいはイオンを大気中からあるいは海から濃縮分離し活用する。大気と海からの「宝探し」あるいは「錬金術」を、ENCsとナノ科学のスキルで実現しようという夢がある。

現在の研究内容を概観すると、以下のとおりである。

1.ENCsのナノスペースを活用した環境・エネルギー関連技術への応用基盤研究の推進
2.新規なENCsナノスペース材料の創製およびキャラクタリゼーション法の創出と展開
3.ENCsおよびナノスペース内分子イオン系のキャラクタリゼーション法の高度化・開発
4. ENCsの電磁波の吸収特性評価


この4項目の中ではの課題に関する研究が多い。また、については、「表面増強ラマン分光によるゼロ次元の欠陥構造キャラクタリゼーション 」が新規性と応用力の大きさがあり、重点的に力を入れて研究している。

ENCsのナノスペースを活用した環境・エネルギー関連技術への応用基盤研究の推進

図3.SWCNH のナノ空間中に生成した高圧相KIのTEM像 図3.SWCNH のナノ空間中に生成した高圧相KIのTEM像

● 超高圧効果の発見:19,000気圧で起こるKI結晶の相転移が、KIをSWCNHのチューブ内へ閉じ込めるだけでおこることの発見。超高圧圧縮効果は貴重物質の省エネルギー創製に応用可能。

“Confinement in Carbon Nanospace-Induced Production of KI Nanocrystals of High-Pressure Phase” By K. Urita, Y. Shiga,T. Fujimori, T.Iiyama, Y. Hattori, H. Kanoh, T. Ohba, H. Tanaka, M. Yudasaka, S. Iijima, I. Moriguchi, F. Okino, M. Endo, K. Kaneko, J. Am. Chem. Soc., 133, 10344-10347 (2011).

● エッジ炭素の高活性状態:グラフェンナノリボンを用いてグラファイトナノ結晶のエッジ炭素面の水蒸気と二酸化炭素に対する異常な活性の発見。

“Marked Adsorption Irreversibility of Graphene Nanoribbons” By M. Asai, T. Ohba, T. Iwanaga, H. Kanoh, M. Endo, J. Camos-Delgado, M. Terrones, K. Nakai, K. Kaneko, J. Am. Chem. Soc., 133, 14830-14833 (2011).

● 新しい同位体分離法の開発:当研究チームは動的量子分子篩効果測定装置を開発し、水素/重水素の混合ガスから選択的に重水素を分離することに成功した。

“Dynamic Quantum Molecular Sieving Separation of D2 from H2-D2 Mixture with Nanoporous Materials” S. Niimura, T. Fujimori, D. Minami, Y. Hattori, L. Abrams, D. Corbin, K. Hata, K. Kaneko, J. Am. Chem. Soc. ,134, 18483-18486 (2012).

図4. 図4.

● バインダー・フリーのカーボンモノリスは、メタン貯蔵/放出に有効であることが判明した。 (図4)

“Diffusion-Barrier-Free Porous Carbon Monoliths as a New Form of Activated Carbon”. T. Kubo, H. Sakamoto, T. Fujimori, T. Itoh, T. Ohba, H. Kanoh, M. Martínez-Escandell, J. M. Ramos-Fernández, M. Casco, F. Rodríguez-Reinoso, K. Urita, I. Moriguchi, M. Endo, K. Kaneko, Chem. Sus. Chem. ,5, 2271-2277 (2012).

新規なENCsナノスペース材料の創製およびキャラクタリゼーション法の創出と展開

図5. TSW欠陥 図5. TSW欠陥

● 表面増強ラマン散乱法と電子状態計算からの振動数計算によって単層カーボンナノチューブ内の五員環・七員環ペア(Thrower-Stone・Wales defects、TSW欠陥)などを高感度に検出できること、さらにそれらのダイナミックスへの応用性を示した。

“Evidence of Dynamic Pentagon-Heptagon Pairs in Single-Wall Carbon Nanotubes using Surface-Enhanced Raman Scattering”, By T. Fujimori, K. Urita, T. Ohba, H. Kanoh, K. Kaneko, J. Am. Chem. Soc., 132, 6764-6767 (2010).



● 複雑なキャップ構造の識別:表面増強ラマン散乱と第一原理計算を組み合わせることで、単層カーボンナノホーンの複雑なキャップ構造を見分けることが可能になった。(図6)

“Selective Probe of The Morphology and Local Vibrations at Carbon Nanoasperities”. T. Fujimori, K. Urita, D. Tománek, T. Ohba, I. Moriguchi, M. Endo, K. Kaneko, J. Chem. Phys. ,136, 064505 (2012).

図6. 図6.

ENCsおよびナノスペース内分子イオン系のキャラクタリゼーション法の高度化・開発

図7. スリット空間中のTEA-BF4およびPC分子の可能な配列 図7. スリット空間中のTEA-BF4およびPC分子の可能な配列

● 活性炭素繊維のスリット細孔中の有機電解質イオン構造のX線回折法による部分的解明:TEAイオンの導入によりPC溶媒分子が細孔壁沿いに集まることを示す。

“Effect of a Quaternary Ammonium Salt on Propylene Carbonate Structure in Slit-Shape Carbon Nanopores”, By A. Tanaka, T. Iiyama, T. Ohba, S. Ozeki, K. Urita, T. Fujimori, H. Kanoh, K. Kaneko, J. Am. Chem. Soc., 132, 2112-2113 (2010)

● 炭酸プロピレンが極限的に狭いスリット細孔内で、異常な垂直配向をとることを解明。スーパーキャパシタの高度化に有益な知見を与える。

“Vertically Oriented Propylene Carbonate Molecules and Tetraethyl Ammonium Ions in Carbon Slit Pores”. M. Fukano, T. Fujimori, J. Segalini, E. Iwama, P.-L. Taberna, T. Iiyama, T. Ohba, H. Kanoh, Y. Gogotsi, P. Simon, K. Kaneko, J. Phys. Chem. C,117, 5752-5757 (2013).

研究者・研究チーム紹介