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花木 章秀

花木 章秀

数学科

講座:代数学分野
職名:教授
略歴:
1988 年千葉大学理学部卒業
1990 年千葉大学理学研究科修了
1994 年千葉大学自然科学研究科修了(博士(理学))
1994 年山梨大学工学部助手
1998 年信州大学理学部講師
2000 年信州大学理学部助教授
2007 年信州大学理学部准教授
2009 年信州大学理学部教授
キーワード:アソシエーション・スキーム
ホームページ:http://math.shinshu-u.ac.jp/~hanaki
SOARリンク:SOARを見る

有限の数学

現在の研究テーマ:アソシエーション・スキームの表現

学生時代の私の専門は「有限群の表現論」であったが、ある問題がきっかけとなり、現在は主にアソシエーション・スキーム、特にその表現を研究している。アソシエーション・スキームの勉強を始めた頃は、身近に詳しい人もなく、色々と苦労をした。まず具体的な例を知るために、小さいものを書き上げるということをした(これは後に計算機を用いた分類という研究に発展し、現在も続いている)。そのときに思い付いた問題に「素数位数アソシエーション・スキームの分類」があった。よく知られているように素数位数の群は巡回群に限る。同様のことがアソシエーション・スキームに対しても成り立つのかと いうことである。素数位数のアソシエーション・スキームはcyclotomic scheme とそれに代数的に同型なものしか知られていない。しばらくの間、私の主テーマはこの問題であったが、そう簡単には解決の糸口を見つけることはできなかった。

2004 年秋、ある研究集会で大阪教育大学の宇野勝博先生とアソシエーション・スキームの表現に関す る話をした際、「原点に帰ってR. Brauer の1940 年頃の論文を読むといい」といわれた(R. Brauer は有限群のモジュラー表現の多くの重要な部分を築いた数学者)。さっそく読んでみた。するとその中の議論に使える部分があり、それを利用することによって大きな結果を得ることができた。その後、宇野先生と議論を重ねて、現在得られている結果は以下の通りである。

定理(花木-宇野). 素数位数アソシエーション・スキームは可換である。更にその最小分解体がアーベル体であるならば、それはcyclotomic scheme と代数的に同型である。

これはその証明にモジュラー表現を本質的に用いており、新しい手法による成果ともいえる。定理の中の仮定について「可換なアソシエーション・スキームの最小分解体はアーベル体であるか」(坂内-伊藤)という問題があり、これが肯定的であるならば素数位数アソシエーション・スキームは既述のものに限られる。しかし我々の結果の後、小松-坂内によって知られていない素数位数アソシエーション・スキームの存在の可能性が示されている。

素数位数アソシエーション・スキームに関する問題は完全に解決したわけではないが、表現論的な議論 はしつくした感があり、現在はあまり考えていない。現在、もっとも興味をもっているのは、アソシエー ション・スキームとその部分スキームや商スキームの間の関係である。これがよく分かれば、多くの問題は原始的スキーム(部分スキームや商スキームをもたないもの) に帰着することができ、その研究が進むことが期待される。最近、表現に関してClifford型の定理を証明したが、更なる一般化を行いたいと思っている。

研究領域:代数的組合せ論-アソシエーション・スキーム-

1930 年代、R. A. Fisher は農業試験を効率的に行うため、幾何学における配置問題を応用した。これ が「実験計画法」という名の「組合せデザイン」の研究の始まりとされる。「組合せデザイン」の問題とは、簡単にいえば、「全体をよく近似するなるべく小さな部分集合を見つける」ということである。部分集合を小さくすれば、近似が悪くなるのは当り前のことであるが、ある意味でもっとも効率のよいものを求めたいのである。

1940 年代にはC. E. Shannon らによって「誤り訂正符号」の理論が作り出される。誤り訂正符号とは 情報通信の際に生じるノイズ(雑音) を除去するために、用いられるものである。簡単な例として、まったく同じ情報をくり返し送るという方法がある。もし受け取った情報が異なれば、誤りがあることが分かる。また3 回以上送れば、多数決の原理によって正しい情報を推測することが出来る。しかし、この方法では情報量が大きくなりすぎるという問題がある。情報量の増加を少なくし、かつ誤り検出、誤り訂正の効率もよくするというのが、誤り訂正符号の理論の一つの目的である。

「組合せデザイン」や「誤り訂正符号」の理論は、このように実用的な問題から始まっているが、純粋 数学としての研究も盛んに行われてきた。1973 年にP. Delsarte はこれらのものを「アソシエーション・ スキーム」という枠組の中で統一的に扱うことが出来ることを示した。Delsarte の論文が、アソシエーション・スキームを中心とする「代数的組合せ論」の出発点であるともいわれている(代数的組合せ論という言葉の意味は広く、他の意味で用いられることも多い)。

一方でD. G. Higman は1970 年代を中心に有限群論、あるいはその表現論の一般化という観点からcoherent configuration を研究した。特にhomogeneous coherent configuration はDelsarte らによるアソシエーション・スキームの非可換版ともいえるものであり、私はこの意味で「アソシエーション・スキーム」という言葉を使っている。この意味ではアソシエーション・スキームは有限群の概念をその特別な場合として含むことになる。

アソシエーション・スキームは元々、組合せ論的な研究対象であるから、その研究は組合せ論的な手法によるものが多い。しかし、多くの組合せ論的な議論は扱う集合が大きくなると、もはや手に負えないほど複雑で難しくなる。そこで、ある種の"粗い"議論が有効になってくる。アソシエーション・スキームからは自然に代数が定義される。この代数を調べることによって元のアソシエーション・スキームの性質などを見るのである。近年、この方法によっていくつかの新しい結果が得られたため、注目される研究の一つとなっている。特にモジュラー表現(正標数の体上の隣接代数の表現) はほとんど研究が進んでおらず、今後の発展が期待される。

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X を有限集合とする。S はX ×X の分割とする。すなわち \[ X \times X =\bigcup_{s\in S} s \ \ \ \ \ (disjoint) \] である。(X, S) が以下の3 条件をみたすとき、これをアソシエーション・スキームという。

\( (1)\ 1=\{(x,x)|{x\in X}\}{\in S,}\\ \)
\( (2){s\in S} \)ならば \[ s^*=\{(y,x)|{(x,y)\in s}\}{\in S,} \]
\((3)s,t,u{\in S}\) にたいして整数 \(p^u_{st}\) が存在して、 \((x,y){\in u}\) であるとき \[ \sharp\{z\in X|(x,z)\in s, (z,y)\in t\}=p^u_{st}. \]

集合X の元数を(X, S) の位数という。このときSの元を形式的な基底とし\(p^u_{st}\)を構造定数とする代数が定義される。これを(X, S) の隣接代数という。隣接代数が可換であるときアソシエーション・スキームは可換であるといわれる。

任意の\(s \in S\) に対して\(p^1_{ss^*}=1\)であるようなアソシエーション・スキームは、本質的に有限群と同じものであり、そのときの隣接代数は群代数と同じになる。

複素数体上の隣接代数は半単純であり、したがって指標理論が有効である。このときの表現を通常表現という。正標数の体上の隣接代数は半単純とは限らず、一般にその研究は難しい。このときの表現をモジュラー表現という。正標数の体上の隣接代数がいつ半単純になるかはFrame によって判定できるが、Frame 数を求めることは一般には容易ではない。