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太田 哲

太田 哲

化学コース

講座:有機化学分野
職名:准教授
略歴:
1991年 信州大学理学部化学科卒業
1993年 信州大学大学院理学研究科化学専攻修了
1996年 総合研究大学院大学数物科学研究科構造分子科学専攻修了,博士(理学)
1996年 分子科学研究所特別協力研究員,日本学術振興会特別研究員
1997年 信州大学理学部助手
2007年 同助教
2008年 同準教授
キーワード:有機酸化還元系
ホームページ:http://science.shinshu-u.ac.jp/~chem/ohta/
SOARリンク:SOARを見る

分子の形を自在に変える

現在の研究テーマ:酸化還元応答性有機分子の開発

外部から刺激(光,熱,圧力,イオンなど)を加えることによって分子の構造や性質が劇的に変化する物質が知られています。例えば,pH指示薬は,水素イオンの濃度によって分子構造が変化するとともに色が変わります。このような分子は,外部刺激または置かれている環境に応じて性質が変わることから応答性分子とも呼ばれ,記録材料やセンサーなどの様々な機能性物質への応用が期待されています。私たちの研究室では,外部刺激として電子の移動つまり「酸化還元反応」を利用し,これによって分子の構造(形)や性質を自在に変えることをテーマとして研究を行っています。

現在進めている研究の一つを紹介します。この研究では,酸化還元反応による分子構造の変化を利用して他の分子をつかんだり放したりすることのできる「分子ピンセット」を作ることを検討しています。図1はその設計図です。何か新しい分子を設計する際はいつもこのような概念図からアイディアを練っていきます。緑色で示した所が他の分子(ゲスト分子)を識別する部分です。左の状態ではこの部分が向かい合った構造をとりゲスト分子を挟めますが,酸化によって生成する右の状態では分子構造が変化してゲスト認識部位が離れるためゲスト分子を挟めなくなるだろうと考えました。図2が実際に合成した分子です。灰色の球が炭素原子,水色が水素原子,赤色が酸素原子,黄色が硫黄原子を表します。左右の分子はそれぞれ図1の左右の各状態に対応し,酸化還元反応によって互いに変換することができます。それぞれの化合物にゲスト分子を加えたところ,期待通り左の分子はゲスト分子を挟みましたが,左の分子はほとんど挟まないことが明らかになりました。 ここで紹介した分子のように機械のような動きを示す分子は「分子機械」とも呼ばれ,近年注目を集めています。当研究室では,他にもいろいろな動きを示す酸化還元応答性有機分子の開発を目指して研究を進めています 。


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図1 分子ピンセットの設計図


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図2 合成した分子ピンセット


高校生へのメッセージ

化学の道に進んだ理由
私と化学との出会いは小学校3年生頃にさかのぼります。もともと理科は全般的に好きでしたが、「理科の実験」という図鑑を手にしたのが化学という分野に興味を持つ大きなきっかけとなりました。この本には家でもできる実験や自然観察の方法が書いてありました。色々と自分で試した中でも化学の実験は色が変わるなど変化に富んでいて特に面白いと感じました。初めてやったのはヨウ素−デンプン反応だったと思います。理屈などはあまりわかりませんでしたが、とにかく褐色のヨウ素液がジャガイモなどに触れると青紫色に変わる様子には大いに興味をそそられました。また、学校の理科室で目にした試験管やフラスコなどの実験器具、色々な名前の薬品、それから元素記号や化学式など、化学に関連するものに憧れたものです。幸い化学への興味は中学校、高校へと進んでも薄れることはなく、将来は化学の研究者になりたいと考え、大学進学に当たっては迷わず理学部の化学科を選びました。

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合成実験

大学では実験技術も含めて化学をより深く学ぶことができ充実しておりました。4年生になるときの研究室選択では一つの分野に絞るのが何となく惜しく少々迷いましたが、有機化学の研究室を選びました。その後、恩師や多くの友人、先輩との出会いを経て現在に至っています。
私にとって化学の魅力は、物質の構造や性質を解明するとともに、新しい物質や機能を創り出すことができるという他の学問分野にはない特徴、まさに化学という学問の目的・手法そのものです。また、幼い頃に経験した物質が見せる多様な変化に対する感動は、現在の研究テーマ「応答性有機分子の開発」にもつながっているのではないかと思います。

大学進学に向けてのアドバイス
高校生の皆さんにとってはこれから受験という関門が控えていて、好きな科目でも楽しみながら勉強する余裕はないかもしれません。しかし、大学に入ってからは、腰を据えてじっくりと勉学を深めて下さい。そのための時間は十分にあるはずです。ただ、それを生かせるかどうかは過ごし方次第です。大学進学の目的や目標を常に意識しながら大学生活を送ることが大切と考えます。また、自分の得意とする専門分野を高めつつ、自然科学に限らず幅広い分野を学んで視野を広げていただきたいものです。

私の研究室
前ページでも書いたとおり私の研究室では新しい応答性有機分子の設計と合成に関する研究を行っています。毎年、研究室には4年生と大学院生が合わせて5〜6名在籍しており、互いに協力しながら朝早くから夜遅くまで熱心に勉学と研究に励んでいます。研究室での生活のほとんどは化合物の合成実験に費やされます。研究はこれまで誰もやっていないことを調べるわけですから、多くの困難や失敗、試行錯誤がつきものです。そんなときは私も学生と一緒に悩みながら解決策を模索します。また、学生が自分の意見を自由に述べ議論できるような雰囲気作りを心がけています。これは逆に言えば、ただ言われたことだけをするのではなく、自分で考え工夫して研究を進める力を身につけてもらいためでもあります。