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金 継業

金 継業

化学コース

講座:分析化学分野
略歴:
1986年 華東師範大学 化学学部(中国上海市)卒業
1993年 名古屋大学大学院工学研究科応用化学専攻修了,博士(工学)
1993年 岐阜大学工学部 助手
2001年 岐阜大学機器分析センター 助教授
2003年 信州大学理学部 准教授
キーワード:超音波
ホームページ:http://science.shinshu-u.ac.jp/~chemstaff/bunseki/index.html
SOARリンク:SOARを見る

超音波を利用した新しい分析技術の創出をめざして

現在の研究テーマ:超音波による新しい反応場の形成と分析化学への応用

超音波は人の耳に聞こえない周波数 20 kHz 以上の音波と指さしますが,溶液に超音波を照射するとそのエネルギーは分子の振動エネルギーよりも低いため,直接に化学反応を引き起こすことができません。しかし,溶液に超音波を照射すると,液体中に超音波を照射することによりキャビテーションと呼ばれる気泡の発生,圧縮,崩壊過程がおこり,数千度,数千気圧の高温の反応場が形成されます。水分子は熱分解されヒドロキシルラジカル(OH・)や過酸化水素(H2O2)などの活性酸素種が生成され,微量のルミノールが共存させると図1Aに示されますように化学発光現象を観測することができます。このような反応場を利用してこれまでの方法では合成されない全く新しい化合物の合成が可能になります。

私は現在,電気分析化学の機能化,高感度化に関する研究を行っていますが,ナノ粒子,カーボンナノチューブのナノ材料は高い電気化学的触媒特性を示すため新しい電極材料として注目されています。ここで,超音波反応場による貴金属ナノ粒子の新しい合成方法の検討を行っており,調製しましたナノ粒子を電極表面に修飾することによって,生体中の活性酸素などを高感度で計測できる電気化学センサーの創出を目指しています。また,超音波反応場中の電気化学反応は,電解効率が格段と向上できるため,従来の検出限界と選択性を遙かに凌駕する超高感度ストリッピングボルタンメトリーの開発を行っています。その一方では,超音波が発生する定在波は微粒子を溶液中にトラップし,無重力の状態を作り出すことが可能です(図1B)。溶液中微粒子,特に細胞などのバイオ粒子の新しい分離・濃縮場としての利用を探索しているところであります。

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図1:超音波による反応場の形成
(A)超音波による発光反応
(B)超音波による微粒子を操る



高校生へのメッセージ

私は中国上海で高校生活を送りました。当時の中国高校生にとって,高等教育を受けることは国家公務員に等しい社会的保障に繋がるため,その難関を突破するため一生懸命受験勉強しました。私の高校は上海でもトップクラスに入る全寮制の学校で,ルームメートの7人は医学や計算機科学(現在電子情報)などの当時の人気専攻に進学しましたが,私だけ化学への道を選びました。それは,化学の教員だった父親から受けた影響が大きいものでした。大学3年のときに,大学と上海市が連携した上海郊外にある淀山湖の水質調査プロジェクトに参加したことをきっかけに,環境分析に興味を持ち,その後の卒業研究に分析化学講座で行いました。そして,大学を卒業後,環境分析のための最先端分析法を学ぶという目的で憧れていた日本への留学を決意しました。
留学先の名古屋大学工学研究科原口研究室では,原子スペクトル分析法,特にプラズマ分光法の研究手法を中心に,環境分析や材料分析,臨床診断分析等の分野において研究を展開していましたが,私には環境分析に無関係の「レーザーラマン分光法による導電性高分子の微細構造解析」という研究テーマを与えてくださいました。そこで,故障が多く,恋人を相手にするような気持ちで接しないとデータが取れないレーザーラマン分光光度計に出会い,周囲からノイズの影響を抑えるためにほとんどの実験は深夜で行ないました。直接の指導をしていただいた若き助教授はいつも深夜までお仕事されていたので,彼とカンカンガクガクの議論をする機会が増え,普段の授業では得られないような知識からお酒の楽しみ方まで,いろいろと教わりました。結局,その研究テーマは博士課程修了するまで続いた。2000年白川英樹博士のノーベル賞受賞により,現在導電性高分子は世界的にも広く知られるようになりましたようになりましたが,当時は地味で,基礎的な研究分野でした。でも,その頃に学んだことは今の研究を進める上で大きな礎となっていると気がします。
私は岐阜大学工学部より信州大学に赴任してきて,現在は電気化学を中心に据え置きながら,微量成分の高感度検出技術の開発に関する研究を推進しています。2007年度研究室のメンバー構成は,大学院博士課程後期1名,大学院博士課程前期2名と4年生3名となっています(写真1)。大学における学生生活では,研究や学業に没頭する時期も重要だし,部活や読書に没頭する時間も必要です。特に携帯電話やパソコンによるメールでの意思伝達の時代において,人とのコミュニケーションはより大切ではないかといつも学生に進言しています。研究室生活は毎日朝の輪読(英語の教科書を読む)から始まり,そして,各学生が2~3週間に1回,自分の研究状況を発表し,討論します。また週1回コロキウムを行い,各自の研究に関連のある論文を解説し議論します。素直でがんばり屋が多いのですが,研究には忍耐力が必要ですし,辛いことも多いので,皆が楽しく主体的に研究を進めてもらうためにはどうすればよいかをいつも考えています。
分析化学の研究目的は「人に見えないものが見える」ようにすることとも言えます。新しい分析計測法の開発により,自然のしくみを知る最も強力な手がかりであり,その発展は将来の産業を支える重要な基礎技術にもなります。若い研究者・技術者がこの分野に興味を持ち,新鮮なアイデアを持ち分析機器・技術の研究開発に参加されることを期待したい。

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写真1:2007年度研究室メンバー