冒頭のことば

信州大学医学部内科学第三講座 教授 池田修一

池田修一

 信州大学医学部脳神経内科、リウマチ・膠原病内科は1973年に内科学第三講座として創設され、現在に至っております。教室の運営方針は一貫して良い内科医を育成することであります。では良い内科医とはどんな医師像を指すのでしょうか。それは専門性に係わらず、患者さんが有する全身臓器の障害を適格に診断して、個々の病態に応じた治療ができることを意味します。内科医の本質は患者さんの身体の内側に巣くう疾病を聴く・視る・触るの三感で正確に診断することであります。またこうして得た情報を自分が持つ知識と経験に照らし合わせて十分に吟味した後、次の治療戦略を立てることです。即ち内科医は常に患者さんから情報を詳細に収集して考える姿勢が大切です。しかし昨今の画像診断の驚異的な発達により、ともするとこうした内科医の本来あるべき姿がかすんでしまっている感があります。また臓器別診療体制の普及により、最近は臓器を診ても患者さんの全身を診ない内科医が増えつつあることが指摘されております。私どもは、全ての臓器・器官が神経支配を受けている、リウマチ・膠原病は全身の臓器・器官を標的とする、の基本的概念を念頭において、患者さんを総合的に診る内科医になることを目指しております。

 もう一つの重要な理念は“良い臨床医になるためには研究者としての素養を身に付けること”であります。従来、内科医のトレーニングは検査手技を習得することが最優先されておりました。しかし現在の臨床医学では遺伝子解析、蛋白分析等の分子生物学的検査法が日常的に使われております。こうした補助検査法の多くは、実際に自分が手を下した経験がないと、検査結果の意味付けを十分理解することが困難です。そこでわれわれは専門研修の一環として基礎医学的研究への取り組みを導入しており、同時に大学院博士過程へ進むことを推奨しております。さらに教室の研究体制を強化するために、平成22年度から寄附講座である神経難病学講座を設立して、神経病理学、分子神経遺伝学の推進に努めております。これらを機能的統合することにより、難病の病態解明や新たな治療法の開発に挑み、国際的な研究成果を生み出していきたいと考えております。Evidence-based medicineが叫ばれる今日、研究者の目を持つことが良い内科医になるためには不可欠です。

 最後に教室の最大の目標は人を育てることです。医師は病める人に対して誠心誠意対処する、社会に向けて奉仕する精神を持つことが大事です。また病院の診療面ではチーム医療に専念することです。こうした医師としての基本姿勢は教室内の日常生活から自ずと身に付くべきであり、そのためには環境と人の和が重要です。私は教室内において若手医師が最大限の能力を発揮でき、また誰とでも気軽に質問・論議ができる環境作りに努力しております。勿論、余暇を楽しむことも医師の生活上非常に大切なことです。私どもは脳神経内科、リウマチ・膠原病内科の診療と研究は常に国内外のトップレベルにあることを自負しながら、さらなる発展を目指して日々努力しております。最後になりましたが、こうした考え方に賛同される医師が一人でも多く集まることを期待しております。