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研究概要

酸化LDL受容体LOX-1研究の概要

動脈硬化性疾患の予知と予防に向けて

秦の始皇帝が徐福に不老長寿の薬を探しに行かせた話からもわかるように、不老長寿は古代からの人類の願いです。私は医学を学び、研究を志したものとして、どうしたら健康長寿が実現されるのか常に興味を持っていました。 では、健康長寿実現のため、どのようにして実際に自分はアプローチしていくのか?研究者として私は、本質にかかわる部分に対して新しい知見を得たい、そして、それに基づいた応用を考えだすことによって健康長寿への貢献をしたいと考えています。

悪玉コレステロール説から酸化LDL仮説へ

血管の老化は、動脈硬化の進行により起こると言えます。コレステロールが高いことが動脈硬化に悪いということは、普段の生活の中でもすっかり定着し、特定保健用食品で「コレステロールが気になる方に」という言葉をつけた、血中コレステロールレベルを下げる食品も数多く出てきました。 臨床的には、コレステロールの中でも悪玉コレステロールと言われるLDLが高いほど、虚血性心疾患のリスクが高まり、善玉コレステロールと言われるHDLが高いほど、リスクが低くなることが疫学研究で証明されています。さらにはLDLコレステロールを減少させるスタチンという薬が遠藤章先生の発見を契機に開発され、スタチンが血中コレステロールを減少させるだけでなく、虚血性心疾患の発生も抑制することが明らかになっています。そして、今ではスタチンは世界で最も使われる薬になっていて、その売上高は世界全体で2兆円を超えています。

酸化LDL受容体

「作用があるものには受容体がある」、薬理学の教室で研究をしていた私は、このような薬理学の基本的な概念に自然に押され、酸化LDLの受容体の実態は何かに興味を持ちました。酸化LDLには2つの主な作用があり、ひとつは動脈硬化巣に蓄積し、血管の内腔を狭くして血流を悪くする原因になる泡沫細胞へとマクロファージを変化させるもので、この受容体は東京大学の児玉龍彦先生がマサチューセッツ工科大学のMonty Krieger先生と一緒に同定されました。酸化LDLのもう一つの作用は、血管内皮細胞の機能を血管収縮性・炎症性・血栓性に変化させることです。後にノーベル賞が与えられることになる、血管弛緩因子である一酸化窒素を血管内皮細胞が産生しているという発見や、私のお世話になった眞崎知生先生の研究室で、同じく血管内皮細胞から逆の働きを持つエンドセリンという物質の発見がなされ、当時、血管内皮細胞を対象とした研究が大変注目されるようになっていました。

LOX-1の研究をどう社会貢献へと結びつけるのか

基礎研究というものは、それ自体が一種の目的であり、自然の仕組みを明らかにすることそのものに意義があり、研究者もそこに価値を感じています。ただ、医学というものの性質上、やはり人の健康にどのように貢献できるのかが重要であり、そして実際に貢献できたとすれば、それは研究者にとって最高の喜びと言えます。 とはいえ、たまたま自分の見つけたものがそのまま役に立つほど甘い世界ではありません。多くの製薬企業が競って新薬開発を行っても、そうそう新しい薬は出てこないのですから。しかし、幸いにも、私達を含め国の内外から出された動物実験のデータから、動脈硬化が促進されるような状況で、体の中でLOX-1が増加すること、LOX-1をブロックすることで血管内皮細胞の機能が健康に保たれること、動脈硬化が抑制されること、心筋梗塞が抑制されることなどがわかってきたのです。


治療薬

治療薬には、LOX-1をブロックする物質を開発することになります。その第一の方法はLOX-1をブロックする抗体を作ることです。そしてその抗体は、ヒトに使用しても排除されないように、ヒト型抗体やヒト化抗体と呼ばれる特殊なものでなければなりません。これは、ヒト型抗体をマウスで作製する方法を世界で初めて開発した日本たばこ産業の方が、たまたまLOX-1の研究に興味を持って下さり、早い段階でヒト型抗体が完成しました。また、ヒト化抗体も、ニワトリからモノクローナル抗体を作製する技術を開発された広島大学の松田治男先生が、たまたま私が研究会で発表したのを聞いて興味を持って下さり、作製することができました。 しかし、抗体を日常的に治療薬として使用するには大変なコストがかかり、動脈硬化のような長い期間治療を行うものには不向きです。私達は、心筋梗塞や、治療法のない難病の治療に、私達が開発した抗体が生かせるのではないかと考えています。

健康食品

同じようにLOX-1をブロックする物質を応用するのに、予防薬という考え方があります。ただ、「病気」とみなされない「健康」な人が「薬」を服用するという考え方はありませんので、それは予防薬という呼び方はできず、いわゆるサプリメントなどと同じように、食品として扱われることになります。特定保健用食品もこれに近い考え方です。 動脈硬化においては、この「予防」という考え方がとりわけ重要になります。なぜなら、動脈硬化は20代のうちから、「健康」な私達ほとんどの体の中で時間とともに進行しているからです。そして困ったことに、私達は、その動脈硬化の進行をほとんど自覚することなく長い年月を過ごし、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞で倒れてしまうことになります。これを防ぐためには、心筋梗塞や脳梗塞に至る前の動脈硬化の段階で「治療」をすることが必要となります。生活習慣病と言われる糖尿病、脂質異常症、高血圧などがあれば、病気として治療をされるのですが、そこまで行く遥か以前から動脈硬化は健康な人の中で進行しているのですから、これらの生活習慣病以上に生活習慣の中で、予防していくことが重要です。 そのために、私達は食品として使われている材料の中から、LOX-1をブロックする物質を探し出し、それを用いた動脈硬化予防薬(実際には食品として扱われますが)を開発することを考えました。食品会社の協力も得て、最近LOX-1ブロッカーとして働きそうな物質をいくつか見つけ、動物での効果をみる段階に入ってきました。

診断薬

診断薬というのは、病気が起きたことや、病気になりやすさを知るために、その時点での体の状態を反映する指標を得るためのものです。LOX-1の発現は、細胞が健全な状態では少なく、何かの障害を受けると急激に高まることから、LOX-1が心筋梗塞が起きたことの指標になる可能性が考えられています。また、右に述べたように、病気の予防、動脈硬化の程度を知るという意味で、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患に将来かかる可能性を知ることが、大変重要です。 私達は、LOX-1の量と、LOX-1を活性化する酸化LDLの量を合わせて測定するLOX indexという指標を考案し、その測定法を樹立しました。健康な方、約2500人の血液を用いてLOX indexを測定し、その後11年間の健康状態を観察すると、LOX indexの高い人では、動脈硬化性疾患の発症が明らかに多く、特に脳梗塞の場合3倍以上も発症リスクが高くなることがわかりました。これは高血圧による脳卒中の発症リスクに匹敵するものです。 高血圧は動脈硬化につながる「病気」として、積極的な治療が行われています。私達の研究で、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満がなくてもLOX indexが高いことが脳梗塞のリスクになることがわかったことで、LOX indexが高いことが、「病気」のような状態であるとも言えます。今後、健康診断でLOX indexを測定し、LOX indexが高い人に、生活習慣の改善や精密検査を勧めたりすることが、脳梗塞などの動脈硬化性疾患の予防に役に立つのではないかと考えています。

今後の展望

私達の基礎研究成果の実用化は、社会貢献したいという私達の小さな思いだけでは、何も起こすことができません。実用化の試みを研究の一環としてサポートしていただける仕組みがあったおかげで、私達の基礎研究に基づいた発想は、種から芽を出すことができたと思っています。今後、芽から大きく育つためには、企業と私達がより一層緊密に連携していかなくてはなりません。

    

研究内容

     

酸化LDL受容体LOX-1の発見
LOX-1と細胞との相互作用から細胞接着・炎症へ
LOX-1とCRP
LOX-1に結合する内因性のリポ蛋白質
LOX-1ブロッカーの開発
LOX-1を用いた診断技術の開発


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