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LOX-1ブロッカーの探索HEADLINE

LOX-1と酸化LDLの結合を阻害する分子を、食品由来の抽出物(野菜、果物、穀物、豆類、樹皮、茶葉、ハーブ、酵母など)およそ400種類からなるライブラリーから探索した。


まず、サンドイッチELISA法を用いて、LOX-1と酸化LDLの結合を70%以上阻害する食材を選別し、これらの中からさらにLOX-1発現細胞への酸化LDLの取り込みを70%以上抑制するものを選別した。これらのLOX-1阻害活性が強い食品素材の多くは、ブドウ種子、ピーナッツ種皮、リンゴポリフェノール、マツ樹皮など、高プロシアニジン含有食品として知られるものであった。そこで、組成の70%以上がプロシアニジン類で構成されるリンゴポリフェノール分画を用い、LOX-1阻害成分の同定を行った。リンゴポリフェノール分画は、LOX-1発現細胞への酸化LDL(10 μg/mL)の結合を用量依存的に抑制した(IC50:102 ng/mL)。リンゴポリフェノール分画を、プロシアニジン/カテキンの混合分画、フェノールカルボン酸分画、その他の分画に分離し酸化LDL結合阻害活性を測定したところ、プロシアニジン/カテキン混合分画のみが、LOX-1発現細胞への酸化LDLの結合を阻害した。

プロシアニジン類および(エピ)カテキンは、ポリフェノールの一種であるフラボノイド類に属する化合物である。ポリフェノールは複数のフェノール性水酸基を持つ分子で、5000種類以上の骨格構造が確認されており、配糖体も多い。したがって、ポリフェノールと一口に言っても実体はかなり多様な物質の総称である。そのうちフラボノイド類は、2つのベンゼン環(A環、B環)が3個の炭素原子で繋がった(C環)ジフェニルプロパン構造を持つ化合物で、配糖体を含むと7000種以上の構造が知られている。フラボノイドのC環3位に水酸基が結合したものがフラバノール類で、フラバノールのA環およびB環にさらに水酸基が付加されたものがカテキン類である。プロシアニジン類は(エピ)カテキンが4-6位もしくは4-8位で繰り返し縮合したオリゴマーで、2〜15量体を形成する。

プロシアニジン類の重合度とLOX-1阻害活性の関係を調べるため、カテキン含有プロシアニジン分画から、(エピ)カテキンと、2〜7量体のプロシアニジンをそれぞれ調整した。3量体以上のプロシアニジン類は、用量依存的にLOX-1発現細胞への酸化LDL(10 μg/mL)の結合を阻害した(IC50:61 ng/mL[3量体]〜27 ng/mL[7量体])。2量体プロシアニジンの阻害活性は3量体以上と比較して弱かったが(IC50:330 ng/mL)、それでも1 μg/mLの投与でLOX-1と酸化LDLの結合を完全に抑制した。一方、(エピ)カテキンにはLOX-1阻害活性が全く認められなかった。

カテキン類のC環2位と3位は不斉炭素であるため、その重合体であるプロシアニジン類には多様な光学異性体が存在する。リンゴには6種類の3量体プロシアニジンが含まれるが、その内、代表的な異性体4種についてLOX-1阻害活性を検討した。いずれの異性体も、LOX-1発現細胞への酸化LDL(10 μg/mL)の結合を同程度に阻害した(IC50:41〜73 ng/mL)。血中の酸化LDL濃度により近い3、あるいは1 μg/mLでは3量体プロシアニジンのIC50は26および7 ng/mLであった。このことから、かなりの低濃度でプロシアニジンが酸化LDL結合阻害効果を示すことが明らかとなった。

プロシアニジン類の重合度はそれらを含む食材によって異なるが、プロシアニジン類のLOX-1阻害活性が3量体以上の重合度や光学異性体間で大きく変化しなかったことから、高プロシアニジン含有食品はいずれもLOX-1阻害効果を示し得ると考えられ、食品素材のスクリーニング結果とも合致する。これらの結果から、リンゴポリフェノール分画が示したLOX-1阻害活性の成分はプロシアニジン類であると結論した。LOX-1と酸化LDLの結合を低濃度で阻害する化合物の報告はこのプロシアニジンが初めてである。

In vivoにおけるLOX-1ブロッカーの効果

SHRSPラット動脈壁への脂質沈着モデル

In vivoにおけるLOX-1ブロッカーの効果を評価するには、動脈硬化症と類似し、短期間で病態作成と薬効評価ができ、かつLOX-1の阻害効果を観察するのに適した動物モデルが必要である。そこで、高血圧ラット(SHRSP)を用いた動脈壁への脂質沈着モデルについて、その有用性をまず検討した。このモデルはSHRSPラットを樹立した家森幸男京都大学名誉教授による報告、すなわち高脂肪食および食塩負荷により、SHRSPの腸間膜および脳底動脈にリング状脂質沈着が急速に起こるという観察に基づくものである(Yamori, Y. et al. Stroke 1976)。このモデルで見られる脂質沈着は動脈硬化そのものとは病態が若干異なるものの、初期のアテロームで認められる脂肪線条と似ており、早期動脈硬化の病変形成を解析する上で有用なモデルである。

この高血圧ラット腸間膜動脈壁脂質沈着にLOX-1が関与している可能性を考え、まずLOX-1の発現をSHRSPと正常血圧ラットWKYとで比較してみると、SHRSPでは腸間膜動脈のLOX-1のmRNAおよび蛋白質の発現が著しく亢進していることがわかった。次にSHRSPおよびWKYに高脂肪食・食塩水の負荷1、2、5週間後の腸間膜動脈を観察すると、SHRSPにのみ負荷期間の長さに応じた脂質沈着が認められた。


高脂肪食・食塩水を負荷したSHRSPでは、腸間膜動脈の内皮細胞および平滑筋層の一部にLOX-1が強く発現しており、その局在は酸化LDLとよく一致していた。血管壁内にマクロファージが観察されないことから、この動物モデルでは、平滑筋での脂質の取り込みが亢進していると考えられる。

そこで、このモデルで、高脂肪食・食塩水負荷直前よりLOX-1と酸化LDLとの結合を阻害する抗LOX-1抗体をSHRSPに繰り返し投与してみると、負荷1週間後の観察で、血管壁への脂質沈着の著明な抑制を認めた。SHRSPに酸化LDLを尾静脈より投与すると、腸間膜動脈への分布が1時間後には認められるが、これは抗LOX-1抗体の前投与で抑制された。また、摘出腸間膜動脈を用いた灌流実験でも同様の結果が得られた。このことから、LOX-1を介した酸化LDL取込み能がSHRSPで観察される腸間膜動脈への脂質沈着に関与している可能性が強く示唆された。

プロシアニジンによる脂質沈着の抑制

次に、LOX-1ブロッカーとして見出したプロシアニジン類のSHRSP動脈壁脂質沈着モデルでの効果を検討した。2量体以上のプロシアニジン類混合物を生理食塩水に溶解し(0.5%)、2週間飲料水の代わりにSHRSPに与えた。その結果、動脈壁脂質沈着は、プロシアニジン処置群で有意に抑制されていた。


なお、試験期間中、プロシアニジン処置群と対照群の間には、摂餌量、体重、血圧、心拍数、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、および過酸化脂質の指標であるTBARSに差は認められなかった。

試験終了時における3量体のプロシアニジンC1、および2量体のプロシアニジンB2の血中濃度は、それぞれ4.9±1.9および7.9±1.8 ng/mLであった。プロシアニジンC1の量はリンゴポリフェノール内の全プロシアニジン類の6%程度であることを考慮すると、血中には酸化LDLとLOX-1の結合を阻害できるプロシアニジン類がさらに存在すると推定される。また、SHRSPの血中酸化LDL濃度は約200 ng/mL程度であるため、プロシアニジンC1が単独でLOX-1と酸化LDLの結合を十分に阻害していることも考えられる。

プロシアニジン類は降圧作用、脂質低下作用、抗酸化作用を示すことがこれまで報告されている。しかし本試験では、プロシアニジン類は血圧、血中脂質量、TBARSに影響を与えなかったことから、上記の作用を介して血管壁への脂質沈着を抑制した可能性は低いと考えているが、本動物モデルで見られたプロシアニジン類の効果が血管壁上のLOX-1と酸化LDLの結合阻害によるものなのか、あるいは他の作用機序によるものかについては今後さらに検討していきたい。

プロシアニジンとフレンチパラドックス


フランスではコレステロールや飽和脂肪酸を多く摂取しているにもかかわらず、相対的に冠動脈疾患による死亡率が低いことが知られ、フレンチパラドックスとして知られている。その理由が赤ワインの摂取にあるのではないかという仮説があり、有効成分については、レスベラトロールやプロシアニジンがその候補として報告されている。レスベラトロールはスチルベノイド類に属する化合物で、LDLの酸化、血小板の凝集、平滑筋や内皮細胞の増殖、動脈硬化巣の形成などを抑制することが報告されている。またレスベラトロールは、SIRT1やIGF1、AMPKなどの経路を調節することでカロリー制限の効果を模倣するが、直接の標的分子は不明である。

一方、プロシアニジンも赤ワインやココアなど、心血管保護作用があると言われる食品に多く含まれる。Corderらは、エンドセリン-1の血管内皮細胞からの分泌を赤ワインの成分が抑制し、その物質を同定したところプロシアニジンであったこと、プロシアニジン含量の多い赤ワイン産地では、飲酒量が女性より多い男性の寿命が他の地域に比べ長く、虚血性心疾患が少ないことから、プロシアニジンがフレンチパラドックスをもたらす物質であるという説を提唱している(Corder, R. et al. Nature 2001, Corder, R. et al. Nature 2006)。フレンチパラドックスの機序が、プロシアニジンによるLOX-1と酸化LDLの結合阻害によって説明できるとすれば非常に興味深い。


参考文献

Yamori Y., et al: Hypertension as an important factor for cerebrovascular atherogenesis in rats. Stroke 7:120-125, 1976.

Nakano, A., Inoue, N., Sato, Y., Nishimichi, N., Takikawa, K., Fujita, Y., Kakino, A., Otsui, K., Yamaguchi, S., Matsuda, H. and Sawamura, T.: LOX-1 mediates vascular lipid retention under hypertensive state. J Hypertens, 28:1273-1280, 2010.

Nishizuka, T., Fujita, Y., Sato, Y., Nakano, A., Kakino, A., Ohshima, S., Kanda, T., Yoshimoto, R. and Sawamura, T.: Procyanidins are potent inhibitors of LOX-1: a new player in the French Paradox. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci, 87:104-113, 2011.

Corder, R., et al. Endothelin-1 synthesis reduced by red wine. Nature 414, 863-864, 2001.

Corder R., et al. Red wine procyanidins and vascular health. Nature 444:566-566, 2006.

酸化LDL受容体LOX-1の発見
LOX-1と細胞との相互作用から細胞接着・炎症へ
LOX-1とCRP
LOX-1に結合する内因性のリポ蛋白質
LOX-1を用いた診断技術の開発

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