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酸化LDL受容体LOX-1の発見HEADLINE

「私が人より遠くが見通せるとしたら,それは私が巨人たちの肩の上に立っているからだ。」 (If I have seen a little further, it is by standing on the shoulders of Giants.)というNewtonの言葉を待つまでもなく、ひとつひとつの優れた研究成果も先人から続く連綿とした流れの中で成立している。今は亡くなられたある著名な分子生物学の先生が自分の仕事を指して、このような仕事も100年前からの物理学の進歩に始まり、それに続く化学、生物学の発展という基盤の上に立っているのであると説かれた。そして、私が医学部の学生であったせいもあるだろうが、これからは医学が発展する番だと言って基礎医学の道へと誘われた。生化学に限らず研究分野はあまりにも広く、いったいどのような方向に向かって踏み出すべきか考えあぐねていた私にこのような言葉は大きな影響を与え、私の研究の基本的なスタンスは、病気の理解につながり、できれば診断・治療に結びつく基礎的な研究をするという形をとることになった。

ここでは血管機能の調節と破綻に重要である可能性のある酸化LDL受容体、lectin-like oxidized LDL receptor-1(LOX-1)の発見について記載するが、そこにいたる元となった巨人たちの仕事について最初に触れねばならない。

コレステロール代謝病としての動脈硬化

血液中のコレステロールが高いことが動脈硬化の進行を促進し、虚血性心疾患の発症の重要なリスクファクターであることが疫学研究から明らかにされてきた。そして、LDLコレステロールが悪玉コレステロールと呼ばれその代謝調節が問題となると同時に、家族性高コレステロール血症の患者が確かに虚血性心疾患を発症しやすく、単一特定遺伝子の異常によりこのような状況がもたらされることも理解されるようになってきた。

特にGoldsteinとBrownによるLDL受容体の発見とその欠損による高脂血症発症の解明、コレステロール合成律速酵素であるHMG-CoA synthaseやHMG-CoA reductaseの転写調節因子であるsterol regulatory element binding proteinの同定、さらにその活性化因子である、切断酵素の同定といった一連の仕事によりコレステロール代謝の多くの部分が明らかにされてきた(Brown, M.S. and Goldstein, J. L Science 1986, Goldstein, J.L. and Brown, M.S. Nature 1990)。このような生化学的な仕事と並行して、遠藤章博士による発見を端緒とする、HMG-CoA reductase阻害薬が、スタチンと呼ばれるコレステロール低下薬として臨床の場で広く使われ、さらに虚血性心疾患の発症、死亡率の低下に寄与することが明らかにされてきた。

このようにコレステロール代謝と動脈硬化との関連は確立されたもののように思える。しかし、コレステロール自体は生体内の様々のホルモンや構成物質のもととして必須の物質であり、血中コレステロール濃度が高いのはいけないとはいえ、正常な状態でもかなり多量に存在する。したがって、コレステロールから動脈硬化を説明しようとするにはその間にもう少し特異的に動脈硬化の反応を引き起こす機序が存在すると考えるほうが都合がよい。

Beyond cholesterol

では次の一手は何か?これに答えるように、まさに“Beyond Cholesterol”と題してUCSDのSteinbergらは1989年に総説を発表した(Steinberg, D. et al., New Engl J Med, 1989)。このMilestone的論文は、LDLの修飾が動脈硬化の促進因子として重要ではないかという彼らのいち早い着目とそれを支持する一連の仕事をまとめたものである。そしてLDLの修飾の中でも、特に酸化的修飾が次のような点から注目された。すなわち、@抗酸化物質が動脈硬化の進展に抑制的であるという疫学や実験結果の存在、A実際に人工的に酸化したLDLを免疫して抗体を作製し、免疫組織染色を行うと動脈硬化巣が染色されること。また、動脈硬化巣から抽出されるLDLには人工的に酸化したLDLと似た変化が生じていること。BLDLそのものよりもこのような変性したLDLが動脈硬化巣で特徴的に見られるマクロファージの泡沫化を引き起こすこと、である。

だが、生体内でどのように酸化LDLが産生され、どのような酸化修飾を受けたものが実際の活性を担っているのかは最近情報が増えつつあるもののまだ充分にわかっていない。しかし、少なくとも人工的に試験管内で酸化したLDLがさまざまな生理活性を持つことは明らかとなっている。このような酸化LDLは酸化LDLを特異的に認識する受容体を介して細胞に作用すると考えられる。そしてマクロファージの泡沫細胞への変化に関連した酸化LDL受容体としては、SR-A、CD36、macrosialinなどの分子が同定されている。

Endothelial dysfunction

一方、少し別の立場からRossは細胞生物学的視点をいち早く取り入れ、刺激に対する細胞の反応という形で動脈硬化を捉えようとした。彼は最初血管壁の物理的な傷害がきっかけとなり、傷害部位に接着した血小板が平滑筋の増殖を誘導すると考え、PDGFの存在を示すなどの成果を挙げた。しかし、動脈硬化巣の血管内膜が必ずしも傷ついていないこと、傷害の原因となるはずのずり応力のむしろ弱い部位に動脈硬化巣は発達しやすいこと、そして動脈硬化巣には血液中から単球を中心とした白血球が多数侵入してきており、それには白血球を病巣部位に呼び寄せるような変化が最初に内皮細胞に起きているようであることがわかってきた。そこで、Rossは内皮細胞の機能的な変化が動脈硬化の引き金となっているのではないかとの提案を行い、この内皮細胞の機能変化を”endothelial dysfunction”という言葉であらわした(Ross, R. Nature 1993)。

その背景には、血管内膜を構成するわずか一層の血管内皮細胞が血管全体の機能を調節している重要な細胞であることが、数々の生理活性物質の発見や細胞間相互作用を司る接着分子の発見などにより、かなり明らかになってきたことがある。強力な血管収縮物質であるエンドセリンや弛緩物質である一酸化窒素(NO)がその代表である。大半の血管弛緩物質のはたらきが内皮細胞から放出されるNOに集約されることから、内皮細胞のNO放出は血管の恒常性を保つ上で特に重要な要素である(Furchgott, R.F. and Zawadzki, J.V. Nature 1990)。しかも、NOは動脈硬化の過程で起こる平滑筋の増殖、白血球の接着、血小板の凝集に対し、すべて抑制的にはたらく。そして、高血圧自然発症ラットや高脂血症ウサギ、糖尿病ラットなどの病態モデル動物やヒトのこのような疾患患者の血管では、血管内皮からのNO放出が減少している。このような動物、患者の血管が動脈硬化を起こしやすいということは周知の事実である。

新しく同定されてきた内皮細胞の機能分子の病態における動態の解析により、酸化LDLが内皮細胞の機能変化を引き起こすという点でも重要な因子であることがわかってきた。すなわち、血管の内皮依存性の弛緩、つまり血管内皮からのNOの放出が酸化LDLで処理することにより低下すること、そしてこれは正常のLDLでは起きないことが示された。さらに、酸化LDLは白血球走化因子や白血球接着因子、細胞増殖因子の血管内皮細胞での発現を誘導し、血管の収縮弛緩のような機能に対する作用だけでなく、血管の形態的な変化の直接の要因となる血管壁への白血球の侵入や血管内膜層での平滑筋増殖に対しても重要な役割を果たしうることがわかってきた。ここに至って、コレステロール代謝からの研究と内皮細胞機能から血管病を考える研究が一つに合流することになった。

LOX-1の発見 

では、酸化LDLの内皮細胞への作用を媒介する受容体はどのような分子であろうか。この答えを出すために、私達の研究室では内皮細胞に発現する酸化LDL受容体のクローニングを試み、1997年、受容体の構造を明らかにすることができた(Sawamura, T. et al. Nature 1997)。酸化LDLの結合能を指標にした発現クローニングによって、ウシ大動脈内皮細胞より得られたLOX-1のcDNAは、810bpのopen reading frameを持ち、分子量30,872の蛋白をコードしていた。実際には、糖鎖付加により分子量約5万に増大した蛋白が発現している。全体構造は、N末端が細胞質内、C末端が細胞外に出る細胞膜一回貫通型のいわゆるII型膜蛋白である。N末端側より細胞質ドメイン、膜透過ドメイン、ネックドメイン、レクチン様ドメインの4つのドメインに分けられる。


このうち、レクチン様ドメインが酸化LDL認識部位であることが欠失変異体の解析により明らかになっている。レクチン様ドメインはC型レクチンファミリーの糖鎖認識部位とホモロジーを持ち、これらの蛋白でよく保存されている6個のシステイン残基の位置は完全に保たれている。ヒトLOX-1は、レクチン様ドメインの根元にシステイン残基が1つ余分にあり、これが分子間S-S結合に寄与することにより、ホモ2量体として機能している。広島大学の楯真一先生の研究グループがLOX-1の細胞外ドメインの結晶化に成功され、レクチン様ドメインの2量体構造の表面にアルギニン残基が規則正しく配列していることと、これらの塩基性アミノ酸残基がリガンド結合に重要であることを示されている。ネックドメインには、プロテアーゼ切断感受性の高い部位があり、ここで切断されたLOX-1が放出され、血液中に存在することが知られている。細胞質ドメインはアミノ酸約30個からなり短いため、LOX-1活性化のシグナルは他の分子との会合により伝達される可能性がある。

ヒトLOX-1遺伝子は12番染色体短腕12.3-13.2に位置し、6つのエクソンから構成されている。エクソン1、2、3が順にLOX-1の細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、ネックドメイン、エクソン4、5、6の3つがレクチン様ドメインに対応し、機能的ドメインとエクソンがきれいな対応をみせている。LOX-1遺伝子が位置する染色体領域には、互いにホモロジーを持つC型レクチン様受容体遺伝子がクラスターをなしている。ただし、酸化LDLを認識するのはそれらの中でLOX-1のみであった。


LOX-1と最も高いホモロジーを持つdectin-1は、グルカンを認識し、特に真菌に対する生体防御遺伝子として機能することが明らかになってきており注目されている。一方LOX-1もバクテリアを認識して貪食する機能を持つことが明らかになっている。興味深いことに、腫瘍細胞を認識するNK cell receptors遺伝子もLOX-1と弱いホモロジーを持ち、この染色体領域にクラスターを作っている。すなわち、微生物のような外敵を認識する遺伝子と、腫瘍細胞のような内から生じた異物を認識する受容体が、似た構造を持ち同じ染色体領域に存在していることは、同一起源からそれぞれに特異性を持つ遺伝子として進化の過程で発達してきたと想像される。 

また、LOX-1とホモロジーを持つ遺伝子群だけでなく、他の酸化LDLに結合する蛋白のいくつかも、炎症・生体防御反応にかかわる分子のようである。逆に考えれば、本来炎症・生体防御反応で働く分子が本来生体内にほとんど存在しないはずの酸化LDLを異物として認識するために、外敵に対して起こすはずの反応を内因性の物質に対して起こすことになり、血管壁の慢性的な炎症が惹起されるのかもしれない。Rossは晩年、動脈硬化は炎症反応そのものであるとの論文を残していったが(Ross, R. New Engl J Med 1999)、動脈硬化は下等動物では問題にならなかった自己非自己の認識が、ヒトの特殊な食習慣と代謝の元で揺らいでしまったことによる病気といえるのかもしれない。

参考論文

  • Brown, M. S. and Goldstein, J. L. A receptor-mediated pathway for cholesterol homeostasis. Science 232: 34-47, 1986. ノーベル賞受賞講演
  • Goldstein, J. L. and Brown, M. S. Regulation of the mevalonate pathway. Nature 343, 425-430, 1990.
  • Steinberg, D. et al. Beyond cholesterol: modifications of low density lipoprotein that increase its atherogenicity. N Engl J Med 320, 915-924, 1989.
  • Ross, R. The pathogenesis of atherosclerosis: a perspective for the 1990s. Nature 362, 801-809, 1993.
  • Furchgott, R.F. and Zawadzki, J.V. The obligatory role of endothelial cells in the relaxation of arterial smooth muscle by acetylcholine. Nature 288, 373 ? 376, 1980. ノーベル賞受賞論文
  • Sawamura, T., Kume, N., Aoyama, T., Moriwaki, H., Hoshikawa, H., Aiba, Y., Tanaka, T., Miwa, S., Katsura, Y., Kita, T. and Masaki, T. An endothelial receptor for oxidized low-density lipoprotein. Nature 386, 73-77, 1997.
  • Ross, R. Atherosclerosis: an inflammatory disease. N Engl J Med 340, 115-126, 1999.
  • *沢村達也 血管内皮細胞に発現する酸化LDL受容体LOX-1 生化学 74:365-376, 2002.より改変して引用しています。

研究概要
LOX-1と細胞との相互作用から細胞接着・炎症へ
LOX-1とCRP
LOX-1に結合する内因性のリポ蛋白質
LOX-1ブロッカーの開発
LOX-1を用いた診断技術の開発

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