漢訳仏典に即した小学ツールとしては、「音義書」がよく知られている。有名なものでは、玄応の一切経音義などがある。こういった中国で作られた音義 書は、日本にも舶載され、日本での辞書作りのソースとしても利用された。しかし、一方で漢訳仏典一つ一つに附載された音釈については、その存在はもちろん 知られていたが、その実態把握については、全く手付かずの状態であった。それは、この附載音釈の情報量が決して多いとはいえないことなどが、その理由の一 つであったのではないか、と思われる。
しかし、こういった附載音釈は、例えば、「図書寮本類聚名義抄」という我々の業界ではすこぶる有名な古辞書には、辞書ソースの一つとして 明らかに利用されており、昔の辞書生活を考える上では、かなり実用的なものとして利用されていたと考えられるふしがある。そこで、研究インフラ整備のた め、実態把握を少しでも始めようと、非力ながら始め、科研費の交付を受けて、小さいながらも報告書『漢訳版経附載音釈に関する基礎的研究』を刊行した (2005年2月)。
附載音釈一つ一つは小さいものであるが、併せると膨大な量の存在することが推定される。正直なところ、この膨大な附載音釈の海に漕ぎ出すことは、躊躇がないではなかった。また、この研究によってどれほどの研究成果が期待できるかについても未知数の部分が大きい。 まだまだ研究の緒についたばかりであり、多くの方からのご教示を切に希望する。また、まだ多少報告書が残っているので、ご関心のある方、こちらまでメールでその旨お知らせください。