教員紹介

みたに なおずみ

三谷 尚澄

哲学・芸術論 教授

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雑文・雑記

オーストラリアどうでしょう

School of Philosophy, ANU

新学期が始まってはや一ヶ月。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
わたしのほうは、サバティカル研修でオーストラリア国立大学(Australian National University/ANU)の哲学科に滞在してはや三ヶ月。すこしばかり遅くなりましたが、現地からの第一報です。

Kangaroos found close to where you live

ANUの所在地は、シドニーから車で三時間(メルボルンからだと六時間)ほど走ったところにあるキャンベラという街。もちろん、オーストラリア首都特別地区(Australian National Territory/ACT)という別名が示している通り、オーストラリアの首都に当たります。
街の特徴は、ひとことで言うなら「完全な計画都市」。街の真ん中に位置するバーリー・グリフィン(*キャンベラの街を設計したアメリカ人建築家の名前)という人造湖を挟み、南側に国会議事堂をはじめ各種政府機関や各国大使館、北側にANUやオーストラリア科学アカデミー等の学術機関と大きな商業施設が整然と立ち並んでいます。
なんというか、よくもわるくも、「グリフィンさんが設計した人工都市なんだなあ」という印象で、小綺麗(ぶっちゃけ、街全体が公園みたいというか、松本で言うと「スカイパークとかアルプス公園の中に大学やら街が点在している」イメージでしょうか)なかわりに、「猥雑な都市」の「いかにも」な空気感が好きなひとにはちょっと物足りないかもね、というのが穏当なコメントかもしれません。
…って、なんか観光ガイド読めば出てきそうな話ばっかりで面白くないですね。
もうちょっと、「信大人文学部関係者」の役に立ちそうな、具体的な現地情報に行ってみましょうか。

Canberra Enlightenment

ANUなりキャンベラなり云々は別にして、「オーストラリア」ということでまず頭に浮かぶのは「留学先としてどうかなあ」というところかと思います。
その点でいくと、まず、「時差がない」のと、「東海岸(シドニー、キャンベラ、メルボルン等)ならアメリカ西海岸までとほとんど同じ旅行時間で移動できる」(ケアンズとかブリスベンならさらに近い)というのが大きな利点でしょうか。
ぶっちゃけ、ニューヨークとかボストンとか、アメリカの東海岸まで直行便で飛んだ経験のある人には「あの時差ボケのきつさ」なしで環境をがらっと代えられる、というのは魅力のひとつだろうと思います。
あるいは、「旅費」という点でも、ジェットスターとかヴァージンとかのLCC(あるいは中国系とかフィリピン系の航空会社)を使えば、「羽田・成田⇔LA/SF線」あたりと遜色ない値段のチケットがみつかるんじゃないかと思います。ただし、「シドニーから先」の値段がけっこう高くつくので、そこは「気合い入れてバスで移動してちょうだい!」ということになっちゃいますが…。
また、離されている「英語」という点でいくと、いまでもかつての宗主国であるイギリスとのつながりが強いせいか、みなさん一言ひとことをきちっと発音する、きわめて聞き取りやすいアクセントで話してくれます。
すくなくとも、アメリカ人に特有の「早口&スラング至上主義」と「面倒くさい手間はできるだけなしですませたい」国民性の生み出したあの「モゴモゴ英語」の波状攻撃に悩まされ続けた人間からすると、ぶっちゃけ天国みたいな環境です。
個人的な印象ですが、「『ハリウッド映画とかSitcomとか耳で聞いて通訳せい!』と言われたらきついすけど(恥をさらすようであれですが、わたしはいまだにNHKでFullhouseを見てもはんぶんくらいしか理解できない)、TOEFLとかTOEICのリンスングはこなせるし、CNNのニュース番組とかTEDとかならついてけます」あたりのレベルまでこれば、ほぼ問題なく暮らしていける感じじゃないかと思います。
(大学のなか入っちゃえばみんなちゃんとした英語でしゃべってくれるし、世界中どこ行っても同じなんですけどね。「本気で地元のひとと交流したい」ひと向けの情報だと思って読んでください。ただし、もちろん、強烈なアクセントでしゃべる100%オージーな人びともいて、そういうひとと話すときにはけっこう苦労することになります。)
とはいえ、なんといっても「イギリス文化圏」なので、ときどきびっくりするようなボキャブラリーにも出くわします。
たとえば、FriesではなくChips、PharmacyではなくChemist、Hallじゃなくて Theatre、To goじゃなくてTake away、みたいな表現に出くわすと、アメリカ英語になじんじゃってる人間はちょっぴりドキッとすることがあるかもしれません。
わたしの場合も、シドニーまでレンタカーで旅行したとき、ガススタのお兄ちゃんに「やあ、gasを入れにきたよ」的なお愛想を言ってもまったく通じず、すったもんだのあげく「ああ、なんだ、お前さんはpetrolを入れにきたのかい。それならうちにはたっぷりあるよ」みたいなことを言われて脱力した、みたいな経験をしました。
そのかわり、こっちに来てお気に入りになった「No worries」(No problemとかThanksとかIt’s OKとか、いろいろな場面で使える万能の表現。日本語で言うと「どもども」みたいな感じ?)とか、「いかにもオーストラリア」な雰囲気に満ちたチャーミングなフレーズもたくさんあります。
全体の印象としては、「文学とか歴史とかの建前は抜きにして、ぶっちゃけ学生時代のうちに英語が勉強したいです」本音の学生さんに対しては、けっこうおすすめしちゃっていい環境ではないか、というのが個人的な感想です。(もちろん、あくまで「個人的」な意見ですが。)
その他、気になるのは治安ですか。
これについては、「すくなくとも銃社会ではない」というその一点で、アメリカ(って無反省に使っちゃってますね。「カナダを除いた合衆国と呼ばれる北米の地域」ということで理解してください)の都市部に比べればずいぶん暮らしやすいのではないかと思います。
みなさん、深夜でもわりと平気で酔っ払ったまま歩きまわったりしてますし、すくなくともキャンベラに関しては、深夜の新宿歌舞伎町とか京都の木屋町なんかをうろつくのに比べれば相当安全なんじゃないか、と言っちゃっていいように思います。

Judith Wright Court, ANU

ただし、中期・長期の留学先としてオーストラリアを考える人に知っておいてもらいたいポイントとしては、「物価がとってもとお〜ってもお高いですよ」という点を挙げておかざるをえません。
ここ10年ほど、毎年数パーセント(正確な数字は忘れちゃいました)のインフレが続いた結果、たとえば大学のキャンパス内で「サンドイッチ(もしくはサラダ)+コーヒー」(もしくはマクドのミールセット)の昼食を食べると本気で15ドルはかかっちゃうとか、街中のパブに入ってハンバーガーとビールを頼むとそれだけで30ドル超えちゃうとか。正直洒落にならないレベルです。
キャンベラに関しては、シドニーとかメルボルンに比べて、賃貸物件の価格がそこまで上がってないのがまだ救いであるかもしれません。(サンフランシスコとかニューヨークとか、オーストラリアだとシドニーとかみたいに、)「ごくふつうの2ベッドなのに月3000ドルとか4000ドル!」みたいな馬鹿げたレベルまでは行ってませんが、それでも、たぶん東京とか大阪の市内で暮らすのと同程度の出費は覚悟する必要があります。わたしの場合でも、大学キャンパス内の宿舎に入居しているのですが、ごくふつうの2ベッドの間取りで月2000ドルを超えちゃう感じです。ギャフン…。)
もっとも、こと物価に関しては、法定の最低時給が「時間あたり17〜18ドル」という高水準(いまのところ、世界で一番高収入の国になるそうです)に設定されていて、オーストラリアドルで収入のある人にとっては多少違った景色がみえているのかもしれません。
ここしばらくの日本のデフレ状況が例外的なのであって、こっちが世界の標準価格ですよ、と言われてしまえばそれまでかもしれないですね。チューリッヒとかロンドンとかシンガポールとか、考えてみれば世界中どこ行っても物価高なわけですし。)
・・・。
気がついたら初回からずいぶん長話になっちゃってますね。
その他、コーヒーとかカンガルーとか自転車事情とか日本食事情とか、あるいはビールとかワインか現地パブ&レストラン情報とか、お伝えしたい情報はまだまだたくさんあるんですが、このへんは次回にしましょうか。
それでは。
(ん? 「かんじんの哲学の話はどうしたんだ、勉強してんのかおまえ!」ですって? ねえ。まあ、ぼちばち行きます。)

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