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いいおか しろう

飯岡 詩朗

英米言語文化 教授

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雑記

世界DVDの旅

国内ではほとんど入手不可能であった作品が激安DVDで手に入るという事態が驚くべき「DVD時代の到来」の証であるのは間違いないとしても、 「激安」という点をのぞけば、「映画と個人の関係」は10年ほど前からもうそのような時代に突入しつつあったと言ってよい。というのは、先に取り上げた 『プリースト判事』も『若き日のリンカーン』も、つねに/すでにアメリカでは容易に手に入るものだったからである。(ついでに言えば、後者は、日本でも映 画狂やDVD収集家(?)であれば知らない人はいないクライテリオン[標準;基準の意]からも新たに "high-definition digital transfer" を行い、豊富な映像特典の付いたDVDがつい最近発売されてもいる。)つまり、ここ10年ほどのうちに日本ではほとんど入手不可能だと思われている作品が、ネット・ショッピングで容易にしかも比較的安価に、海外から購入できるようになったのである。

boidpaper2.jpg たとえば、出版プロデュースや上映会の企画など映画に関わるさまざま事業をてがけているboidが、ダグラス・サークのインタヴュー集『サーク・オン・サーク』 の発売を記念して発行したニューズレター『boid paper』#2 [*] の冒頭には「現在、日本では、かろうじて『風と共に散る』がDVD発売されているのみ。あとはシネクラブや映画祭での限られた機会に限られた作品がひっそ りと上映されているだけ。/我々はいまだサークを知らない。」という一節があるが、日本語字幕をあきらめさえすれば、サークのアメリカ時代の代表的な作品 は、『風と共に散る』(Written on the Wind, 1956)にかぎらず、『悲しみは空の彼方に』(Imitation of Life, 1959)や『天はすべてを許し給う』(All That Heaven Allows, 1955)、『心のともしび』(Magnificent Obsession, 1954)にしても、DVDやビデオのかたちであれば、ずいぶん以前から、ネットで購入し、見ることはできたのである。(とはいえ、DVDやビデオでも見ることのできないサークの作品は数多くあるため、「我々はいまだサークを知らない」というのは事実だが。)

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もちろん、昔の作品にかぎった話ではない。たとえば、昭和天皇を主人公としているため、昨年、日本でもニュースになったアレクサンドロ・ソクーロフの新作『太陽』(Solntse [The Sun], 2005)は、日本での公開は未定であり、この先も日本では公にはけっしてスクリーンにかかることはないかもしれないが、たとえば、amazon.co.ukから、誰でもふつうに購入できるのである。
実際、世界中のDVDソフトに関する情報を詳細かつ膨大に掲載しているDVD Beaver[意訳すれば「DVDバカ」といったところか]などを見てみると、けっしてDVDで手に入れることなどできないと思い込んでいた作品が、思いもよらぬところでDVD化されており、もちろん日本からもネットで購入できることがわかる。
すでにフィルムが消失してしまった昔の作品が数えきれないほどある以上、どんな映画も日本に居ながらにしてDVDやビデオで手に入れることができるなど と言うのは大言壮語に過ぎるとしても、見るための時間を捻出する方がむしろ困難なほどに映画史上の見るべき作品が手に入れられる時代であるのはまぎれもな い事実である。

 

* * *


*書店等で無料で配布されていたこの『boid paper』#2には、過去に書かれたものの再録2篇を含む(あまりに作家主義的ではあるが)読みでのある以下の4篇の文章が掲載されている。
・大寺眞輔「映画の奇跡——『悲しみは空の彼方に』のエモーションとアイロニー」
・マルク=エドゥアール・ナッブ「サークを見る時、そして愛する時」[彦江智弘訳 ※シネマテーク・フランセーズのプログラム2005年9〜12月号の「ダグラス・サーク全作品回顧上映」解説の翻訳転載]
・梅本洋一「Biography of Douglas Sirk」[※ダニエル・シュミット監督作品『人生の幻影』公開時(1986年)のパンフレットから転載]
・蓮實重彦「映画の蜃気楼」[※同上]

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