信州大学

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Interview研究所長インタビュー

ファイバー・テキスタイル・衣服工学を基盤とした
先端研究で国際連携、産学官連携を継続発展させる

繊維・ファイバー工学の関連領域を網羅する4部門構成

「ファイバー材料から軽量・機能材料としてのテキスタイル、ファッション衣料まで、ファイバーに関する全領域を広くカバーするとともに、先端研究領域として、フロンティアファイバー、バイオ・メディカルファイバー、スマートテキスタイル、感性・ファッション工学の4つの研究部門と、それらをつなぐ研究連携室を置き、それぞれの分野において卓越した研究成果の創出と社会への発信・還元を目指します」。
国際ファイバー工学研究所の高寺政行所長は、同研究所の研究テーマを、簡潔にこのようにまとめた。
フロンティアファイバーとは、高機能・高強度であったり、ナノレベルの超微細であったりする最新鋭の繊維素材のことだ。バイオ・メディカルファイバーとは、その名の通り、生物・医学領域に特化した繊維素材。スマートテキスタイルとは、それ自体がまるで生き物のように、条件を感知するセンサー機能を持っていたり、フレキシブルに反応したりする繊維素材。そして、感性・ファッション工学とは、製品やそれを生み出すものづくりのプロセスそのものの感性評価や情報化技術に関わる最先端研究。どれも現代のファイバー工学において注目を集めるホットな研究領域だ。
こうした先端領域の研究を、これまで繊維学部が中心になって展開してきたファイバー・テキスタイル・衣服工学を基盤とした教育研究、国際連携、産学官連携を継続・発展させることを目指すのが研究所の設置目的だ。
もちろん、各学部・大学院との協力や国内外から招へいする卓越した研究者の力も借りて、ファイバー分野の優秀な人材育成にも努める。「こうしたことを目指して、国際ファイバー工学研究所は、常勤教員21人(内専任教員8人)の体制で教育研究活動をスタートさせました」と、高寺所長は力強く宣言した。

俯瞰的な視野を持つ研究者と、部門横断の効率的な研究システムが特徴

「繊維」とは、細くて長い形態を持つ材料の総称だが、この特徴的な形と物性を持つマテリアルを、組み合わせ、織ったり編んだり重ねたりすることで、必要とする機能をさまざまに生み出してきた。絹や木綿などの天然素材や、化合物・金属・無機材料などの多様な素材を複雑に組み合わせ、多彩な加工技術で、直面する社会的課題を解決し、ファッションに代表される生活・文化面にも新たな価値を生み出してきた。それに関わる学術研究の総体がファイバー工学だ。
21世紀の現代においては、科学技術の進化により、ナノメートル(10億分の1メートル)のオーダーでの研究やものづくりを進めるナノテクノロジーや、生物が持つ様々な構造や機能に学び、これを模倣するバイオメティクスの発展がめざましい。そしてこれを契機にして、ファイバー工学も全世界的に、特殊な機能を持った繊細な繊維材料を複雑かつ微細に構造化することで、今までは思いもよらなかった機能や価値を生み出すことを目指す新たな段階に突入している。航空機や自動車のボディなどに使われる繊維強化複合材、砂漠の緑化や水の浄化に使われる環境対応材料、人工血管・人工臓器・再生医療材料などの先端医療材料、燃料電池や太陽電池などエネルギー関連材料、宇宙服や宇宙エレベーターなど宇宙開発に関わる素材...など、その応用領域は広がる一方である。また、こうしたファイバー工学の新たな展開の中で、もともと人間生活に密着した「ファッション」や「衣服」に関わる学問として発展してきた「ファッション工学」も、市場のグローバル化を前提にして、新たな展開が求められている。こうした国際的なファイバー工学研究の熱の高まりの中で、「豊かで持続可能な社会の構築に資するため、国際的な視野の下でファイバー工学を意識した学術研究と、それに基づいた技術の創出と蓄積が国際ファイバー工学研究所の使命」だと高寺所長は話す。そのために、研究者が自由な発想で狭い専門分野にとらわれない俯瞰的な視野を持ち、個々が独自の研究を展開するとともに、部門または研究所全体として、常時情報交流と横断的な共同研究を進めるという効率的な研究システムの構築を目指すという。
そして、世界をリードするファイバー工学研究となるべく国際連携を強め、研究成果を社会に還元するための産学官の連携もこれまで以上に積極的に取り組んでいく予定だ。

信大NOW89号(2014年9月30日発行)より

先鋭領域融合研究群 国際ファイバー工学研究所長
スマートテキスタイル部門長
信州大学学術研究院 教授(繊維学系)/博士(工学)
高寺 政行
Masayuki Takatera