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石川 厚

石川 厚

化学コース

講座:無機化学分野
職名:准教授
略歴:
1984年 信州大学 理学部 化学科卒業
1986年 信州大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了
1990年 名古屋大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了,理学博士
1990 年 防衛大学校化学教室助手
1992年信州大学理学部助手
1996年講師
2006年助教授
2007年准教授
キーワード:同位体科学
ホームページ:http://science.shinshu-u.ac.jp/~chemstaff/muki/index.html
SOARリンク:SOARを見る

化学入門

現在の研究テーマ:原子核と化学

研究紹介1 原子核から分子を観る
原子核は点ではなく形をもっています。形は、球だけでなく、球を一方向に引き伸ばしたレモン型や、球を一方向に縮めたミカン型があります。また、原子核は自転もしていますが、レモン型やミカン型の原子核は、核の周りの電子から引力を受けて、コマのように自転軸を振って歳差運動をします。歳差運動の周波数は、核の形状と化学結合で決まります。実験では、試料をコイルに入れラジオ波との共鳴により、核の歳差が検出できます。この実験手段は核四極共鳴といいますが、この共鳴周波数から化学結合を研究できます。通常の化学分析だけでは分からない電子状態や分子運動を金属錯体ついて研究しています。

研究紹介2 同位体をイオン交換で分ける
同位体とは、同じ原子番号の原子のうち質量数が異なる原子のことです。同位体は同位元素とも呼ばれ、同じ元素に属します。それゆえ同位体の化学的性質は同じと習っているかもしれません。しかし、実際には異なる同位体間の化学的性質はわずかに違っています。原子核の違いが化学的性質の違いに起因します。これは量子力学や統計力学を学ぶと分かることですが、軽元素について説明すれば、質量の違う同位体が分子に入ることで分子の振動エネルギーがわずかに変化し化学平衡が少しだけずれるということです。物質に含まれる軽元素の同位体の組成を分析することで、地球化学や環境科学の問題を研究できます。考古学など人文科学でも同位体がさかんに応用され始めています。

同位体の化学的性質の差異は化学反応で同位体を互いに分離することにもつながります。軽元素の代表であるリチウム同位体をイオン交換で濃縮する研究を私は行っています。イオン交換体にゼオライトAを使っています。ゼオライトAは、無りん洗剤として代替された無害の硬水軟化剤で、家庭用洗濯洗剤にも含まれています。まず、イオン交換でアンモニウム型ゼオライトAを調製し、これに硝酸リチウム溶液を流すと、流出液に\(^7Li\)が濃縮し、ゼオライトに\(^6Li\)が濃縮します。同位体間の分離を表す数値である同位体分離係数は、かつて実用化された水銀法に近い値になっています。ゼオライトのイオン交換を制御することで、効率の良い同位体濃縮を目指し研究しています。

研究紹介3 化学のふしぎ
化学には面白い反応や不思議な現象が沢山あります。高等学校で化学を習って感じているかもしれません。信州大学自然誌科学館では毎年夏に理科の実験を理学部で皆さんにお見せしています。私の担当した実験は「空と水の青」「身の回りの指示薬」「染色の実験」「栄養強化食品中の鉄」「日焼け止め」などです。基本実験を取上げています。大学の化学の講義にはもちろん高等学校の発展授業にも使えます。化学教育のため教材研究も始めました。


高校生へのメッセージ

化学は実験をもとにしている
化学は物質を正しく理解し、利用する学問です。物質はさまざまで性質もさまざまであるので、実験によって発展してきました。発展の過程で大事なことは実験を行うのも結果を解釈するのも人であるということです。何を問題にするのか、どうに理解するのか、その人の主体的問いかけが実験の原動力になって化学は発展してきています

暗記だけではダメ
塩酸やアンモニアのツーンとする臭いや、硫酸のずっしりした重量など、まず試薬を知ることから化学の勉強は始まります。試薬に触れもせず暗記するだけの勉強は何の役にも立ちません。

内容を正確に理解することが大切
例えば原子の名前と単体の名前を見てみましょう。これらの名前は同じです。困るのではと思いますが、通常、文章の内容からその名前が単体を指すのか原子を指すのか分かりますので、用語を区別していません。文章全体の内容を正確につかむことが大切になります。
古代ギリシャでは観察に基づき火土水空気を元素としました。ラボアジエは実験に基づき化学的手法で分解到達する単体を元素としました。原子の存在が実験的にはっきりした現代では単体をつくっている原子が元素です。元素が単体から原子に変わっても元素の名前は変わらなかったのです。

物質の性質をよく知ることが大切
例えば元素の周期律表をよく見てみましょう。水素は1族元素に分類されています。水素の単体は常温で気体、非金属です。同族のリチウム、ナトリウム、カリウムは金属です。非金属と金属が同じ族に分類されていますが、よいのでしょうか。元素単体の性質が周期律に厳密に従うわけではないので、通常、これでよいのです。
超高圧のため木星の中心部は金属水素であると考えられています。水素も金属になりうる素質がありそうですが、飛躍があるように感じます。
水素を17族に分類することもできます。水素は水素化物を作るので、金属元素と塩を作る17族のハロゲンと性質が似ています。ハロゲン元素は非金属です。フッ素、塩素は常温で気体です。つまり水素は1族にも17族のどちらにも分属できます。一つの元素が二つの族に入れられることは矛盾のように感じるかも知れませんが、水素にはもともとそのような性質があるのでそれでよいのです。そのような周期表は外国の教科書にあります。
化学の本質は物質の示す多様性にあります。周期律をはじめとする化学の理論や法則は数学や物理学とは異なり大局を述べているのです。

正解を単に求めるよりも自分に問いかけなさい
化学はもちろん学問の学びはまず自分に問いかけることであると私は考えています。理解したことを書き留めなさい。どのように理解したか自ら確認しなさい。
中学校のときに習った平家物語の一話を思い出しましたので読み返してみました。
熊谷次郎直実は17歳の平敦盛を討ちました。組み合いになり、相手が息子の直家とかわらない歳の頃と分かるや、直実は敦盛を逃がそうと考えます。しかし立身出世のため平家の公達を討ち取りたい坂東武者の一群が迫ってきます。彼らから逃げ切れないと判断した直実は敦盛の尊厳を守り敦盛の首を取ります。直実は後に出家しますが、それは敦盛のことを心に深く残しているからといわれます。敦盛も直家も16、17歳の同じ少年です。少年に平家と源氏の区別はありません。これが直実の答えと私は考えます。自問自答を繰り返すことで、仏道が強く迫ってきたのだと思います。

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