スマートフォン版を見る理学部クエストトップ

信州大学 理学部 ようこそ、探求の世界へ。理学部クエスト
中島 美帆

中島 美帆

物理学コース

講座:磁性物理学分野
職名:准教授
略歴:
大阪府出身
大阪大学卒業
2004 年博士号(理学) 取得後、研究員を経て
2005 年大阪大学極限科学研究センター特任研究員,大阪大学大学院理学研究科特任研究員
2005 年11~現職
キーワード:超電導
SOARリンク:SOARを見る

重い電子系圧力誘起超伝導体の発見をめざして

現在の研究テーマ:希土類およびウラン化合物の高圧下物性

重い電子系の超電導
 現在私が一番興味を持っていることは,セリウム(Ce)化合物やウラン(U)化合物における磁性と超伝導です。とくに,重い電子系と呼ばれる系の研究を行っています。重い電子系とは,電子の有効質量が極端に重くなる現象で,物性物理の中でもっとも盛んに研究されてきた分野のひとつであり,たくさんの面白い物理が見出されています。電子の有効質量とは,静止質量と異なり簡単には電子の動きにくさと比例する量で,たとえば絶縁体では,電場をかけても電子がほとんど動かないため,有効質量は無限大だということが出来ます。重い電子系物質は絶縁体ではなくて金属ですが,電子がその静止質量の約100~1000倍もの大きな有効質量を持ち,通常の金属とは異なる性質を示します。この重い電子系の起源は,クーロン反発力により電子同士が互いに避けあう効果(電子相関)であり,電子が非常に動きにくくなっているために有効質量が非常に重くなるのです。

重い電子系の研究のなかで,もっとも興味深い現象のひとつに超伝導があげられます。超伝導を示す重い電子系物質はいくつか見つかっていますが,それぞれ多様な振る舞いをみせ,超伝導の発現機構についても完全に理解されていません。そのなかでも,重い電子系圧力誘起超伝導体,つまり常圧(大気圧)では超伝導を示さないけれど高圧下において初めて超伝導を示す物質が私の研究テーマです。

「高圧」というのがどのくらい高い圧力かというと,われわれの実験ではおよそ1~10GPaの高圧を用いています。1GPaは約1万気圧です。世界一深い海底で約0.1GPaほどですので,1GPaでも実生活からは想像出来ないほど大きい圧力です。(ちなみに地球の中心部は約360GPaと考えられています。) われわれは,圧力セルとよばれる高圧発生装置(図1)をはじめ,種々の圧力装置の開発をして実験をしています。

img_209_0.png

図1 : 圧力装置の概略と実物写真



最新の超伝導研究:重い電子系圧力誘起超伝導

超伝導現象は,1911年にオネスによってHg(水銀)で発見されました。物理としても非常におもしろく,実用の面からも非常に期待されている現象ですが,実は現象自体はそれほど珍しいものではなく,例えば単体の金属の中ではAl(アルミニウム)やPb(鉛)など,かなりの数の金属が超伝導を示します。

また,1957年にBCS理論とよばれる超伝導を説明する理論が完成し,それまでの超伝導の実験結果はこの理論で説明できるとされてきました。しかしその後,1980年の有機化合物\((TMTSF)_2PF_6\)の低温・高圧下での超伝導の発見(金属以外の超伝導の発見)や,1986年の銅酸化物の高温超伝導体の発見(超伝導臨界温度の飛躍的な上昇)により,同じ超伝導にも色々なタイプがあることが分かってきてから,超伝導の研究は再び盛んになってきたのです。

そんな中,重い電子系の超伝導は,1979年に重い電子系物質\(CeCu_2Si_2\)において初めて発見され話題を呼びました。それまでの理論では,重い電子系の大きなクーロン反発力により超伝導は実現しないと考えられていたからです。

その後,\(CeCu_2Ge_2\)という化合物に高い圧力をかけるとある圧力近傍で超伝導が出現することが発見されました。圧力を加えるということは原子間距離を人工的に変えてやることになり,圧力という人工のパラメータで超伝導の出現を制御できたことになります。このような圧力誘起超伝導体はその後いくつかのCe化合物やU化合物でも発見され,研究が進んできました。初期の発見は外国の研究者の手によるものがほとんどでしたが,最近では日本での発見も多くなってきています。

しかし,これらの発見に不可欠な高圧実験は,物性物理測定の中でもっとも困 難な手法の一つです。

高圧下での測定には前述の圧力セルを使って圧力をかけますが,物性の測定を行うには高圧にするだけでなくそのセルごと低温にしなければなりません。また,加圧される空間の体積は小さければ小さいほど加えた力に対する圧力効率がよくなるので,必然的に扱うサンプルは非常に小さいものになります。小さなサンプルにいかにして端子を付けるか,静水圧性(均一に圧力がかかること)を上げ,さらに高圧にするにはどうすればよいか,などといった問題を解決するのに多くの時間を費やし,それをやっと乗り越えて測定までこぎつけても,低温にすると断線したり,圧力容器が割れてしまったりすることもあり,根気と忍耐(とすこしの度胸)の要る実験です。私も圧力誘起超伝導探しに取り付 かれ,大学院博士課程の頃から研究を続けてきました。色々なサンプルについて測定を行い,研究を始めてから5年目に,Ce$_2$Ni$_3$Ge$_5$という物質で圧力誘起超伝導を発見しています(図2)。

img_209_1.png

図2 : Ce$_2$Ni$_3$Ge$_5$の圧力誘起超伝導



物理は積み重ねの学問ですから,一つ一つの過程は非常に地味です。正直に言って,私が実験をしていて,楽しいな,と思うのは数年に一度のことです。しかし,新しいものを発見したときの喜びは,それまでの苦労を一瞬にして帳消しにしても余りあるほど大きいものです。

また,科学という世界は,常に世界中のライバルと競争しなければならない過酷さを有す一方で,世界中の人と共通の話題で熱く語り合うことができるという魅力的な世界です。

常に新しい力が必要ですし,若い人が活躍できる場が多くあります。より多くの人が我々の分野に興味をもち,一緒に研究してくれることを望んでいます