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信州大学 理学部 ようこそ、探求の世界へ。理学クエスト
筒井 容平

筒井 容平

数学科

講座:解析学分野
略歴:
2006年:愛媛大学 理学部 数理科学科 卒業
2008年: 大阪大学大学院 理学研究科 数学専攻 博士前期課程 修了
2011年: 大阪大学大学院 理学研究科 数学専攻 博士後期課程 修了
2012年度: 大阪大学大学院 理学研究科 数学専攻 招聘研究員 / 東北大学大学院 理学研究科 研究支援者
2013 - 2014年度: 日本学術研究員特別研究員 (PD)
2015年度: 東京大学大学院 数理科学研究科 特任助教
2016年度: 信州大学 理学部 数学科 助教(テニュアトラック)
2019年度: 信州大学 理学部 数学科 准教授
キーワード:函数空間論、Navier-Stokes 方程式、Keller-Segel 系、Kakeya 予想

実解析学と偏微分方程式論

現在の研究テーマ:Hardy空間と非圧縮粘性流体

解析学では Lebesgue 空間 \(L^p(\mathbb{R}^n):\)

\[ f \in L^p \iff \|f\|_{L^p} := \left(\int_{\mathbb{R}^n} |f(x)|^p dx \right)^{1/p} < \infty \]

はもっとも良く使われる函数空間でしょう。 ここでは、\(L^p\) のある種の不便さを改善したものであるHardy空間 \(H^p\) と非圧縮粘性流体の方程式である Navier-Stokes 方程式との関連を紹介したいと思います。 \(H^p\) は \(L^p\) を改善したものと述べましたが、その代償として、定義が \(L^p\) よりも複雑なものとなります。 具体的には、\(1 \le p < \infty\) に対して

\[ f \in H^p \iff \|f\|_{H^p} := \|M_\phi[f]\|_{L^p} < \infty \]

ここで、

\[ \|g\|_{L^p} := \left(\int_{\mathbb{R}^n} |g(x)|^p dx \right)^{1/p}, \] \[ M_\phi[f](x) := \sup_{t>0} \left|\int_{\mathbb{R}^n} f(y) \phi_t(x-y) dy \right|, \]

\(\phi(x) = e^{-|x|^2}\), \(\phi_t(x) := t^{-n} \phi(x/t)\) と定義されます。 \(p=1\) のとき2つを比較すると、\(H^1 \subsetneq L^1\) ということがわかります。 ですが、一方 \(p \in (1,\infty)\)に対しては \(H^p = L^p\) となります。 このような事実は、少なくとも私には定義を見ただけでは予想できないものです。 前者を感覚で説明すると、

\[ f \in L^1 \ \& \ \int_{\mathbb{R}^n} f(x) dx = 0 \ \Rightarrow \ f \in H^1 \]

です。 ここで、話を偏微分方程式に移すと、私は次の非圧縮粘性流体の方程式である Navier-Stokes 方程式を扱っています。

\[ (\text{N.S.}) \begin{cases} \; \partial_t u -\Delta u + (u \cdot \nabla)u + \nabla q = 0 \\ \; \mathrm{div} u = \nabla \cdot u = 0 \\ \; u(0) = a,\ (\mathrm{div}a=0) \end{cases} \]

ここでは、水や油のような流体を考えてください。 $u,\ q$は流体の速度ベクトルと圧力をそれぞれ表します。 私がなぜ、このような方程式を扱うようになったかは、(N.S.)の2,3行目の等式に依ります。 この2つの等式から形式的には

\[ \int_{\mathbb{R}^n} a(x) dx = \int_{\mathbb{R}^n} u(t,x) dx = 0 \]

という、上のHardy空間のところで出てきた条件と同じものが現れます。 つまりは、(N.S.)を考える上では、良く扱われる $L^p$ ではなく $H^p$ による解析の方適切であると私は考えます。

研究領域:実解析学と偏微分方程式論

実解析学と偏微分方程式論は強い結びつきを持っており、近年は前者が後者に用いられる研究が多く見受けられます。 実解析学における多くの問題は、背景に偏微分方程式が潜んでいることが多くあります。 ですので、違う分野であると考えるほうが不自然なのかもしれません。 ここでは、双方で未解決である問題を取り上げたいと思います。

簡単のために、3次元の場合に限定するとこにします。 まず、実解析学においてはKakeya予想という未解決問題があります。 これは、日本の 掛合宗一 先生の研究から派生してきた問題です。 この問題を説明するために長さが1cmで太さが0cmの針を想像します。 この針を空間内でくるっと"全ての方向"に1回転させることができる領域を探すことを考えます。 例えば、半径が0.5cmの球であればその内部で針を1回転することは可能です。 この未解決問題は、「体積は0だが内部で針を1回転できる領域がある」ということを主張しています。 もちろん、先の球の体積は\(2\pi\)なので、大きすぎます。 これは、一見すると幾何学の問題のように思えますが、解析学チックに不等式を使い述べることもできます:

\[ f^\ast_\delta(\mathbf{x}) := \sup_{T \ni x} \dfrac{1}{|T|} \int_{T} |f(y)| dy, \]

ここで、\(T\) は \(x\) を含む長さが\(1\)で太さが\(\delta \in (0,1)\) の円柱です。 この函数 $f^\ast_\delta$ に対するある種の不等式が Kakeya予想と関連します。 また、Fourier 変換 に関するある総和法に関する未解決問題やFourier制限問題と深いつながりを持っています。 上の \(f^\ast_\delta\) を見ただけでは、これが Fourier 変換と関連することに気づくのは難しいと思われるでしょう。

私が一番驚き興味を引かれたのは、このKakeya予想は波動方程式

\[ (W) \begin{cases} \; \partial_t^2 u - \Delta u = 0 \\ \; u(0) = f,\ \partial_t u(0) = g \end{cases} \]

についてあることがわかれば、肯定的に解けるということです。 具体的にはこの方程式の解\(u\)についてある不等式が成り立つことがわかれば、この幾何学的な予想が解けてしまいます。 この不等式は、local smoothing conjecture と呼ばれており、微力ながら取り組んで行きたいと考えている問題です。