信州大学  工学部  物質化学科
信州大学大学院  総合理工学研究科  工学専攻 物質化学分野(修士課程)
信州大学大学院  総合医理工学研究科  総合理工学専攻(博士課程)


酵素(セルラーゼ・ヘミセルラーゼ)成分の質と量を最適化する研究

「酵素製剤 セルラーゼ」には,たくさんの種類の酵素が含まれている


 トリコデルマをセルロースを含む培地で培養すると,非常に多くの種類の酵素を生産します(下図)。これら酵素のほとんどは,セルロース分解に関係す る酵素であり,1つ1つは性質や分解機構が異なります。


page

トリコデルマの酵素を二次元電気泳動法で分離した結果
(スポット1つ1つが別の酵素,Herpoel-Gimbert I et al. (2008) Biotechnol Biofuels, 1, 18 より引用)


 ある酵素がセルロースの特定の部分を分解すると,そこから別の酵素が分解できるようになり,それによって初めの酵素の分解も促進されるというように,それぞれの酵素 はお互いの反応を促進します。これをセルロース分解の相乗効果といいます。つまり,酵素A(分解力=2)と酵素B(分解力=3)を同時に反応させると,分解力は2+3=5ではなく,それ以上に増加す るということです。複数の酵素が同時に作用することで,さらに大きな相乗効果が生まれます。相乗効果は,結晶性が高く酵素分解性が低いセルロースを分解するためには不可欠な要素です。

自然界におけるバイオマス分解との相違点


 反応容器の中で酵素を混ぜてバイオマスを分解する場合,自然界における分解反応とは条件が大きく異なります。

    ・バイオマスに前処理が施され成分や組成が違う
    ・バイオマス濃度が異なる
    ・酵素の量が一定
    ・反応液の体積が一定
    ・酵素の濃度が高い
    ・反応の温度が高い
    ・反応の時間が短い
    ・反応液のpHが調節される
    ・撹拌・振盪される
    ・反応容器が存在する
    ・分解生成物が蓄積する など

  ゆえに,微生物が生産した酵素は,人工的な反応条件で使うには最適な酵素ではない可能性があります。
 従って,反応を効率的に進めるためには,その反応条件に合致するように酵素の質や量を最適化することが必要となります。

”糖化率の頭打ち現象” を解消する


 セルロースをセルラーゼによって分解すると糖化率の頭打ちという現象が起こる場合があります。これは,安定性が低い特定の酵素が失活したり,酵素がセルロースの望ましくない場所に吸着したりして,本来の分解能力を発揮できなくなるために起こると考えられています。この現象は,酵素成分の中にセルロース分解に重要であるが,不安定かつ含有量が少ない酵素が含まれる場合に起こります。
 トリコデルマでは,Cellobiohydrolase 2 (CBH2, Cel6A) が,疎水的相互作用による非特異的な吸着を起こしやすく,糖化率の頭打ち現象が生じると考えられています。特に,高温,高い基質濃度,低い酵素濃度,激しい撹拌および疎水性容器の使用時に起こりやすく,反応条件を工夫したり,酵素量を増やす
などの対策が必要となります。


shintou   せいち

振盪条件で起こった糖化率の頭打ち現象は,静置条件下では現れません。

 我々の研究室では,遺伝子工学的手法を用いてCBH2の分子構造を改変し,安定性を高める研究を行っています。また,高い基質濃度でも効率良く反応できるように,セルラーゼの分子構造の改良も行っています。
 一方,β-グルコシダーゼの性質を改善する研究については,別のページで紹介しています。


セルラーゼ以外の酵素成分の必要性


 バイオマスは,セルロースの他にヘミセルロースやリグニンを含む複合物です。セルロースの効率的な分解のためには,他の成分(夾雑物)を除去する必要があります。これら成分の一部は,バイオマスの前処理後にも残存する場合が多く,セルロース分解の効率を著しく低下させることが明らかになっています。従って,市販のセルラーゼ製剤には,夾雑物を分解するためにヘミセルラーゼなどの酵素を含有する場合が多く,我々も添加効果がある酵素の探索を行っています。


logo
Copyright @ Nozaki Group All Rights Reserved.