教員紹介

いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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ラスキン・シンポジウム

先週末、7月3日(土)13:30-16:30 東京の中央大学駿河台記念会館にて、
(財)ラスキン文庫主催 2010年度ラスキン・シンポジウムが行われました。
テーマは「中世主義とラスキン、ラファエル前派」。ここに、僕はパネラーの一人として参加しました。


ラスキン文庫は、「日本のティファニー」と呼ばれる<a href="http://www.mikimoto.com/">ミキモト</a>_の創始者御木本幸吉の長男御木本隆三によって収集された、イギリスの芸術批評家・思想家であるジョン・ラスキンの思想研究に関する膨大なコレクションをもとにした私設図書館で、東京・東銀座のひっそりとした路地裏に設けられています。騒がしい銀座・築地界隈の喧噪も、ガラス扉を通って入る小さな書斎風の閲覧室に一歩入るとまったく聞こえなくなります。

何度もメイルによって事前の打ち合わせをしてから臨んだ本番当日。思い出の山の上ホテルでパネル全員が待ち合わせ、昼食を食べながら打ち合わせをします。
4人のパネラーの発表内容は

司会 高宮利行 慶應義塾大学名誉教授
はじめに「中世主義・中世趣味とは」+パネル紹介(10分)

高橋 勇 慶應義塾大学准教授
「中世主義とゴシックの系譜」(20分)

山口恵里子 筑波大学准教授
「ラファエル前派の中世主義とラスキン」(20分)
 ロセッティなどの名前を出さずにくくってしまうのはいかがですか。

伊藤 盡 信州大学准教授
「北欧ゴシックとモリス、ラスキン。そして・・・ラスキンの『秘書』コリングウッド」(20分)

休憩(15分)
パネルからの補足+質疑応答(16:30まで)

全員がppt使用

中世主義とは、英語 mediaevalism の訳語の1つです。Mediaevalism自体は、「中世研究」といった意味も含む広範な概念を表す語彙です。この分野の研究としては欠かすことの出来ない研究書としては、


アリス・チャンドラー著『中世を夢見た人々:イギリス中世主義の系譜』(研究社、1994)
マーク・ジルアード(高宮利行・不破有理共訳)『騎士道とジェントルマン』(三省堂、1986)、
高橋勇著「中世主義の系譜」『中世イギリス文学入門――研究と文献案内』(雄松堂出版、2008)
松田隆美、高橋勇、原田範行共編著『中世主義を超えて――イギリス中世の発明と受容』(慶應義塾大学出版会、2009)

などがdesideratumです。日本でも既にこのような本に基づいて、中世主義に関する研究がなされていることは『中世主義を超えて』を読めば明らかです。

この「中世主義」'mediaevalism' という用語を初めて使った人物こそ、ジョン・ラスキンその人だとされています(OED 'mediaevalism' 参照)。しかしながら、ラスキン文庫でmediaevalismに関するシンポジウムが開かれたことはこれまでなかったということで、今回、英国中世主義の研究を日本で広めた高宮利行慶應義塾大学名誉教授の主宰で初めてシンポジウムが催された次第です。
私の関心はもちろん、その中世主義の中で、中世初期のイングランド、中世北欧がどのような関心を払われたかですが、既にこの分野では欧米には数多くの研究者がおります。日本でも中世初期のイングランドに対する中世主義は、「中世研究」という立場から、高橋勇さんをはじめ、立教大学名誉教授の吉野利弘先生などの研究が主なものとして存在します。けれど、残念ながら、日本国内においてはまだ中世北欧に関連した中世主義の研究は未発達だと言わざるを得ません。私としても手探りながら、初の試みとして、今回研究発表を行うことになりました。

しかし、その手探りの中から、幾つかの重要な研究資料と出逢い、今後の研究にも繋がるような糸口を幾つか見つけることができたのは、大きな収穫でした。

特に、Thomas Percyの『イスランド語から翻訳された5片のルーン詩』(1763年)は、中世アイスランド語で書き残された、10世紀以前に書かれたと思われる韻文を英語に翻訳したもので、小冊子ながら、後に北欧ゴシックと言うべき中世主義の一つの文化的潮流の源流となったものです。
もう一つは、発表の中では結局触れることはほとんどなかったのですが、Samuel Laingのスノッリの『ヘイムスクリングラ』英訳(1844年版)の果たした北欧ゴシックの潮流の中での役割。これについては、リーズ大学のアンドリュー・ウォウン先生が第二版(1889年)の役割を強調しているので、ある意味で、初版こその意味を問い直してみたいのです。

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