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いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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学会 研究

第30回日本アイスランド学会総会・公開講演会

東京の駒澤大学内の駒澤246会館で、第30回の日本アイスランド学会の総会と公開講演会が催されました。

総会では、今年度30周年を迎える学会の記念事業として、翻訳も含めた論文集の刊行をすることが改めて確認されました。
最近、世代交代がいろいろなところで取りざたされますが、この学会では、老いも若きも元気です。

 

「老い」というと、ついマイナスなイメージが思い起こされます。私も上に「老いも若きも」と書いてから、「老い」というのは《失礼》かな、と思ってしまいました。しかし、考えてみると、「老い」には経験による深みや人間としての厚みも含まれるわけで、むしろプラスなのです。
実際、古アイスランド語や古英語の「年老いた」という表現には「賢い」という意味が含まれます。

 

古英語のfrodがその典型で、この語は、『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)の主人公フロド・バギンズの名前の素地になっています。また、古アイスランド語で書かれた王のサガの一つ『イングリンガ・サガ』には、《フロジの平和》とまで謳われた統治期間をもったことで賢い王としての名声を誇るFroði(フロジ)のことが物語られますが、この名前自体に「賢さ」と「年老いた」という意味合いが含まれているのです。

というわけで、30周年記念論文集発刊事業が成功するように祈りたいと思います。

 

今年の公開講演は、同志社大学大学院の伊東未来さんが「13世紀後半のアイスランドにおける地縁関係の重要性」と題する研究発表をなさり、そのあとで、私が「Gosforthの絵画石碑 Fishing Stone とエッダ詩 Hymiskviða: ソールの冒険を古英語話者はどう理解したか」という講演を行いました。

 

伊東未来さんは歴史学の専攻ですが、この分野によく現れるように、文学研究と歴史研究のぎりぎりの線を行っておられ、中世の文献を読む楽しみをよく御存知な部分が出ていた発表でした。『めんどりのソーリルのサガ』と『フレイル神官フラヴンケルのサガ』を扱っていました。
特に、「めんどりのソーリルのサガ」は、私の恩師である故早野勝巳先生も訳された有名なサガ。
また『フラヴンケルのサガ』も、サガ文学を英語国民に大いに広めたサガの人気作品。このようなメジャーな作品は、最近の学会発表ではむしろ敬遠されますから、こうした小さな学会でどんどん扱うべき作品でもあります。

 

数週間前に、現在、アイスランドに留学中の京大の大学院生の方から抜き刷りが送られてきましたが、その扱う時代が同じである伊東未来さんの御発表は興味深く伺えました。今後の研究の広がりや深まりが楽しみです。

 

私の方は、以前ウプサラの国際サガ学会で話した内容に、その後の論文執筆にあたって追加した改訂を踏まえた相変わらずのもの。考古学的史料である英国カンブリアの絵画石碑と北欧神話詩『エッダ』の一つの作品『ヒュミルの歌』をの関係性を探るものでした。

 

いつものように文献学と神話の狭間のぎりぎりの内容でもす。楽しんで戴ければよいと思いましたが、言語学的に難しい事項を扱っているので、果たしてどこまで、ここから突き詰めて議論を進められるかが問題です。

 

北大の清水誠先生が、今度新しく日本アイスランド学会の会長に就任されましたが、アイスランド語やフリジア語といった西北ゲルマン語の御専門の先生ですので、そのことに関するお話もたくさんできると思います。小さな学会ならではの利点で、どんなに偉い先生とも、気軽にお話ができるような雰囲気があるのです。これからのアイスランド学会の発展の期待に、胸がわくわくしています。

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