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いとう つくす

伊藤 盡

英語学 教授

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Scarborough Fair

毎月1回、渋谷で行われるカルチャー・スクール「東急セミナーBE」では、これまで、北欧神話、エルフ語に関する講座を行ってきました。現在は、J. R. R. トールキンの作品の講読を行っています。
いつも心に驚きや感動を覚えるのは、受講生の方々の興味関心の広さや深さ、そして御自身の関心事に注がれる情熱です。

 

最近では、古楽と呼ばれる18世紀以前のクラシック音楽について造詣の深い受講生の方々から、毎回いろいろと教えられることがあります。

特に中世の音楽については、中英語で書かれた詩が伴奏の古楽器とともに歌われる作品なども教わり、僕の専門分野である英語史の授業を面白くするきっかけを頂いたこともありました。

 

前回の講座で、受講生の常連Kさんに紹介されたCD Scarborough Fair は、レアなもので、日本を代表する古楽の奏者である平井満美子さん(ソプラノ)と佐野健二さん(リュート)の演奏が16曲詰まっています。ミワサホームが1992年に出した一連の古楽CDの一枚のようです。

このCDの出た当時は、バブルの最盛期からはじけるまでの時期にあたり、多くの企業が利益を文化事業に還元していた頃です。中には、金にあかせて、というのもあったようですが、こういう質の高いCDや書籍、展覧会が次々と日本中の書棚や店舗に並んだ時代。しかしながら、僕が海外留学中に出たこのCDのことなどは、まったく知りませんでした。

このCDの『レコード芸術』(1992年9月)の評も、当時、留学から戻ってから受講した古楽の授業に、非常勤として御出講なさってらした皆川達夫先生によるものです。

 

平井満美子さんと佐野健二さんのCDで、同様のラインナップのものは、Barbara AllenというタイトルのCDで、現在も入手可能ですが、ミサワホームのCDには、これには入っていない曲が収められていると伺いました。

それが、Meeting at Peterloo というバラッド。

 

これは、1819年8月16日に、マンチェスターのセント・ピーターズ・フィールドで、政府への改革を求めて集まった6〜8万人の中に騎馬警官隊が攻撃をしかけた「ピータールーの虐殺」と称される事件を歌ったものです。
ウィキペディア
によれば、射殺されたのは15名、怪我人は400〜700人と書かれています。『ジーニアス英和大辞典』には、死者は11名とされ、その数字がどこまで正確かはわかりませんが、日本人にはあまり知られていない英国史の大事件の一つです。

 

この曲Meeting at Peterloorの歌詞にはいくつかのバージョンがありますが、いずれにしても、近代以降のバラッドということになります。

 

けれど、曲、つまり音楽となりますと、バラッド特有の旋律で、中世あるいはルネサンス期から続いたものに違いないと思われます。佐野健二さんのリュートも平井満美子さんの歌声も、その趣がたっぷりです。

つまり、いつの世も、曲は時代を越えて受け継がれつつも、歌詞の方は少しずつ変化したり、替え歌として新しく歌い継がれるということがある、ということなのです。

 

もっとも、それと正反対の場合もあり、歌詞は生き続けるけれど、それにつける曲が、時代や地域によって異なるという歌もあります。

 

いわゆるマザー・グースと呼ばれるnursery rhymesにもそういうものがあり、私の大好きなSing a Song of Six PenceやWho Killed Cook-Robin、Incy Wiincy Spiderなどが有名です。そういう場合は、曲よりも歌詞だけで口ずさまれることも多く、英語話者が「詩」というものを普通の会話や新聞・雑誌記事の中に入れ込む背景にそういうことがあることも、英語学習者として知っておくべきことでしょう。

平井満美子さんと佐野健二さんのCDの中の表題曲Scarborough Fairもその例にあたります。この題名はなんといってもSimon and Garfunkelの歌と演奏のハーモニーで有名ですが、旋律をイングランドの伝統のものに載せた平井満美子さんの歌は、心になんとも言えない懐かしさを抱かせる気がします。

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