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いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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北欧神話 研究

グレンベック『北欧神話と伝説』(改)

ひさしぶりに、ずっと以前から入っていた日本の北欧神話関係のアマチュア研究者たちのメイリングリストから連絡があったと思ったら、驚くべき嬉しいニュースが舞い込みました。

あのグレンベック著、山室静訳の『北欧神話と伝説』(新潮社、昭和46年)が、講談社学術文庫から復刊された、とのことです。

この名著/名訳こそ、日本で熱心な北欧神話ファンを数多く生みだした、まさに入門書の中の入門書です。

たとえば、北欧神話の雷神をソール(Þórr)と言わずトール(Tor)という日本人が多かったりします。
同じことはオージン(Óðinn)、フレイル(Freyr)、ニョルズル(Njörðr)といった主要な神々がオーディン、フレイ、ニヨルドと多くの日本人に呼ばれるのも、この本の影響がいかに大きかったかを物語ります。

僕自身にとっても、最初はこの本で大いに北欧神話についてのイメージが作られました。
有名な世界創世神話では巨人の身体からこの世界がつくられたこと、雷神ソールの冒険や、伝説の王たちの戦い、そしてこの世の終わりとされるラグナロクに至る有名な事象はこれ一冊であらましを知ることができます。

原著はデンマーク語ですが、デンマーク語からカナに直すのは大変で、これについては元日本アイスランド学会の会員である、大阪大学(元大阪外国語大 学)の新谷俊裕先生が間瀬英夫先生とともに『デンマーク語音のカナ転記方法の研究』にまとめていますが、それにしても難しいことです。

グレンベックの本では「スギョルド王家」とデンマーク語からの仮名書きがされているデンマーク中興の王家が、古北欧語ではスキョルドル (Skjöldr)、古英語ではシュルド(Scyld)とするということを学んで、表記を統一することを夢見たのも、研究者となったばかりのまだお尻の青 い頃でした。

今では、それぞれの言葉で書かれたものをそれぞれが仮名書きにしてもよいと鷹揚に考えるようになりました。名前の読みが幾つもあるけれど、それはどれも同じものを指していることさえ判ればよいのです。

その後の研究生活の中で、いろいろと修正はしましたが、私もかつてはオージンを「オウジン」と書いたり、ソールを「ソゥル」と書くなど試みましたが、どうも、日本人には合わないようです。

いずれにしても、山室静訳の名文で久々に読むグレンベックは、日本人にとって如何に北欧神話が魅力的なのかを改めて考える機会となりました。そうです。この山室静さんの日本語こそが、多くの日本人を中世北欧、古代北欧へと誘ったのだと再確認しました。
こういう名翻訳者がいてこそ、日本の文化は育つのだな、と今さらながら思う夜です。

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