教員紹介

いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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学会 研究

日本アイスランド学会 その後

日本アイスランド学会が在日アイスランド大使館で開かれ、その後の懇親会で
久しぶりに逢う全国からの研究者の方々と、情報交換とよもやまばなしに花が咲きました。

今回のアイスランド学会の総会では、大学院生の会費がこれまでの半額の2,500円(年間)になるということが決議され、これから更に若い研究者が参加してくれることを期待する想いが溢れていました。

その一方で、清水誠先生の、近代アイスランド文学を網羅的に展望する講演は、その膨大な情報に加えて、清水先生の流暢なアイスランド語詩の朗読で、場内は圧倒されました。
清水先生は、比較言語学、歴史言語学、文学、さらに文化的な様々な角度から言語を総体的に捉えていらっしゃることがとてもよくわかりました。言語研究の理想のかたちのです。

ウルヴァルの研究発表は、彼の長年の研究テーマであるストゥルルンガ・サガ(ストゥルラの一族のサガ)の中で、中心的な話『ストゥルル・サガ(ストゥルラのサガ)』を扱いました。
これまでの研究者の見解としては、このサガは読みにくく、統一がとれていないというものが目立っていましたが、イギリスの中世イギリス・北欧文学の碩学W・P・ケアが、実はストゥルル・サガについて、

秩序だって書かれ、同時に生き生きとした描写で、話の流れに統一感がある。

という、かなり肯定的な見解を示していたことが紹介されました。ケアの名前は古英語研究者ならば誰でも聞いたことがあり、著作もかなり読まれているのですが、私も含めて、彼の代表的な著作 『叙事詩とロマンス(Epic and Romance)』の中にそのようなことが書かれていたとはその場の日本研究者の誰も気付いておりませんでした。

その一方で、ストゥルラの人物描写が「アンチ・ヒーロー」であって、そこが鍵となってサガ全体が構成されている、というウルヴァルの見解は、それまでストゥルラの一族のサガを、歴史学の一資料にしか過ぎず、言語的にも難解で、文学的価値はさらに低いなどという先入観を抱いていた日本人研究者にとって衝撃的な内容でした。トリックスターとして北欧神話の主神オージンをウルヴァルが取り上げたことも、北欧神話のトリックスターといえば、故水野知昭教授によるロキの研究を先ず念頭に置く我々日本人研究者にとって新鮮でした。今後の日本におけるストゥルルンガ・サガへの評価が高まるように思われます。

以上のような意味でも、今回の総会+講演会はとても意義深い開催であったと思います。

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