思い切って一歩進みましょう
谷口 建人さん
理学部物理科学科
留学期間:2016年7月 ~ 2017年5月
留学先:インド工科大学マドラス校
留学先大学について
私が留学したインド工科大学は、インド各地にキャンパスを持ち、その中のチェンナイ(旧マドラス)キャンパスに一年弱滞在しました。キャンパスは自然公園の中に建てられているため、ジャングルの中に各種大学施設が位置しており、インドで一番おかしなキャンパスを自称する大学が誇る豊かな自然と、そこに住む野生動物達が単調な大学生活にスパイスを与えてくれました。チェンナイはインド南部に位置するため、時には気温が40度を超すこともありましたが、森の木が作る影が、熱気を軽減してくれていました。インド工科大学のキャンパスはインド全土に点在しているのですが、南部には2か所にしかありません。そのため、マドラス校では南部全体から母国語が異なる学生が集まることとなり、必要的に学内では授業も日常会話も全てが英語で行われていました。そのこともあってか、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリアやカナダから多くの交換留学生が来ており、インドで最も国際的なキャンパスと言われていました。特にドイツ人の留学生は非常に多く、交換留学生全体の8割がドイツ人でした。インドと聞けば治安が悪いイメージですが、 実際に行ってみるとその通りだと直ちに納得しました。しかし、キャンパスは一般人が入れないようになっており、有刺鉄線付の高い壁がキャンパスを取り囲んでいるために内部は比較的安全でした。とはいっても、全ての窓に空き巣防止用の鉄格子がはめ込まれていたので、流石に日本ほど安全ではないようでした。
学習面について
授業は毎日朝8時から始まり、1講義は50分で区切られています。そのため、50分の授業を週に何度か受けて、週全体で150分や200分授業を一講義当たりに受けることになります。授業内容は非常に高度でした。というのも、インド工科大学はインド最高峰の教育機関に当たるため、入学してくる生徒は既にテンソルや流体力学の基礎知識を持って入試を突破しているからです。なので、この大学の学部生は3年次に既に大学院レベルの勉強をしている生徒も少なくありませんでした。このおかげで、大学に属する学生は交換留学生も含めて好きな学部から好きな授業を受けることができたので、私の専門の物理に関する大学院生用の授業を受けてみたのですが、同じ授業を受けている学部生の数に驚いてしましました。授業は英語で行われていたのですが、インド訛りの英語は理解することが難しく、最初は苦戦しました。授業中に教授が何を言っているかわからなかったので、隣の席に座っていたインド人の学生に「何を話しているかわかる?」と聞いたところ、その人もわからないと言っていました。インド訛りと言っても、インド自体が多くの国からなる合衆国なので、地域によって話される言語が違うため、インド人でさえ他の地域から来たインド人の喋る英語はわからない時があるそうです。彼らのすごいところは、学期後半には教授の英語に順応していたことですが。大学構内には図書館があり、そこで勉強することも可能なのですが、インドの学生は各寮に設置された特別室にテスト前は3,4日籠って、食事、睡眠と勉強しかしない時もありました。そんな彼らも、テスト後には人が変わったかのようにクリケットやダンスを楽しみ、健康的にストレス解消をしていまし た。
生活について
インド工科大学の朝は早く、朝8時から授業が始まります。キャンパス内にはヒマラヤという名前の食堂があり、そこで朝食を済ませてから授業に向かいます。余談ですが、各寮の名前はインドの川の名前に統一されています。なので、川がヒマラヤ山脈で合流するように、学生たちも食堂で合流するという意味が込められているらしいです。インドでは 物価がとても安く、キャンパス内では1食60円でお腹いっぱい食べることも可能でした。 授業を終えると図書館に向かうのが日課でした。授業が難しかったのと、喫茶店に近かったのが主な理由です。午後4時頃になると、交換留学生達が喫茶店に集まり始めます。彼らにはコーヒーブレイクが一日で欠かせないといった具合に、毎日毎日決まった時間に同じ場所に集まって、授業やそれぞれの国のことを話しあいながらコーヒーを飲みました。たまにチャイも飲みました。彼らとは学期後一緒に旅行するほど仲良くなり、その旅行するグループ名は Chaikuza(チャイ+ヤクザ)でした(笑)。インド式結婚式に出席したこ ともありました。友達の妹が結婚するということで招待されたのですが、その友達の地元がとてつもなく田舎だったため、インドの田舎の暮らしを体験できました。皆さん親切で優しく、インド式おもてなしは相変わらず強烈でした。
留学で得たこと
私は物理科学科に所属しているのですが、あちらの大学では好きに授業を取ることが出来たので、電気工学を主に勉強しました。また、インドと言えば数学ということで、集合論にも取り組みました。これらの知識に加えて、少しクサイですが、良い友達にもめぐりあうことが出来ました。一緒にインドに留学している留学生の間には、違う国に住むという共通点があるためか、何か仲間意識みたいなものがあったので、いつも一緒に行動していました。そして、何よりインドで1年過ごしたことにより、この先どんな国でも暮らせるという勇気や自信を得ることが出来ました。辛いこともありましたが、考え方を変えることによって人を許すことを学び、社会に順応することが出来るようになったかなと思います。
後輩へのアドバイス・知の森基金へ一言
留学をしない理由を探すことは簡単です。しかし、留学先で何が起こるかを留学経験もない状態で予測し、留学しないという決断を下すのは、あまりにも多くの可能性を潰しているように感じます。量子物理学者であるスコットアランソンさんが、「人類が科学において実験を行わなければならないのは、我々が十分賢くないからだ。」と言ったように、 実際に行くまで本当のことはわからないのだと思います。なので、後輩達にはしない理由よりもする理由を探すように、アドバイスしたいと思います。
最後に、多額の奨学金を給付してくださって知の森基金様へ、感謝の意を述べたいと思います。海外に行く後押しをしてくださり、本当にありがとうございました。