2025年 秋・イタリア 「「異分野融合」で挑んだ3ヶ月:イタリア・トリエステでの挑戦」(基礎研究)
氏名:伊達 雄星
派遣先:イタリア トリエステ大学
期間:2025年9月~2025年11月
留学先大学について:
私が留学でお世話になった研究室は、トリエステ大学と連携する小児専門病院「Burlo Garofolo」にあります。イタリア北東部の港町トリエステに位置する「IRCCS Burlo Garofolo」は、イタリア国内でも有数の小児専門研究病院であり、最新の医療設備と研究施設を備えています。ここは単なる病院ではなく、臨床と基礎研究が密接に連携する「トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)」の拠点で、トリエステ周辺地域では小児病院の中核を担う存在です。
学習面について:
私の配属先は、細胞培養や遺伝子解析を主とする、いわゆる「Wet(実験系)」の研究室でした。しかし、私は研究室の状況と、自身の学習背景から、独学で学んできた「データサイエンス(Dry系)」を用いた研究アプローチを提案しました。
具体的には、小児全身性エリテマトーデス(SLE)という希少疾患のデータサンプルの新たな合成方法の提案と、診断モデルの構築に取り組みました。希少疾患の研究において最大の壁となる「検体数の少なさ」を克服するため、統計学的手法(Gaussian Copula SMA)を用いて、限られた臨床データから生物学的な相関を保ったままデータを拡張する新たな手法を導入しました。
その結果、従来の機械学習モデルと比較して診断感度を1.67倍に向上させることに成功し、さらにはAIの判断根拠(SHAP値)が実際の病態生理(インターフェロン経路の活性化)と合致していることも証明できました。実験主体のラボで計算科学のアプローチを提案することは勇気がいりましたが、研究室の方々は興味を持ってくださり、自由にこの研究を行うことができました。この研究成果によって「データサイエンスが実際の臨床課題を解決しうる」ことを実証でき、教授からも今後の研究の新たな方向性として高く評価していただきました。
生活について:
イタリアの研究生活で特に印象的だったのは、「コーヒーブレイク」の文化です。一見、単なる休憩に見えますが、実はここが最も重要なコミュニケーションの場でした。研究に行き詰まった時の相談や、互いの文化についての議論など、エスプレッソを片手に交わされる会話が、チームの一員としての信頼関係を築く鍵となりました。語学力への不安はありましたが、「流暢に話すこと」よりも「相手にわかるように片言の英語でも伝えようとする姿勢を示す」方が、相手の心に響くのだと実感しました。
留学で得たもの:自己を切り拓くマインドセット
今回の留学で得た最大の収穫は、「未知の環境で、ゼロから成果を出す経験」です。専門外の環境で、母国語ではない言語を使い、自ら課題を見つけて解決策を提案する。このプロセスは決して楽ではありませんでしたが、それをやり遂げたという事実は、将来の自分のキャリアに対する自信を与えてくれました。
今回の留学で、研究内容を考え、先行研究を探し、そこから新たなアプローチや予測をもとに解析方法やその妥当性の評価を考えるのは、非常に骨の折れる作業でした。しかし、この経験は今後研究に従事するときに大きく活きることは間違いありません。
異文化の土地であるからこそ強く起こる、環境への適応や不安感は、自分で考え、自分で行動することの大切さ、そして自分の意見をはっきりと伝えることの重要性を教えてくれました。「整えられた環境で学ぶ」だけでなく、「自ら環境を切り拓く」というマインドセットへの変化こそが、留学の真価だと感じています。
後輩へのアドバイス、奨学金システムへ一言:
「英語に自信がないから」「研究経験が浅いから」と躊躇している人がいれば、ぜひ一歩踏み出してみてください。完璧である必要はありません。重要なのは、自分の興味やスキルをどう活かすか考え、行動に移す「主体性」です。現地の先生方は、学生の挑戦を温かく、かつ対等に受け入れてくれます。この3ヶ月間は、単なる思い出作りではなく、医師としてのキャリア観を大きく広げる転換点になるはずです。もし興味があれば、まずは国際交流室のドアを叩いてみてください。
最後になりますが、留学にあたりご支援くださった田中教授、国際交流推進室や学務の皆様、松医会の皆様に心より御礼申し上げます。
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ラボの方々との交流 -
研究の風景(コーディングの様子) -
研究の風景(細胞の培地交換) -
イタリアの友人との食事の風景