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世界初「電気をよく流す結晶性硫黄原子鎖」創製の成功を発表

13年08月13日

模型をもとに説明を行う、招聘研究者の金子克美特別特任教授と藤森利彦准教授

模型をもとに説明を行う、招聘研究者の金子克美特別特任教授(右)と藤森利彦准教授

 信州大学「エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクト拠点」の金子チームが、世界で初めて、金属的機能を持つ硫黄原子ワイヤーをカーボンナノチューブ中で創製することに成功、平成25年8月12日松本キャンパス法人本部で記者会見を行いました。硫黄は資源的な豊富さもあり、新たな産業応用への期待も大いに膨らんでいます。

記者会見

記者会見では多くの質問が寄せられました。


(以下、発表資料より)
 硫黄はかつて我が国で多量に産出していたが、最近では石油の脱硫によって生産され、硫酸の製造以外にも合成繊維、医薬品、農薬、火薬、タイヤの製造などに使われている。しかし、硫黄を含んだ石炭あるいは石油を燃焼させると、二酸化硫黄を大気中に放出して酸性雨の原因になる。また硫黄は触媒の能力を劣化させる作用があるなどのために、硫黄にはあまり良いイメージがない。このために優れた特性のある硫黄を作り出せると、資源的にも豊富であるために新たな産業応用への期待が膨らむ。


硫黄の同素体と金属ワイヤー

図1. 従来からしられている硫黄の同素体(左)と本研究から明らかになった硫黄の金属ワイヤー(右)


 硫黄原子は約0.4ナノメートルの大きさであり、普通の固体状硫黄は8個の硫黄原子がリング状に繋がった閉じた構造からできており、電気を流さない。信州大学ENCsの研究グループは、硫黄原子を真空中で蒸発させてカーボンナノチューブの1ナノメートル程度の円筒空間中に導入して、硫黄原子が鎖状に1次元に並んだ構造を作り上げた(図1)。


硫黄の直線状、ジグザグ状、一次元結晶の電子顕微鏡写真

図2. カーボンナノチューブ空間中で形成された硫黄の直線状(左)およびジグザグ状(右)一次元結晶の電子顕微鏡写真


 電子顕微鏡で硫黄原子の並び方を観察すると、硫黄原子の鎖は少し大きめのナノチューブ空間中ではジグザグ状に繋がり、小さいチューブ空間中では完全に直線状である(図2)。この硫黄原子鎖の長さは今のところ0.1 マイクロメートル程度であるが、明瞭なX線回折現象がみられる。従って、ここで得られた硫黄原子が1次元状に繋がった鎖は良好な"結晶"ということができる。原子の1次元の規則的な繰り返し構造によるX線回折の観測は、この例が世界で初めてである。この完全に1次元の硫黄原子鎖からなる結晶は電気をよく流す金属である。ナノチューブもよく電気を流すが、1次元硫黄原子鎖が閉じ込められているナノチューブの電気伝導性は更に優れている。従来の研究によると、90万気圧以上の高圧下で1次元の硫黄原子鎖が二次元的にネットワークを組んで金属になる。従ってカーボンナノチューブに大気圧以下で硫黄を閉じ込めると、90万気圧の超高圧圧縮を必要とせずに、大気圧でも硫黄を導電化することが可能となる。また、この1次元硫黄原子鎖結晶はナノチューブに入っていると、空気中で300℃まで安定である。今後、完全1次元硫黄鎖は物理学および化学からも新たな領域創成の可能性があるとともに、ナノ導線やエネルギー貯蔵への応用だけでなく、全く新たな世界が開かれると期待できる。


本研究はNature Communications
(4巻, 論文番号2162, DOI: 10.1038/ncomms3162、 2013年、7月12日発行)
に発表された(下図:Web上で公開された研究イメージ図)。

研究イメージ図

 本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構、地域卓越研究者戦略的結集プログラム、エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用による研究の成果である。


共同研究者一覧
藤森利彦・Aarón Morelos-Gómez, Zhen Zhu, 村松寛之・二村竜祐・瓜田好幾・Mauricio Terrones・林卓哉・遠藤守信・Sang Young Hong・Young Chul Chio・David Tománek・金子克美